異世界から来た男の朝
朝。
目が覚めた。
私はしばらく天井を見つめていた。
知らない天井だ。
いや、昨日も見た。
見たはずなのだが、まだ慣れない。
窓から朝日が差し込んでいる。
鳥の鳴き声。
窓の外から音が聞こえた。
何かが走り去る音。
昨夜も聞いた。
今も聞こえる。
だが正体は分からない。
馬でもない。
魔物でもない。
それでも街の人々は誰も気にしていない。
この世界では当たり前の音なのだろう。
聞き慣れない朝だった。
「……」
身体を起こす。
驚く。
疲労が残っていない。
肩も軽い。
腰も痛くない。
昨夜の布団を見る。
そして枕を見る。
「強い」
小さく呟いた。
認めざるを得ない。
あれは強敵だった。
身支度を整え、
部屋を出る。
すると下の階から音が聞こえてきた。
カン。
カン。
カン。
包丁の音だ。
私は思わず足を速めた。
料理人の朝は早い。
それはどこの世界でも同じらしい。
階段を下りる。
すると厨房では既に村上が働いていた。
「おう」
村上が振り向く。
「起きたか」
「ああ」
村上はまな板の上でキャベツを刻んでいた。
昨日と同じだ。
無駄がない。
速い。
そして綺麗だ。
「よく眠れたか」
「……あの頭置きが強かった」
数秒。
村上が吹き出した。
「ぶははははっ!」
「枕な」
「まくら」
「頭置きじゃねぇ」
私は頷いた。
「とりあえず顔洗ってこい」
「顔を?」
村上は厨房の隅を指差す。
そこには昨日見た水の出る金具があった。
私は近づく。
捻る。
ジャーッ。
「おお」
思わず声が出た。
昨日見たはずなのに、
やはり不思議だ。
透明な水。
勢いよく出る。
止まる。
また出る。
「便利すぎるだろう……」
顔を洗う。
冷たい。
気持ちがいい。
眠気が完全に飛んだ。
その時。
横に細長い棒が置いてあるのが見えた。
「?」
手に取る。
毛が生えている。
小さい箒のようだ。
しばらく観察する。
「何だこれは」
「歯ブラシ」
村上の声が飛んできた。
「歯を磨く」
「歯を?」
私は棒を見つめた。
歯を磨くためだけの道具。
そんなものがあるのか。
その隣には小さな筒が置かれていた。
私は蓋を開ける。
白い膏薬のようなものが入っている。
「これは何だ」
「歯磨き粉」
「歯に塗る薬か?」
「まあそんなもんだ」
よく分からない。
だが言われた通り歯ブラシへ少量乗せる。
そして口へ入れた。
「!?」
妙な味がした。
爽やかだ。
しかし薬草とも違う。
香草とも違う。
さらに歯を擦る。
泡が出た。
「なぜ泡立つ!?」
思わず鏡を見る。
口の周りが白くなっていた。
「ぶはっ」
慌てて吐き出す。
「なんなんだこれは……」
村上の笑い声が聞こえた。
「朝から騒がしいな、お前」
だが不思議なことに、
終わる頃には口の中が妙にさっぱりしていた。
「……悪くない」
村上の笑い声が聞こえた。
「朝から面白ぇな、お前」
私は納得できないまま歯を磨き終えた。
だが。
確かに口の中は妙にさっぱりしている。
やがて。
店のテーブルに朝食が並んだ。
焼いた鮭。
味噌汁。
卵焼き。
白い飯。
漬物。
私は思わず見入った。
昨日の肉料理とは違う。
しかし。
どれも丁寧に作られているのが分かる。
「食え」
「いただく」
手を合わせる村上を見て、
私も真似をした。
そして一口。
「……」
飯がうまい。
派手さはない。
昨日食べたハンバーグのような衝撃もない。
だが。
妙に落ち着く。
温かい味だった。
「どうだ」
「強い」
村上はまた吹き出した。
「何食ってもそれだな」
私は首を傾げた。
他に表現が思いつかなかった。
こうして。
異世界から来た冒険者兼料理人レオンの、
ひかり亭での最初の朝が始まった。
異世界から来ちゃっていろいろのことにいちいち反応するレオンが面白くてなかなか先に進めません
慣れてしまうと一気に進みそうですがどうなることやら?
一応、予定ですが次回は掃除をします
箒とか塵取り持たせて大丈夫なんでしょうか?
剣と盾と勘違いして戦いを始めないか心配です
では、次回のお話で




