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異世界から来た男とハンバーグ

「ほら、座りな」


白い服を着た老人に促され、私は恐る恐る木の椅子へ腰を下ろした。

店の中は不思議な匂いに満ちていた。


焼けた肉。


溶けた油。


香辛料。


そして、甘いような、苦いような、深い香り。


戦場の焚き火とも、王都の宴とも違う。

だが——妙に腹が鳴る。


「腹減ってんだろ。まず食え」


老人が運んできたのは、黒い鉄板に乗った肉料理だった。

ジュウウウウ……

音を立てている。

肉が、まだ生きているようだった。

丸く厚みのある肉の塊。

その上には、黒褐色の艶やかな液体がたっぷりとかかっている。


「……なんだ、これは」


見たことのない料理だった。

狩り肉の炙り焼きにも似ていない。

貴族料理のミートパイとも違う。

だが、本能で分かった。

——これは、強いやつだ。


「冷める前にな」


言われるまま、銀色の刃物を手に取る。

ナイフを入れた瞬間だった。

じゅわっ——

肉の中から透明な汁が溢れ出した。


「……っ!?」


思わず目を見開く。

肉汁。

だが、ただ焼いただけの肉ではない。

香りが違う。

旨味が閉じ込められている。

私は小さく切り分け、口へ運んだ。

そして——


「…………」


言葉が消えた。


柔らかい。


肉なのに、硬くない。


噛むたびに旨味が広がる。


さらに、あの黒い液体。


甘い。


苦い。


酸味がある。


だが全部が繋がっている。


「なんだ……この味……」


思わず呟いた私を見て、老人は少しだけ得意そうに鼻を鳴らした。


「そいつは“ハンバーグ”」

「はん……ばーぐ……?」


聞き慣れない響きだった。

呪文とも、武具の名前とも違う。

私は改めて皿を見る。


「この肉料理の名前か?」

「そう。合い挽き肉をこねて焼いた料理だ」

「肉を……刻んで、まとめているのか?」

「おう」


私は絶句した。

肉は塊のまま焼くものだと思っていた。


刻む。


混ぜる。


まとめる。


そんな発想はなかった。


「しかも、この黒い液体……ただの肉汁ではないな?」

「デミグラスソースだ」

「でみ……ぐらす……」


また知らない言葉。

だが、その響きには妙な重みがあった。

老人は厨房の奥を親指で指す。


「何日も煮込んで作る。肉と野菜を炒めて、煮詰めて、また足して……手間の塊みてぇなソースだよ」

「何日も……?」


私は思わず皿を見下ろした。


一口のために、


数日???


そんな料理が、この小さな店で出てくるのか。


「……信じられん」


王都の宮廷料理人ですら、ここまで手間をかける料理は祝宴くらいでしか作らなかった。

なのにこの店では、

当たり前みたいに客へ出している。


「この世界の料理人は、化け物か?」

「大げさだなぁ」


老人は笑いながら、湯気の立つカップをカウンターへ置いた。


「ただ、うまいもん食ってほしいだけだよ」


その言葉を聞いた瞬間、

私の胸の奥で、何かが静かに揺れた。


意外に早く次回のお話をアップできました。

今後主人公はどうするんでしょうね?

では、次回のお話で。

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