異世界から来た男と初めての料理2
「それは、これからだ」
村上はそう言って、冷ましておいた玉ねぎを肉の入ったボウルへ加えた。
続いて、パン粉、卵、牛乳。
「これを混ぜる」
レオンはボウルの中を覗き込んだ。
「手で、か」
「そうだ」
レオンは袖をまくり、肉だねに手を入れようとした。
「待った」
村上が小さな器を差し出した。
中には氷水が入っている。
「先に手ぇ冷やしとけ」
「手を?」
「肉が温まっちまうからな」
レオンは氷水に手を浸した。
ひやりとした感触が指先から腕へ伝わってくる。
「肉が温まると、何か問題があるのか」
「脂が溶けやすくなる。仕上がりが変わるんだ」
「なるほど」
レオンは頷いた。
温度を管理する。
火を強くするだけではない。
冷やすことにも意味がある。
「料理というのは、細かいな」
「細かいところが大事なんだよ」
レオンは手を引き上げ、軽く水気を拭いた。
そして、肉だねに触れる。
冷たい。
だが、しばらくすると手の温度が伝わってくる。
その変化を感じ取りながら、レオンは静かに肉を混ぜ始めた。
最初は肉と玉ねぎとパン粉がばらばらだった。
指の間をすり抜ける感触も違う。
それが混ぜていくうちに、少しずつひとつになっていく。
「……変わってきたな」
「わかるか」
「ああ」
レオンは手の感触だけを確かめながら混ぜていく。
粘りが出てきた。
だが、そこでふと手を止める。
「これ以上は?」
「捏ねすぎるな。硬くなる」
「力を加えればいいわけではない、と」
「そういうこった」
レオンは頷いた。
料理も戦いも、力任せではうまくいかない。
必要なだけ力を使う。
その感覚は、少し似ている気がした。
そのまま混ぜているうちに、肉だねが手にまとわりついてくる。
レオンは眉を寄せた。
「……少し扱いづらいな」
「まあな」
レオンは肉だねを見つめた。
そして、ほんの一瞬だけ考える。
――冷やせばいい。
ならば。
レオンの指先に、淡い光が灯った。
空気がわずかに冷える。
ボウルの表面に、ごく薄い水滴が浮かんだ。
「おい」
村上の声で、レオンが顔を上げた。
「……なんだ」
「今、魔法使おうとしたろ」
「少しだけだ」
「少しでも駄目だ」
レオンは自分の指先を見る。
「冷やすだけなら、問題ないと思ったんだが」
「ここじゃ氷水で十分なんだよ」
村上は呆れたように笑った。
「さっき言ったろ。手ぇが温かいと肉が温まる。だから冷やしたんだ」
「……そうだったな」
レオンは素直に頷いた。
「悪かった」
「謝るほどじゃねぇよ。ただ、魔法は最後の手段だ」
「わかった」
そう言って、レオンはもう一度手を氷水へ浸した。
今度は魔法を使わない。
冷たさを感じながら、肉だねを再び混ぜ始める。
しばらくして、村上が頷いた。
「よし。そこまでだ」
レオンが手を止める。
「次は形を作る」
肉だねを二つに分け、手のひらに乗せる。
丸めて、両手の間で何度か受け渡す。
ぺたん。
ぺたん。
低い音が厨房に響いた。
「何をしてる?」
「中の空気を抜いてる」
「空気まで抜くのか」
「そうだ」
レオンは感心したように肉だねを見る。
目には見えないものまで、料理の仕上がりを左右する。
形を整え、少し平たくする。
最後に中央を軽く押す。
二つの肉だねが皿の上に並んだ。
昨日食べたものと、同じ形だった。
だが、昨日とは見え方が違う。
昨日はただの食事だった。
今は、その食事がどうやって作られているのかを、少しずつ知っている。
「……これを焼くんだな」
「そうだ」
村上がフライパンを取り出した。
レオンはそれを見つめる。
昨日までなら、ただの道具だった。
今は、自分で扱った道具だ。
村上がコンロに火をつける。
青い炎が立ち上がる。
レオンの目が、その炎を追った。
「さあ、焼くぞ」
肉だねがフライパンに置かれる。
じゅうっ、と音がした。
肉の焼ける香りが、厨房いっぱいに広がっていく。
レオンは黙って、その変化を見つめていた。
昨日、口にした味。
その正体が、今、目の前で形を変えている。
「……強い」
「またそれか」
村上が苦笑する。
レオンは真剣な顔でフライパンを見つめた。
「そうだ」
少し考えてから、続ける。
「料理は、知れば知るほど強いな」
「そういうもんかねぇ」
村上は笑った。
毎週月曜更新しようとしていて、うっかり今日は日曜日と勘違いしてました。
慌てて更新しておりますが、タイトルを「ハンバーグ」から「初めての料理」に変えました。
そうです、初めてこっちに来てから料理らしい料理をレオン君が作るのです。
相変わらず魔法を使おうとしたり、「強い」といってしまうおちゃめなレオン君です。
こっちの世界でも魔法が使えるのか?とか思ったのですが使えた方が楽しそうなので使えることにします。
原理?そんなのその時不思議なことが起こったぐらいでw
ただし魔法が使えるからといって、使うシーンがあるかというと、、、たぶんないですw
ええ、こちらの世界にはもうとっくに料理の魔法がありますからね「秋山の料理」というのがw
ジャンは連載も読んでましたし、単横本も持ってましたし、何なら2と麻雀の方もよみましたよええ。
あの頃は刀削麺とかXO醤とか食べたり手に入れるのは難しかったですが、今は容易に食べたりできます。
では次のお話で




