百獣の王都と、獅子王へのディール
【第3章・世界樹防衛編、堂々開幕!】
★毎日「朝7時」更新中!★
舞台は王都から世界へ! ついに「ファストトラベル」と「新たなロマン重火器(RPG&対空ミサイル)」が解禁!
剣と魔法のファンタジー世界を、FPSのロジックで圧倒する痛快無双劇!
※第1章・第2章(王都編まで)完結済み。今からの「一気読み」も大歓迎です!
王都への道中、アカマルパーティーの旅はキャロという最高の案内人を得て、驚くほど順調に進んでいた。
「もうすぐ王都に着くよ! 王都はね、『百獣の都』って言われていて、いろんな種族の獣人が集まるすっごく大きくて立派な街なんだから!」
御者台でポンタの隣に座るキャロが、得意げに胸を張る。
実際、彼女が同行したことで、道中にいくつかあった厳重な関所もすべて『顔パス』で通過できていた。
「お前とゲンゾウの爺さん……この国でかなりVIPな位置にいるんじゃないか?」
「本当に、キャロさんがいてくれて助かります」
ポンタが呆れたように言うと、エリスも微笑みながらお礼を言う。
「えへへ、そんなの私に任せてくれればお茶の子さいさいだよー! みんなには助けてもらった恩もあるからね。これくらい当然だよ!」
「あの時はお腹の音、すっごく大きかったもんねー」
「ちょ、やめてよルルちゃんー!」
ルルのからかいにキャロがウサギ耳を真っ赤にして照れ、馬車の中に楽しげな笑い声が響き渡る。
そんな和気藹々とした道中を経て、深い大森林を抜けた先。
開けた盆地に現れたその光景に、ポンタたちは息を呑んだ。
獣王国の王都『百獣の都』。
それは、グランゼリア王国の西洋的な石造りの街並みとは全く異なる、独自の威厳と美しさを持つ巨大な城塞都市だった。
幾重にも連なる堅牢な石垣。その上に建ち並ぶのは、美しい瓦屋根と白壁を持つ、重厚な木造建築の数々。
街の各所には鮮やかな朱色の橋が架かり、大通りには家紋のような意匠が描かれた色とりどりの幟や提灯が風に揺れている。
そして都市の中心には、まるで天を突くかのようにそびえ立つ、巨大で壮麗な『天守閣』を持つ王城が鎮座していた。
「すごいなのー! 私と同じ獣人さんがたくさんなのー!」
走鳥のキャンピング馬車(アカマル号)の窓から身を乗り出し、ニアが目を輝かせて歓声を上げた。
すれ違う人々は皆、犬や猫、虎、鳥など、様々な獣の特徴を持った獣人たちだ。物心ついた時から王都のスラムにいたニアにとって、ここは初めて見る『自分のルーツ』の景色だった。
「ふふっ。危ないから、あまり身を乗り出さないでね、ニアちゃん」
「はいなのー!」
はしゃぐニアの体を後ろから優しく支えながら、エリスもまた、見慣れぬ異文化の街並みに感嘆の息を漏らしていた。
「木造の建築がここまで巨大に、そして美しく発展しているなんて……。グランゼリアとは全く違う、神秘的な活気がありますね」
「うん! 屋根の形とか、すごく計算されてて面白いよ! 建築技術が独特なんだね!」
「なんだか、露店からすっごくいい匂いもしてきます……!」
ルルが建物の構造に目を光らせ、ミリーナが未知の屋台飯の香りに鼻をヒクヒクさせる。
(ソフィア。この王都の造り、どう分析する?)
『はい、マスター。この王都の建造物は、木造でありながら高度な耐震・防衛構造を備えた、極めて機能的な要塞都市(城下町)の体を成しています。また、随所に魔石を用いた結界の恩恵が見られ、グランゼリアとは異なる独自の魔法技術が発展しているようです。非常に理にかなった、美しい都市設計です』
(なるほどな。忍者の里があったくらいだ、和風ファンタジーのロマンが詰まってるぜ)
ポンタが内心でゲーマー特有のワクワク感を噛み締めていると、大通りの前方から、怒号と物が割れる派手な音が聞こえてきた。
「人間と取引をするような軟弱な商人は、この国には必要ねえんだよ!!」
「ひっ……! お、おやめください! 私はただ、明日のコロッセオの準備を……っ!」
屈強な狼の獣人たちが、羊の獣人の商人が営む屋台を蹴り飛ばし、胸ぐらを掴み上げている。
どうやら、帝国への徹底抗戦を掲げる『過激派』が、王側である『穏健派』の市民に横暴を働いているらしい。周囲の獣人たちも、過激派の暴力を恐れて遠巻きに見ているだけで、誰も止めに入れないでいた。
「……おい。寄ってたかって何やってんだ。さっさと道を開けな」
ポンタは馬車から降りると、騒ぎの中心へと歩み寄り、冷たく言い放った。
「あぁん!? なんだテメェは……って、人間じゃねえか!! なんでこんな所に人間のガキが……」
「ヒルデ」
「承知した」
過激派の男がポンタに殴りかかろうと拳を振り上げた瞬間、ポンタは一切の武器を抜かず、流れるようなCQC(近接格闘術)の動きで男の腕を絡め取り、関節を極めて地面に押さえつけた。
同時に、背後から飛び出してきたヒルデが、残りの男たちの懐に潜り込み、鮮やかな体術(投げ技)で次々と石畳に叩きつける。
