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1章3話

新キャラ登場&イルミナティについて。



 馬車は目的地ーーベーカー通りの路地裏に停まり、一行は降りる。吊された男がドアノッカーを数回叩くと、扉が開かれた。

「おかえりなさいませ吊された男様。いらっしゃいませお客様方」

 リボンタイをした赤毛の少年が丁寧に一礼し、家主と客人達を迎え入れる。

「ただいまイサァク」

 扉を閉めて応接間へと案内するイサァクの頭を吊された男は軽く撫でる。客人の前ですよやめてください、と軽く抗議し、手を払い除けたイサァクは真紅の瞳を細める魔女に気付き、頭を下げる。

「そして初めまして。悠久の魔女AZ様」

「初めまして。不死鳥の雛鳥。くれぐれも奴に似るなよ」

「似るおつもりはありませんのでご安心を」

「イサァク!? どういう意味だー!?」

 小姓同然の弟子の冷たい言葉に吊された男が抗議の意味を込めて叫ぶ。

「うるさいです吊された男様。お客様方のお身体に障るでしょう」

 すげなくあしらったイサァクはポカンと口を開けてこちらを見つめるリリィに微笑みかける。

「大丈夫ですか? 小さきレディ」

「リ、リリィです。よろしくお願いします……」

「フルールだ。よろしくな」

 ずいっ、と妹を背中に隠すように前に出ながらジトっと睨みつけるフルールの無作法をイサァクは気を悪くするどころか咎めることなく微笑みを崩さず二人の座る席を示す。

「リリィ様とフルール様、ですね。どうぞ腰掛けてください」

「あ、ああ……ありがとう」

 柔らかく対応されたことのないフルールは戸惑いながらリリィをソファにそっと寝かせ、自身もリリィの隣に座る。AZはフルールの隣に、吊された男は暖炉前に腰を下ろす。

 四人が座ったのを見届けたイサァクはキッチンに行き、ホットミルクを淹れる。銀のトレイに載せて主人と客人に配る。

「いつも通りの味だな」

「私の召し使いにしてやっても良い」

 AZの傲岸不遜な態度にもイサァクは顔色を変えず、使用人の礼をする。

「お褒めに預かり幸甚の至りです」

「……うめえ!!」

「おいしい……」

 フルールは一口飲み、目を丸くする。リリィの頬に朱が差す。こんなにあったかくて甘い飲み物を初めて飲んだ兄妹は陶器のコップを両手で抱えながらチビチビと飲んでいく。宝を抱えるように。

 兄妹の様子にイサァクの瞳は一瞬揺らぐが、すぐに穏やかになる。

「それでだ、イサァク。私の不在の間にあったことは?」

「アデプタスメイジャーたる女教皇(ハイプリエステス)様より伝言を預かりました」

 イサァクは一つ咳払いをし、声を高くする。

「『吊された男!! 女王のお膝元にあった魔女の棺がもぬけの殻よ!! 早く探し出しなさい!! あの女がどうなってようが知ったこっちゃないけど、あの女がろくでなし共の手に渡ったら大変なことになるわよ!!』とのことです」

「相変わらず上手いな。イサァクの声真似」

「女教皇そのものだな」

 感心する大人二人に、フルールはゆっくりと手を上げる。

「あの……そろそろイルミナティとかローゼンクロイツについて教えて欲しいんだけど……」

「おっと! そうだったそうだった。では、まず私の所属するイルミナティについて、だな」

 吊された男は講義を取り行う口調で説明をする。

 イルミナティとは二百年前に創立された秘密結社であり、魔術師と錬金術師の集まりであること。イルミナティの信仰対象がルシフェルであるがため、キリスト教との対立は幾度もあったが、二代前のドミナスリミニスからはキリスト教と共存の道を歩むことになったことを。

「その、アデプタスメイジャーとかドミナスリミニスってのは?」

「私たちの示す階級だな。ドミナスリミニスは境界の主、すなわち私たちの上司だ。キリスト教で言うところの教皇、総主教みたいなものだな。で、アデプタスメイジャーはその次に偉くて強い六人の集まりだ」

「は……ええええ!?」

 つまり吊された男みたいなのがあと五人もいるのか……と驚愕するフルールに、吊された男は口角を上げて軽くウインクする。

「……実力はあるんだよ実力は。他はアレだが」

「はい。生活能力も金銭管理も女性関係も全くもって駄目駄目でして」

「酷いぞ君ら!!」

「あー、それで、ローゼンクロイツって?」

 わざとらしく泣き真似をする主人をイサァクは無視して話を続けた。

「我等イルミナティと似て非なる方法で知識の改革と精神の覚醒を目指した秘密結社でございます。しかし、彼等は現在、本派と分派に分かたれております。伝統を固辞する本派と、神の領域に踏み入らんとする分派に……」

「その分派はフルール少年の故郷の子らに呪いを施し、ドクタージョブズはフルール少年に私の死体を掘り当てて渡すよう命じた。今し方逃げてきたところだがな」

「あ……そういえば、あんた不死身なんだよな……あんたいくつなんだ?」

「千年は軽く生きている」

「え」

 世間話のようにサラッととんでもないことを答えた女をまじまじと見てしまう自分は悪くない。フルールはそう思った。二十代半ばの、黙っていれば貴婦人っぽい女が、千年生きているとか……え、千年って、どれだけ昔なんだ? もしかしてシェイクスピアとかに会ったことあるのか? 

 脳の処理が追いつかないフルールを尻目にAZはソファから立ち上がり、肩を叩く。

「久しぶりに身体を動かしたからか疲れたよ。ベッドは?」

「こちらです」

 婦人用客室に通されたAZは黒いドレスを脱ぎもせずにベッドに倒れ込んだ。十年ぶりに目覚めて、その後に魔眼と魔術を行使した疲労から、すぐに寝息を立てた。

 フルールもリリィの隣に寝転がり、手を握りしめる。

「リリィ、絶対守るからな……」

「ありがとうお兄ちゃん。むり、しないで」

 そして兄妹も眠りについた後、秘密結社の魔術師二人は窓の外を見つめる。

「女教皇の伝言通り、魔女殿が分派の手に渡れば厄介だ。ドクタージョブズの背後には恐らく、いや、確実にローゼンクロイツの分派がいる。明日に動くぞ」

「了解しました吊された男様。準備を整えておきます」


ーー雷雨は、まだおさまらない。

次の日、どうなっているのでしょうね。

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