異世界から来た男と玉ねぎ1
村上は調理台の隅へ歩くと、先ほど私が手に取っていた丸い野菜を一つ持ち上げた。
「次はこいつだ。」
私はその野菜を受け取る。
改めて手にすると、不思議な野菜だった。
丸く、乾いた茶色の皮を幾重にもまとっている。
土の中で育ったものだろう。
だが、カルドとは明らかに違う。
私は指先でそっと表面をなぞった。
乾いた皮が、かさりと音を立てる。
「……見たことがない。」
村上は笑って頷いた。
「そうだろうな。」
「こっちじゃ玉ねぎっていう。」
「たまねぎ……。」
私は静かにその名を繰り返した。
また一つ、この世界の言葉を覚える。
「まずは下ごしらえだ。」
村上は玉ねぎをまな板へ置き、包丁を手に取る。
「よく見てろ。」
私は頷いた。
刃先が迷いなく動く。
まず、頭の部分をすっと切り落とす。
続いて根元へ包丁を当てる。
私は思わず口を開いた。
「切り落とすのか。」
「いや。」
村上は刃を止めた。
根のひげだけを薄く削ぎ落とし、根元そのものは残している。
「全部は切らねぇ。」
「なぜだ。」
「最後まで残した方が切りやすいからだ。」
村上は笑う。
「料理なんてな、やり方は一つじゃねぇ。」
「全部切っちまう料理人もいる。」
「俺はこう教わった。」
そう言って肩をすくめた。
「この方が切りやすいんだ。」
私は小さく頷く。
「……なるほど。」
「切るためではなく、切りやすくするためか。」
「そういうこと。」
村上は縦に半分へ切る。
そこで初めて、茶色い皮を剥き始めた。
ぱり、ぱり、と乾いた音。
私は自分の玉ねぎでも同じように皮を剥く。
「終わった。」
そう言って差し出すと、村上は受け取って笑った。
「まだだ。」
親指で白い表面をなぞる。
「ここ。」
私は目を凝らした。
白いと思っていた表面に、ごく薄い膜が残っている。
言われなければ気付かなかった。
村上はその一枚をするりと剥く。
現れた表面は艶があり、みずみずしかった。
「この一枚も取る。」
「理由は。」
「乾いてるからだ。」
「口当たりも見た目も違ってくる。」
私は自分の玉ねぎを見つめる。
ただ皮を剥くだけではない。
最後の一枚にも意味がある。
私は村上の真似をし、慎重にその薄い膜を剥がした。
「よし。」
村上が満足そうに頷く。
「飲み込みが早ぇな。」
私は首を横に振る。
「違う。」
「見て覚えているだけだ。」
その言葉に、村上は少しだけ目を細めた。
「それが一番難しいんだけどな。」
私は顔を上げる。
「そうなのか。」
「ああ。」
村上は笑う。
「料理は本を読んでも覚えられる。」
「でも、人の手は見なきゃ覚えられねぇ。」
その言葉を聞き、私はもう一度、自分の手元の玉ねぎへ視線を落とした。
頭をどう落としたか。
根元をなぜ残したか。
皮をどこまで剥いたか。
その一つ一つに理由がある。
私は静かに頷く。
「……強い。」
村上は一瞬きょとんとしたあと、堪えきれずに笑い出した。
「はっはっはっ!」
「またそれか!」
私は少しだけ首を傾げる。
「褒めたのだが。」
「分かってる、分かってる。」
村上は笑いながら涙を拭う。
「でもな。」
そう言って一本の包丁を私へ差し出した。
「ここからが本番だ。」
私は包丁を受け取る。
目の前には、半分に割られた玉ねぎ。
村上はにやりと笑った。
「さて。」
「今度は、こいつを切ってみようか。」
前回までのレオンの敵?はじゃがいもでしたw
しかし、新たなる敵?が現れました
某ゲーム風に書くと
「玉ねぎがあらわれた」
ってな感じです
さて、今まではじゃがいも洗って芽を取って、玉ねぎの皮むいただけのレオン君ですが
いよいよ、まな板に向かい包丁を使うのでしょうか?
では、次のお話で