ほんの数秒の出来事だった。過激派の獣人たちは、誰も怪我をすることなく、あっという間に無力化されてしまった。
「おい! そこで何をしている!!」
騒ぎを聞きつけ、重武装の王都の近衛兵たちが駆けつけてきた。
「人間が街で暴れているぞ! 貴様ら、一体何者だ! 武器を捨てて投降しろ!」
近衛兵たちがポンタたちに鋭い槍の穂先を向けた、その時だった。
「ちょっと待って! この人たちは怪しい者じゃないよ! 特使なの!」
ポンタの背後から、キャロが慌てて前に飛び出した。
「はい、これ! お爺ちゃんからの紹介状!」
キャロが懐から取り出した、古い手帳(通行証)。
そこに刻まれた『ゲンゾウの紋章』を見た瞬間、槍を構えていた近衛兵たちの顔色が一瞬にして青ざめた。
「ゲ、ゲンゾウ様のことづけ……!? そ、それに、貴女はゲンゾウ様の御孫君であらせられるキャロ様では……っ!」
近衛兵の隊長が慌てて槍を収め、ポンタたちに向けて深く頭を下げた。
「これは大変失礼いたしました! ゲンゾウ様からの紹介状とあらば、至急、国王陛下へお取り次ぎせねばなりません! 特使殿、どうか先ほどの無礼をお許しください。すぐにお城へご案内いたします!」
周囲の市民や、地面に這いつくばる過激派たちがポカンと口を開けて見守る中、ポンタたちは一瞬にして最敬礼を受け、天守閣がそびえる王城の奥深くへと直行することになった。
――王城、玉座の間。
磨き上げられた木の床に、威厳のある装飾が施された広大な空間。
その最奥の玉座に座っていたのは、巨大な体躯と黄金の鬣を持つ、圧倒的な覇気を放つ『獅子の獣人』――獣王国の国王だった。
だが、その鋭い双眸には、隠しきれない深い疲労の色が濃く滲んでいる。
ポンタは玉座の前に進み出ると、静かに片膝をつき、見事な臣下の礼をとった。
「お初にお目にかかります、国王陛下。グランゼリア王国より特使として参りました、Sランク冒険者のポンタと申します。この度は突然の訪問にも関わらず、謁見の機会をいただき感謝いたします」
12歳の少年の姿でありながら、その言葉遣いは洗練されており、堂々とした立ち振る舞いには一切の隙がない。
国を背負って立つ『特使』としての完璧なTPOの使い分けだった。
「……面を上げよ。ふむ、見かけによらず、底知れぬ覇気を持つ男だ。ゲンゾウが寄こすだけのことはある」
獅子王が、低く地を這うような声で言った。
「特使殿。帝国が世界樹の根を狙い、理なき侵略を進めていることは我が国の耳にも届いておる。……防衛協定を結び、手を取り合いたいのは余も同じだ。だがな、特使殿」
獅子王は、苦渋に満ちた顔で頭を振った。
「明日、余はこの玉座から引きずり下ろされるかもしれんのだ。そのような力なき王の署名に、何の意味があろうか」
「……どういうことでしょうか、陛下」
「明日行われる『コロッセオ』の代表戦。勝った派閥が国の実権を握るという神聖な決闘において……余の直属の戦士たちが、全員試合に出られなくなってしまったのだ」
獅子王の口から、ゲンゾウが危惧していた『王都のゴタつき』の正体が語られた。
過激派が裏で卑劣な工作を行い、穏健派の代表選手たちの食事に、解毒困難な『呪毒』を盛ったのだという。戦士たちの命に別状はないが、とてもまともに戦える状態ではない。
このままでは戦う者がおらず、不戦敗が確定している状態だった。
「過激派の仕業だという確たる証拠がない以上、ルールを覆すことはできん。戦う駒がいない以上、我が国は過激派の手に落ち、破滅の戦争へと突き進むことになるだろう……」
絶望に打ちひしがれる獅子王。
その言葉を聞いたポンタは、スッと顔を上げた。
そして、それまで張り付けていた『礼儀正しい特使』の仮面を外し、凄腕のSランク冒険者らしい、フランクで不敵な口調へと切り替えた。
「……なるほどな。事情はよく分かりました」
ポンタは立ち上がり、ニヤリと口角を上げる。
「なら、陛下。俺たち『アカマル』のパーティーを、あんたの臨時の代表枠として雇いませんか?」
「なっ……!?」
獅子王が、驚愕に目を見開いて玉座から身を乗り出した。
「人間である貴様らが、獣王国の神聖なコロッセオに立つと言うのか!? たとえSランクであろうと、相手は闘争本能を剥き出しにした獣の戦士たちだぞ!」
「勝てる駒がいないなら、手札を切るしかないでしょう?」
ポンタの背後で、ヒルデが拳を鳴らし、エリスが静かに杖を構え、ミリーナとルルが頼もしげに頷く。
最強のパーティーを率いるリーダーは、獅子王の目を真っ直ぐに見据えて言い放った。
「国の未来と誇り、俺たちが代わりに護ってやりますよ。……報酬は、あんたのその、防衛協定へのサインで結構です」
圧倒的な自信と実力を隠そうともしない人間の少年を前に、獅子王は息を呑んだ。
かくして、特使としての極秘のディール(取引)は成立し、ポンタたちは獣王国の命運を懸けた熱狂の闘技場へと足を踏み入れることになるのだった。
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