第17話:縄張りの形
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『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』
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リトは記号を見続けた。
甲羅の裏面に刻まれた記号だった。道具で刻んだ跡だ。線が三本、交差している。右上に小さな丸がある。単純な形だが、どこかで見た形だった。
どこで見たか。
すぐに分かった。
父の手首だった。
父の手首に刻まれた焼印と、同じ形だった。母の首筋にある焼印も、同じだった。リトは子供の頃から何度も見ていた。見慣れた形だった。見慣れすぎて、意味を考えたことがなかった。
その形が、岩甲亀の甲羅の裏にあった。
宿場町の主人の声が頭に戻ってきた。
大領主は縄張りの境界に魔物を放ち、その身体に印を刻んで所有を示す。
あの話を聞いたとき、リトは地図の赤い丸を思った。あそこには何かがある、と思った。だが今は違う意味で地図を思った。
リトは地図を広げた。
現在地を確認した。岩甲亀がいた森の位置を確認した。東の城までの距離を測った。
岩甲亀はここにいた。ここより東に、同じ印を持つ魔物がいるかもしれない。いるとすれば、ここから東全体が大領主の縄張りだ。
父母の焼印と同じ記号。
同じ記号を持つ魔物が、城の手前の森にいた。
ということは。
父母はこの領主の所有物だった。
所有物。
その言葉がリトの中に入ってきた瞬間、何かが変わった。
今まで何を考えていたのかを、リトは整理した。父母を取り戻しに行く。父母がいる城まで行く。連れ帰る。それがこの旅の目的だった。物を返してもらいに行くような感覚があった。奪われたものを取り戻しに行く感覚だ。
だが所有物という言葉が入ってきたとき、その感覚が変わった。
物を返してもらいに行くのと、人を奪い返しに行くのは、違う。
違いは小さいように見えた。どちらも取り戻しに行くことに変わりはない。だが全然違った。
物なら値段がある。値段があれば交渉できる。この値段を払うから返してくれ、と言える。だが人は値段がない。値段がないものは交渉できない。交渉する必要がない。交渉するものじゃない。
奪い返しに行く。それだけだ。
リトはスリングを手に取った。
革紐の感触を確かめた。何度も使ってきた革紐だ。端が少し擦り切れている。結び目が三箇所ある。どれも父が作った結び目だった。
このスリングを作るとき、父は革紐の長さを何度も調整した。リトの腕の長さに合わせて、少し短くした。少しだけじゃ足りないと言って、もう少し短くした。回したとき、重心がぶれないように石受けの形を変えた。それを三回やり直した。
「小さくても、狙える」と父は言った。「お前ならできる」
その言葉を刷り込みながら、革紐を調整していた。
その手が今、鎖に繋がれている。
リトはスリングを腰に戻した。
「行こう」と言った。
ミラもルカも、今回は確認しなかった。
ミラが立ち上がった。ルカが荷物を背負った。三人は東へ歩き始めた。
昼を過ぎた頃、道が開けた。
草地が広くなって、街道が見えた。街道を使わずに並行して歩いていたが、地形の関係で街道に近い場所を通らなければならない場所があった。
ミラが先に気づいた。
「荷馬車が来る」と言った。「東から西へ向かってる。速い」
リトは草地に伏せた。ミラとルカも伏せた。
荷馬車が見えた。馬が二頭引いていた。速度が出ていた。荷台が揺れていた。御者が馬を急かしていた。急いでいる様子だった。
荷馬車が目の前を通り過ぎた。
荷台の板の隙間から、何かが見えた。細い。白い。
腕だった。
細い腕が、隙間から覗いていた。一瞬だけ見えて、消えた。荷馬車が通り過ぎた。蹄の音が遠ざかった。
ミラが言った。
「小人がいた」
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