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食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第2章:焼印の国

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第14話:追跡者

お読みいただきありがとうございます。

『食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す』

今回もよろしくお願いします。

 町を出たのは夜明けだった。

 街道に人影はなかった。空気が冷たかった。リトは地図を確認してから袋を背負い直した。宿場町の東端を抜けて、街道に出た。

 十歩も歩かないうちに、リトの耳が鳴った。

 後ろだ。

 振り返る前に声がした。

 「止まれ」

 人間の声だった。低くて太い。振り返ると、二人が立っていた。宿の出口から出てきたのではなかった。路地の影に最初からいたのだ。

 一人は大きな人間だった。長剣を腰に吊っている。体格がいい。走れば速い。

 もう一人は小人だった。

 リトと同じくらいの背丈。七十センチはある。腰に短剣を二本吊っていた。手首に焼印があった。だが首輪はない。目が鋭かった。追跡に慣れた目だ。

 「大領主の名において、身柄を確保する」と人間が言った。

 リトは二人の距離を測った。十メートル。スリングを回す時間はある。だが人間を倒しても、小人が残る。小人は速い。逃げながら相手にするのは消耗が大きい。今の熱量では二人同時は避けたい。

 「走れ」とリトは言った。


 三人は東へ走った。

 後ろから足音が来た。人間の追跡者の靴音が重い。小人の追跡者の足音が速い。小人の方が速かった。

 路地に入った。細い。大きな人間には走りにくい。だが小人には関係ない。

 ミラが走りながら叫んだ。「右の路地、抜けられる」

 リトは前を見ていた。右の路地はまだ見えなかった。ミラの目が先を読んでいた。

 「行け」とリトは言った。

 三人は右へ折れた。細い路地が続いた。突き当たりに壁が見えた。行き止まりに見えた。だが壁の手前に左への折れ目があった。ミラが「左」と言った。折れた。抜けられた。

 後ろで人間の追跡者が壁にぶつかる音がした。速度が落ちた。

 小人の追跡者はまだついてきていた。

 ルカが「俺が抑える」と言った。

 「いい」とリトは言いかけた。

 ルカはすでに振り返っていた。走ってきた路地に向かって体を張った。右腕を壁に当てて通路を塞いだ。小人の追跡者が来た。ルカを避けようとした。ルカが体ごとぶつかった。二人が壁に叩きつけられた。

 その間にリトが止まった。

 人間の追跡者が路地の角を曲がってきた。長剣を抜いていた。リトはスリングを回した。石が剣の柄を打った。剣が石畳に落ちた。男が手首を抱えた。拾えない。走れない。

 小人の追跡者がルカを押しのけて走り出した。ルカの腕に短剣が触れた。薄く切れた音がした。

 「ルカ」とミラが言った。

 「平気だ」とルカが言った。走り続けた。


 町の東端を抜けた先に、古い倉庫があった。

 三人は裏へ回った。壁と壁の間の隙間に入った。大きな人間は入れない幅だ。小人の追跡者なら入れる。リトはスリングを構えたまま入口を見た。

 小人の追跡者が来た。

 隙間の入口で止まった。中を見た。リトを見た。スリングを見た。

 入ってこなかった。

 二人は向き合ったまま、数秒あった。

 追跡者が口を開いた。「お前たちも同じにならないか」

 リトは何も言わなかった。

 「情報を渡せばいい。今まで何を見た、何を聞いた。それだけでいい。このまま見逃してやる」

 リトはその声を聞いていた。

 同じ言葉だった。

 ガストが廃屋で言ったのと同じ構造の言葉だ。裏切れ。そうすれば助けてやる。この社会が人に覚えさせる、生き延びるための言葉。ガストはその言葉を使った。この追跡者も使っている。二人は違う場所にいて、違う立場にいて、同じ言葉を知っている。

 それがこの社会の深さだとリトは思った。

 リトはスリングを追跡者の足元に向けた。

 「断る」と言った。「でも殺さない。次に会ったら容赦しない」

 石を放った。追跡者の足元の石畳が砕けた。

 追跡者が一歩下がった。その一歩でもう距離ができた。

 「行くぞ」とリトは言った。

 三人は隙間の反対側へ抜けた。追跡者は追ってこなかった。


 町から離れた草地で、三人は止まった。

 追跡者の気配はなかった。人間の追跡者は剣を失っている。小人の追跡者は——来ていない。

 リトは息を整えた。

 走りながらずっと考えていたことがあった。

 なぜ殺さなかったのか。

 熱が足りなかったわけではない。足元を撃った後でも、まだ余裕があった。殺そうと思えばできた。

 違う。殺す理由がなかった。

 あの追跡者は焼印を持っていた。焼印を持って、大領主に情報を売って、その見返りに自由を得ている。それがあの追跡者の生き方だ。この社会の中で生き延びるために選んだ道だ。

 それを俺が裁く権利は、ない。

 「今じゃない」と「今だ」の間に判断がある。その判断の中に、もう一つの軸ができ始めていた。

 裁かない、という軸が。


 ルカが右腕を左手で抑えていた。

 「見せろ」とリトは言った。

 ルカが腕をずらした。袖に薄く血が滲んでいた。長くはない。深くもない。かすり傷だった。だが刃が届いていた。

 「消毒する」とミラが袋を開けた。

 ルカが「平気だ」と言った。ミラは聞かなかった。布に水を含ませて傷を拭いた。ルカが少し顔をしかめた。

 「俺、もっと速く動けたら良かった」とルカが言った。「あいつを抑えながら刃を避けられなかった」

 ミラが「私も、もっと早く言えてたら」と続けた。「路地の読み方が遅かった。もう少し早く言えてれば、ルカが無理しなかった」

 リトは二人を見た。

 傷の手当てをするミラと、されているルカを見た。

 「十分だった」とリトは言った。

 二人が顔を上げた。

 リトはそれ以上言わなかった。食料袋を開けて、干し肉を取り出した。ルカに向かって投げた。

 「食え。今夜、全部食え」

 ルカが干し肉を受け取った。「全部って、どのくらい」

 「持てるだけ全部だ」

 「それ、意味があるのか」

 「ある」とリトは言った。「たぶん」

 ルカが干し肉を見た。それから食べ始めた。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もよろしくお願いします。

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