異世界から来た男と初めての接客
初めての接客です。
前の話でもこの話でもレオン君が器用すぎるし優秀すぎる(魔王を倒す冒険者パーティの一員なので優秀っちゃ優秀なんですけど)ので少し失敗させるように努力してます。
ドジっ子にはなりません。優秀だけど、知らないことが多すぎるのです。
そんなわけで初めての接客でも割とそつなくこなしてしまいました。
次はナポリタンなのかなぁ。
ケチャップとか異世界人には未知すぎるよなぁデルモンテすごいよ。
では次のお話で。
料理というものが、少しだけ面白くなってきた。
だが――。
「店を開けるぞ」
村上の声で、レオンは顔を上げた。
時計を見る。
確かに、もう時間だった。
厨房を片づける。
調理台を拭き、使った道具を洗う。
やがて、ひかり亭の戸が開いた。
「いらっしゃいませ」
村上に続いて、レオンも頭を下げる。
客が一人、店内に入ってくる。
「ここ、いいですか?」
「はい。どうぞ」
レオンが椅子を引いた。
客が座る。
水を出す。
「お水です」
「ありがとう」
客はメニューを開いた。
レオンは少し離れたところで立っていた。
何をするべきか、まだよく分からない。
村上は厨房に戻っている。
客が顔を上げた。
「ハンバーグ定食、一つ」
その言葉を聞いた瞬間、レオンの目がわずかに動いた。
ハンバーグ。
さっき覚えたばかりの料理だ。
「はい」
レオンは厨房へ向かった。
「俺が焼く」
「まだ早ぇ」
村上が振り返った。
「だが……」
「客に出す一枚目を、お前の練習台にはできねぇよ」
「……そうか」
レオンは引いた。
「じゃあ、見ている」
「それならいい」
村上が肉を焼き始める。
レオンは横からじっと見た。
火の強さ。
肉を置く位置。
音。
さっき自分が焼いたものと比べる。
同じ種。
同じフライパン。
同じ火。
なのに、違う。
村上は肉を返した。
その動きに迷いがない。
「村上さん」
「ん?」
「定食というのは何だ?」
「ああ?」
村上が笑った。
「そこからか」
「知らない」
「ハンバーグだけじゃねぇってことだよ」
村上は焼きながら説明した。
「ハンバーグに飯、それから味噌汁とか、小鉢とか。いくつかまとめて一食分にしたもんだ」
「料理の名前ではないのか」
「そう。飯の組み合わせだ」
「なるほど」
レオンは頷いた。
盆の上に料理が並ぶ。
ハンバーグ。
飯。
味噌汁。
小さな皿。
レオンはそれを見て、ようやく意味を理解した。
「これが定食か」
「そういうこと」
レオンは盆を持った。
「お待たせしました。ハンバーグ定食です」
客の前に置く。
「どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとう」
レオンは一歩下がった。
そのまま厨房へ戻ろうとしたところで、村上が声をかける。
「レオン」
「何だ?」
「味噌汁、右」
「……あ」
レオンが振り返る。
味噌汁の椀が、少し客の手元に近すぎた。
「そういう決まりなのか?」
「絶対ってわけじゃねぇけどな。食いやすいように置くんだよ」
「分かった」
レオンは位置を直した。
それからしばらくして、別の客が食事を終えた。
レオンは皿を見た。
空いている。
「お下げしてもよろしいですか?」
「はい」
レオンが皿を持ち上げる。
重ねようとしたところで、村上の手が止めた。
「それ、重ねるな」
「駄目なのか?」
「油のついた皿と、汁物の椀を一緒にすんな。あと、まだ熱い」
「……なるほど」
レオンは一度置き直した。
「厨房では、こういう決まりもあるのか」
「決まりっていうより、後で洗いやすいようにしてんだ」
「そういうことか」
レオンは頷いた。
一度教えられれば、次からは間違えない。
それでも、知らないことはまだいくらでもある。
客が食べ終わる。
皿を下げる。
水を足す。
注文を聞く。
その一つ一つを、レオンは覚えていった。
昼を少し過ぎた頃だった。
「ナポリタンと、食後にコーヒー」
「はい」
レオンは厨房へ振り返った。
「ナポリタン?」
村上が笑った。
「今度はそれか」
「知らない料理だ」
「じゃあ、見てろ」
村上がフライパンを出す。
油を引く。
玉ねぎを入れる。
ウインナーを入れる。
やがて、茹で上がった麺が入った。
最後に赤いソース。
フライパンを振るたびに、甘い香りが厨房に広がった。
レオンは黙って見ていた。
ハンバーグとは、まるで違う料理だった。
だが、そこにも火がある。
油がある。
食材の状態を見ながら、手を動かす。
レオンは少しだけ目を細めた。
「……これも、強いな」
「何がだよ」
「料理が」
村上は呆れたように笑った。
「お前、それ便利な言葉にしてねぇか?」
レオンは答えなかった。
ただ、ナポリタンの香りを覚えるように、しばらくそのフライパンを見ていた。




