異世界から来た男と初めての料理3
フライパンの上では、肉だねの表面がじわじわと色を変えている。
レオンはじっと見ていた。
「裏返すぞ」
村上がフライ返しを差し込む。
肉の下から、焼けた表面が現れた。
香ばしい匂いが一気に広がる。
「……色が変わった」
「火が入ってきたってことだ」
「なるほど」
レオンは鼻を動かした。
肉の匂い。
玉ねぎの甘い香り。
油の香り。
それぞれが混ざっている。
だが、まだ昨日食べたものとは違う。
「まだなのか?」
「まだだ」
村上は蓋をした。
「中まで火を通す」
レオンは蓋を見た。
「これも道具なのか」
「そうだ。熱を逃がさないようにする」
レオンは頷いた。
火を直接当てるだけではない。
熱を閉じ込める。
ここでも、村上は火そのものだけを見ているわけではない。
しばらくすると、フライパンの中から小さな音が聞こえてきた。
レオンは耳を澄ませる。
「……音が変わった」
「わかるようになってきたじゃねぇか」
「さっき教えてもらったからな」
村上が蓋を取る。
湯気が立ち上った。
「そろそろだ」
フライ返しを差し込み、皿へ移す。
肉汁が表面を伝っていく。
レオンは皿を見つめた。
昨日、自分が食べたものと同じ料理。
だが今日は違う。
自分の手で混ぜた。
自分の手で形を作った。
そして今、目の前にある。
村上はハンバーグを皿へ移した。
レオンはその皿を見つめた。
「これが、昨日の料理か」
「そうだ」
村上はハンバーグの皿を置くと、厨房の端にある別の鍋へ向かった。
レオンの視線も、その鍋を追う。
「それは?」
「ソースだ」
蓋を開ける。
ふわりと、濃厚な香りが立ち上った。
レオンは思わず顔を近づける。
「……昨日の」
「ああ」
村上は必要な分だけ別の小鍋へ移し、火にかけた。
レオンは鍋を覗き込む。
「これは、どうやって作る?」
村上は小鍋をかき混ぜながら、ちらりとレオンを見る。
「それは、まだ早い」
「まだ?」
「まずは今日覚えたことを覚えろ」
「……わかった」
レオンは素直に引いた。
小鍋の中でソースが温まっていく。
香りが少しずつ強くなる。
村上が火を止め、ハンバーグにソースをかけた。
濃い色のソースが表面を流れ、皿の上に広がる。
レオンはその香りを確かめた。
「……ずいぶん深い匂いだな」
「時間がかかってるからな」
それ以上、村上は説明しなかった。
レオンも無理には聞かなかった。
今は、目の前の料理を覚えることのほうが大切だ。
「食ってみな」
レオンは箸を取った。
昨日よりも、ほんの少しだけ扱いに慣れている。
肉を切り分ける。
箸先に力を入れすぎない。
ゆっくり持ち上げる。
今度は落とさなかった。
口に入れる。
「……」
肉の柔らかさ。
玉ねぎの甘み。
焼いた表面の香ばしさ。
そして、ソース。
昨日食べた味と同じだ。
だが、今日は少し違って感じた。
自分で作ったからだ。
「どうだ?」
村上が聞く。
レオンはしばらく黙っていた。
「……うまい」
それだけ言った。
村上は笑う。
「そりゃよかった」
レオンはもう一口食べた。
今度は、さっきまでの工程を思い出しながら味わう。
玉ねぎを切った。
火にかけた。
肉を混ぜた。
手を冷やした。
形を作った。
焼いた。
その全部が、今この一皿になっている。
「料理っていうのは……」
レオンは箸を置いた。
「材料を食べられるものにするだけじゃないんだな」
「ほう」
「手を加えるたびに、別のものになっていく」
村上は何も言わなかった。
ただ、少しだけ嬉しそうに笑った。
レオンは皿の上のハンバーグを見る。
昨日までは知らなかった料理。
今は、その作り方を少しだけ知っている。
それでも、まだ分からないことが多い。
だからこそ――
「俺も、作ってみたい」
その言葉に、村上が顔を上げた。
「……そうか」
短く答えて、村上は笑った。
「じゃあ、次は一人でやってみるか」
レオンは頷いた。
「わかった」
厨房の中に、肉の焼ける香りと、温めたソースの香りが残っていた。
いよいよ、次回、レオン君がハンバーグを完成させるのか?
果たしてそれはうまいのか?
そして村上は何を言うのか?
そして秋山の魔法とは?(出ません)
シン・美味しんぼとは?
なんかびっくりなニュースを見てしまいました。
では次回のお話で。




