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食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第2章:焼印の国

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第12話:東街道の初日

第2章スタートです。

両親を取り戻すため、リトは新たな一歩を踏み出します。

よろしくお願いします。

 夜明け前に城壁を出た。

 空はまだ藍色で、東の地平線だけが白く滲んでいた。草地に朝露が降りていて、リトの足首まである草の葉が冷たく濡れていた。三十センチの体には、草一本一本が障害物になる。足を上げて、下ろして、また上げる。ミラとルカの足音が後ろに続いていた。

 リトは地図を広げた。

 城下町から東へ伸びる街道。宿場町が点在している。最初の宿場町まで、歩いて二日。次が三日。その先に、赤い丸がある。父が地図に描いた印だ。何度見ても、赤い丸はそこにある。消えない。

 「どのくらいかかる」とルカが聞いた。

 「宿場町まで二日。そこから先は分からない」

 「分からないのか」

 「地図にないものは分からない」

 ルカが黙った。それ以上聞かなかった。

 草地が終わると、街道に出た。踏み固められた土の道が、東へまっすぐ伸びている。幅は広い。大きな人間の荷馬車が二台すれ違えるくらいの幅がある。

 その瞬間、ミラとルカが同時に端へ寄った。

 道の端、草が生えている境目のすぐ手前。二人とも無言で、迷いなく動いていた。考えて動いたのではなかった。体が先に動いていた。

 リトは二人を見た。

 言葉が出かかった。退くな、と。

 止まった。

 退くな、と言ったとして、何が変わる。命令したとして、次に荷馬車が来たとき、二人の体はまた端へ寄るだろう。それは命令で変えられるものじゃない。長い時間をかけて体に刷り込まれたものだ。

 リトは言い直した。

 「今じゃないと思ったときじゃなくて、今だと思ったときだけ退け。自分で決めろ」

 ミラが振り返った。「どうやって分かるの、今かどうか」

 リトは少し考えた。答えを持っていなかった。

 「分からなくても動いてみる。それだけだ」

 ミラが何か言いかけて、やめた。ルカは黙って前を見ていた。

 三人は街道を歩いた。


 昼を過ぎた頃、荷馬車が一台来た。

 後ろから蹄の音が聞こえた時、ミラが先に端へ寄りかけた。足が止まった。ルカも止まった。二人は荷馬車を見た。荷馬車は速度を落とさなかった。御者は前を向いていた。

 リトは道の真ん中に立ったまま、荷馬車が近づくのを見ていた。荷馬車はリトを避けた。

 ミラが「……今じゃなかった」と言った。

 「そういうことだ」とリトは言った。

 午後、街道を外れて草地の中を歩いた。大きな人間の目を避けるためだ。草地の方が移動は遅くなるが、見つかるよりいい。


 その草地を歩いていたとき、リトの耳が何かを拾った。

 止まった。

 「どうした」とルカが言った。

 リトは片手を上げた。静止の合図だ。二人が止まった。

 耳を澄ます。風の音。草の音。虫の音。その向こうに、人の声がする。街道の方角だ。まだ見えない距離にある。複数の声。一つは怒鳴っている。もう一つは低い。押し殺したような声だ。

 ミラが「何かあるの」と小声で言った。

 「声がする。街道の方だ」

 「何の声」

 「怒鳴っている。もう一つは——」

 リトは聞いた。もう一つの声は、低くて小さい。大きな人間の声じゃない。

 「小人だ」

 三人は顔を見合わせた。ミラの目が、リトを見た。何かを聞こうとしていた。

 リトはすでに街道の方角へ歩き出していた。

 草をかき分けて進む。声が大きくなってくる。怒鳴り声が聞こえる。何かを命令している声だ。もう一方の声は、もう聞こえなかった。

 草地が途切れた。

 街道に荷馬車が一台、止まっていた。

 馬が繋がれたまま、動かない。荷馬車の周囲に人間が四人いた。腰に剣を吊っている。革鎧を着ている者もいた。四人とも大きな人間で、荷馬車の荷台を囲むように立っていた。

 荷台に鍵がかかっていた。

 厚い木の板で作られた荷台だ。隙間から光が差し込んでいない。中が見えない。だが、リトの耳が拾っていた。

 微かな気配がする。

 息をひそめた気配が、複数。

 小人だ。

 リトの手が、腰のスリングを取っていた。

 「行くか行かないか」と二人に言った。

 言い終わる前に、もう動き出していた。


 その夜、街道から離れた草地の中に三人は隠れた。

 火は焚かなかった。煙が見える。光が見える。火は使えない。干し肉を口に入れて、水を飲んだ。それだけが食事だった。

 ルカが空を見上げながら言った。「俺たち、どこまで行けるんだろうな」

 独り言みたいな声だった。答えを求めているのかどうかも分からなかった。

 リトは地図を見ていた。暗くてほとんど見えなかったが、赤い丸の場所は分かっていた。何度も見ていたから、目を閉じても見える。

 「そこまで」とリトは言った。

 ルカが黙った。

 炎のない夜だった。遠くで虫が鳴いていた。草地が風に揺れる音がした。三人の息遣いだけが、近かった。


第2章が始まりました。

ここからは旅と仲間、そして焼印の謎に少しずつ迫っていきます。

第1章とは少し違う雰囲気になりますが、リトたちの成長を楽しんでいただけたら嬉しいです。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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