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3/10

異世界から来た男と店主

気づけば、皿は空になっていた。


最後に残っていたデミグラスソースまで、私は無意識にパンでぬぐって食べていた。


「……ふぅ」


深く息を吐く。


体が温かい。


腹が満たされるだけではない。


張り詰めていた何かが、ゆっくりほどけていく感覚だった。


「食った食った」


老人は満足そうに腕を組む。


「ずいぶんいい食いっぷりだったな」


「……すまない。少し夢中になっていた」


「いいよ。料理屋にとっちゃ褒め言葉みてぇなもんだ」


そう言って笑ったあと、老人はふと思い出したように眉を上げた。


「そういや、まだ名前聞いてなかったな」


私は姿勢を正した。


「……レオン・バルガス」


「外国人か?」


「いや……その、遠い国から来た」


嘘は言っていない。


老人は「ふぅん」とだけ言って、カウンターを軽く指で叩いた。


「俺は村上光男。この“ひかり亭”の店主だ」


「ひかり亭……」


改めて店内を見回す。


古びてはいる。


だが、不思議と落ち着く店だった。


「いい店だ」


「はは、ボロいけどな」


「いや。本当に」


私が真顔で言うと、村上は少しだけ照れくさそうに鼻をかいた。


しばらく、店内に静かな時間が流れる。


厨房の換気扇の音。


鉄板に残った熱の弾ける音。


外を通る人々の話し声。


どれも、私のいた世界にはない音だった。


「……で?」


村上が湯呑を傾けながら言った。


「これからどうすんだ、お前」


「これから……?」


「泊まる場所とか、仕事とか。あるのかって話」


私は言葉に詰まった。


あるわけがない。


金もない。


知り合いもいない。


この世界のことすら、ほとんど分からない。


「……ない」


絞り出すように答える。


「行くあても、何も」


村上は少しだけ黙った。


それから大きくため息を吐く。


「はぁ……」


呆れているようにも見えた。


だが次の言葉は、思っていたよりずっと優しかった。


「じゃあ、とりあえず皿洗いでもするか?」


「……皿洗い?」


「住み込み。飯付き。給料はそんな出ねぇけど」


私は目を瞬かせた。


「……いいのか?」


「放っとくと、お前そのへんで野垂れ死にしそうだからな」


「そんなに酷い顔をしているか、私は」


「腹減った犬みたいな顔してる」


思わず、私は小さく笑ってしまった。


魔王との戦いが終わった直後だというのに。


見知らぬ世界へ飛ばされたというのに。


なぜだろう。


この小さな洋食屋の中だけは、


不思議と安心できた。


ようやく主人公の名前と店主の名前を出せました。

もっと遅く出した方がよかったのかもしれないのですが、だんだん出さずにやっていくのもめんどくさくなってしまったので、ここで出すことにしました(1話の前から決まってはいたんですけどね)。

いちおう今後ですが色々考えてはおりますが進んでいくうちにどんどん変わっていくかもしれないです

それでは、次回のお話で。

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