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異世界から来た男と玉ねぎ~初めてのフライパン

フライパンの中で、玉ねぎがゆっくりと色を変えていく。

白かったものが透き通り、少しずつ柔らかな色になっていく。

私は、その変化をじっと見ていた。


「同じものなのか?」


「ああ」


村上は木べらで玉ねぎを動かす。


「同じ玉ねぎだ」


「火を入れただけで、これほど変わるのか」


「料理ってのは、そういうもんだ」


私は頷いた。


切る。


火を入れる。


それだけで食材が変わっていく。


魔法なら、もっと簡単に変化させることもできる。


だが、これは魔法ではない。


火と油と時間。


それだけで、食材が変わっていく。


やがて村上が火を止めた。


「食ってみるか」


小皿に少しだけ取り分けてくれる。

私は箸を手に取った。

この道具にも、まだ慣れていない。

二本の棒を使って食べ物を挟む。

理屈は分かる。

だが、思うようには動かない。


玉ねぎを挟もうとする。


するり。


落ちた。


「……」


村上が笑う。


「まだ慣れねぇか」


「難しいな」


「そのうち慣れるさ」


私はもう一度箸を動かした。

今度はうまく挟めた。


口へ運ぶ。


噛む。


柔らかい。


そして――甘い。


先ほどまで鼻を刺激していた香りも、ほとんど消えている。


「……甘い」


「だろ?」


私はもう一口、ゆっくり味わった。


「砂糖は入れていない」


「入れてねぇよ」


「では、この甘さは玉ねぎそのものなのか」


「ああ」


私は皿の上を見る。


初めて見る野菜。


初めて切った野菜。


それが火を通すだけで、これほど変わる。


しばらく考えてから、私は呟いた。


「……強い」


村上が眉を上げる。


「何がだよ」


「この料理は」


私は玉ねぎを見つめたまま答えた。


「火と油と時間だけで、食材をこれほど変えてしまう」


村上は少し黙っていた。


やがて、ふっと笑う。


「そうかい」


私は頷いた。


「面白い」


「料理がか?」


「ああ」


村上はフライパンを調理台へ置いた。

そして、少し考えるように私を見る。


「……じゃあ」


「次はお前がやってみるか」


私は顔を上げた。


「私が?」


「ああ」


村上はフライパンを持ち上げ、私へ差し出した。

私は両手で受け取る。


「……軽い」


「鉄の鍋よりゃ軽いだろ」


私はフライパンを裏返してみる。

底は平らで、持ち手が横へ伸びている。

ザルドアで使っていた鍋とは、ずいぶん形が違う。


「これは鍋なのか?」


「まあ、鍋みたいなもんだ」


「なるほど」


私は頷いた。


村上がコンロへ火をつける。

青い炎が現れた。

私は思わずそれを見つめた。

炎はある。

だが、魔力の流れを感じない。


「……」


無意識に右手へ意識が集まる。

火を扱うなら、魔法を使えばいい。

そう考えた瞬間――。


「おい」


村上の声が飛んできた。

私は手を止める。


「……何だ」


「今、魔法使おうとしたろ」


「……」


図星だった。


「いや」


「いや、じゃねぇよ」


村上は呆れたように笑う。


「こいつでやるんだ」


コンロを指差す。


「さっき見てただろ」


私は炎を見る。

そして自分の手を見る。


「……分かった」


右手の力を抜く。

魔力を引っ込める。

これまでなら無意識に使っていた力だった。

それを使わない。

それだけのことが、少しだけ難しい。


村上が玉ねぎをフライパンへ入れる。


「まずは俺がやる」


「さっき見せただろ」


「今度は、お前が真似してみろ」


私は頷く。

村上がフライパンを軽く揺する。

玉ねぎが滑る。


じゅう、という油の音。


甘い香り。


火の強さ。


私は一つ一つを覚える。


「ほら」


村上がフライパンを渡してくる。


私は受け取った。

ずしり、と手に重みが伝わる。

包丁とは違う。

だが、これも道具だ。


私は火を見る。


玉ねぎを見る。


音を聞く。


そして、ゆっくりとフライパンを動かした。


じゅう。


玉ねぎが滑る。


「……」


「どうだ?」


「面白い」


村上が笑う。


「そうか」


私はもう一度フライパンを動かす。

今度は少しだけ大きく。

玉ねぎが跳ねる。


私はすぐに動きを止めた。


「強すぎた」


「そうだ」


村上が頷く。


「最初はそのくらいでいい」


「火も少し弱めろ」


私はつまみを見る。

少し回す。


炎が小さくなる。


音が変わった。


私は耳を澄ませる。


先ほど村上が言っていた。

料理は、触って、音を聞いて、匂いを見て覚える。

今なら少し分かる。


「……これか」


「ん?」


「先ほど言っていたもの」


私はフライパンを見ながら続ける。


「音が違う」


村上は何も言わなかった。

ただ、満足そうに笑った。

私は玉ねぎをゆっくりと動かす。

少しずつ、色が変わっていく。


今度は、自分の手で。


その変化を眺めながら、私は思った。

料理は、思っていたよりずっと奥が深い。


そして――。


なぜだろう。


少し、楽しい。

やっと、、、、

やっとです、レオン君がフライパンを振りました(拍手)

長かったですねー

これからどうなるのか?それはこれからのお楽しみです

それでは次のお話で

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