↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べるほど強くなる小人の俺は、巨人に支配された世界を物理でぶち壊す  作者: 紡木 綸
第1章:腹の底の熱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/34

第11話:吐くまで食う

第1章最終話です。


リトたちの逃避行は、一つの区切りを迎えます。


よろしくお願いします。

街を出た。

夜の裏通りを、三人で走った。石畳の継ぎ目を縫って、荷車の陰をすり抜けて、人気のない路地を選んで進んだ。俺が先頭で神耳を張る。ミラがルカの手を引く。追ってくる足音はなかった。

城門の搬入口——荷物の出し入れに使う小さな扉が、夜中は内側から掛け金一本で閉まっているだけだった。俺が隙間から掛け金を外した。三人で外に出た。

城壁の外は、草の匂いがした。

森とは違う匂いだ。乾いていた。広かった。見上げると、星が多かった。街の中では見えなかった星が、ここからは見えた。


城壁から十分ほど歩いたところに、廃小屋があった。

農具でも置いていたのか、石造りの小さな建物で、屋根に穴が開いていた。でも風は防げた。三人で中に入った。

「食料を出せ」

俺は言った。

ミラが背嚢を下ろした。乾し肉と、干し果物と、硬いパンが出てきた。

「全部か」

「全部」

俺はそれを受け取った。

「食べる。全部」

ミラが俺を見た。「あたしたちの分は」

「後で狩る。俺が取ってくる。今夜は全部食う」

ミラは少し黙った。ルカを見た。ルカが頷いた。

俺は食べ始めた。

乾し肉から先に食べた。硬かった。森で仕留めた獣の肉を乾かしたものじゃない。市場で買ったもので、獣臭さが薄い。でも噛むたびに、腹の奥に熱が灯った。

小さく。弱く。でも確かに。

また一切れ。また一切れ。

熱が増えていく。指先に感覚が戻ってくる。さっきまで遠かった足先が、また自分のものになってくる。

父さんの顔が浮かんだ。

引かれながら、笑っていた。

なぜ笑えるんだ、と思った。引きずられながら、腕を掴まれながら、それでも俺に向かって笑っていた。悲しそうじゃなかった。怖そうでもなかった。何かを成し遂げた人間みたいに、笑っていた。

あの笑いが何だったのか、まだ分からない。

ただ、言葉だけが残っていた。

食べろよ。ちゃんと、食べろよ。

俺は噛んだ。飲み込んだ。また食べた。

吐き気が来た。悲しいのか、悔しいのか、怒っているのか、分からなかった。全部が一度に来ていた。全部をまとめて、食べた。胃が痛くなってきた。それでも食べた。

熱が増える。体の奥で火が育つ。

「父さんが笑ってた」

気がついたら、声に出していた。

「引かれながら、笑ってた」

ミラが俺を見た。

「どんな笑い方だった」

「分からない。見たことのない笑い方だった。怖くない。悲しくない。もっと——何か、別の」

「終わったから、かもしれない」とミラが言った。

俺はミラを見た。

「ずっと逃げてたんでしょ。八年間。子供を守りながら、ずっと逃げてた。それが終わった。捕まったけど、子供は逃げた。そういう顔じゃないの」

俺は答えなかった。

そうかもしれなかった。そうじゃないかもしれなかった。でも——父さんが最後に笑ったのは、俺が地図を抜き取るのを見た後だった。止めなかった後だった。

渡したんだ。

笑いながら、渡したんだ。

俺はパンを口に入れた。硬かった。噛み砕いた。熱が増えた。

食べ続けた。熱が増えた。三人で出発の準備をした。ミラが水袋の残りを確認した。ルカが荷物の重みを確かめた。俺は地図を広げて、東へのルートを頭に入れた。

山がある。川がある。街がいくつかある。赤い丸まで、どれだけかかるか分からない。でも方向は分かる。

準備が終わった。

夜明けが近かった。空の端が、少しだけ白くなり始めていた。

俺は出口に向かいながら、一度だけ振り返った。

廃小屋の割れた屋根の隙間から、星が見えた。北の方角だ。大樹のある方角だ。

大樹は見えない。当然だ。遠すぎる。でも、あそこに家があった。屋根がなくなった家が、まだそこにあった。

父さんが手作りしてくれたスリングを、腰で確かめた。

食べろよ。ちゃんと、食べろよ。

分かってる。

食べた。まだ足りない。もっと食わないといけない。東へ行くなら、もっと強くならないといけない。

俺は東を向いた。

「物理で、ぶち壊しに行く」

ミラとルカが、俺を見た。

何も言わなかった。でも二人とも、頷いた。


城壁沿いの道を、夜明けの光の中で歩いた。

街道に出る手前で、俺の耳が気配を拾った。

立ち止まった。

城壁の陰に、誰かがいた。

小柄だった。小人だった。

ガストだった。

壁にもたれて、腕を組んでいた。俺たちを見ていた。追ってこなかった。叫ばなかった。ただ、そこにいた。

目が合った。

ガストが何かを言った。

声は届かなかった。でも唇が動くのが見えた。

三十センチの俺には、その距離でも唇の形が読み取れた。

——死ぬなよ。

俺はガストを見た。一秒だけ。

それから前を向いた。

三人で、東へ向かって歩き始めた。

第1章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ここまでで、リトが置かれた状況と、この世界の理不尽さが見えてきたと思います。

そして次章からは、奪われたものを取り戻すための旅が始まります。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

第2章もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。