ウサギ耳の遭難者と、警戒を溶かすキャンプ飯
【第3章・世界樹防衛編、堂々開幕!】
★毎日「朝7時」更新中!★
舞台は王都から世界へ! ついに「ファストトラベル」と「新たなロマン重火器(RPG&対空ミサイル)」が解禁!
剣と魔法のファンタジー世界を、FPSのロジックで圧倒する痛快無双劇!
※第1章・第2章(王都編まで)完結済み。今からの「一気読み」も大歓迎です!
「ひっ……! に、人間……!? いやっ、こないで……っ! 殺さないで……っ!!」
鬱蒼と茂る大森林のシダ植物の陰。
右足に凶悪な金属のトラバサミが食い込んだまま、ウサギ耳の獣人の女性が這いずるように後ずさった。極度に人間を恐れ、パニックを起こした彼女は、罠の鎖を引きちぎらんばかりに強引に逃げようと暴れる。
「動くな。足がちぎれるぞ」
すかさず前に出たヒルデが、竜種の圧倒的な力で優しく、しかし絶対に身動きが取れないように女性の体をガッチリとホールドした。
「いやあああっ! 離してっ! 奴隷にはならないっ!」
「安心しろ。奴隷にはしない。怪我を見るぞ」
悲鳴を上げる女性の足元にポンタがしゃがみ込み、アイテムボックスから取り出した金属用のバールと工具をトラバサミの隙間にねじ込む。
バキィッ!
テコの原理と物理的な破壊による、強引だが確実な罠の解除。金属のバネ機構が完全にへし折られ、女性の足から凶悪な牙が外れ落ちた。
「エリス」
「はいっ! 『治癒』!」
ポンタの合図と同時に、エリスが聖樹の枝杖を振るう。
温かな光が女性の右足を包み込むと、骨まで達しようかという深い裂傷が、瞬く間に塞がり、血の気の色を取り戻していった。
「えっ……? 痛みが、ない……? 人間が、私を治した……?」
痛みが完全に消え去った右足を見て、女性は目を白黒させて混乱した。
「もう大丈夫ですよ。無理に動かさないでくださいね」
「私たち、怪しい者じゃありませんから。安心してください」
「そうそう! 師匠はすっごく優しくて頼りになるんだからね!」
エリス、ミリーナ、ルルの三人が屈託のない笑顔で優しく言葉をかける。
だが、女性は木の根元に座り込んだまま、人間たちの顔を交互に見比べて、ひどく困惑した様子を見せていた。
人間は、森を侵し、同胞を狩る悪魔ではないのか。なぜ自分を奴隷にせず、あまつさえ高度な治癒魔法で助けたのか。これまで聞かされてきた恐ろしい人間たちとあまりにも違うその優しさに、彼女はどう反応していいか分からず、ただただ戸惑っている。
そんな中、ポンタの背後からひょっこりと小さな影が顔を出した。
「お姉ちゃん、大丈夫なの! ポンタお兄ちゃんたちは、優しくてすごーく強いの!」
「あなたは……獣人の、子供?」
女性のピンと立ったウサギ耳が、ピクッと動いた。
同時に、獣人特有の高い嗅覚が、目の前の幼い少女――ニアから漂う匂いを正確に感じ取る。
(人間と獣人の子が一緒に! しかも、こんなにも大切に保護しているの?)
清潔な衣服の匂い、栄養満点な食事の匂い。そして何より、後ろに立つ人間たちから、たっぷりの愛情と庇護を与えられている、温かで平和な匂いがしたのだ。
彼女の心の中にあった人間への強固な偏見の壁が、音を立てて大きく揺らいだ。
女性が戸惑いながら、そっとニアの頭を撫でようと手を伸ばした、その瞬間だった。
『きゅるるるぅぅぅ〜っ』
静かな森の中に、女性のお腹から盛大な音が鳴り響いた。
罠にかかってから丸二日、まともな食事をとっていなかったのだ。限界を迎えた腹の虫の自己主張に、女性はウサギ耳の先まで真っ赤にしてバッと俯いてしまった。
「腹が減っては話は出来ないってな」
ポンタはそう言って、ニカッと笑った。
12歳の美少年というアバターの造形をフル活用し、相手に最大限の安心感と親しみやすさを与える、完璧に計算された『極上の爽やかスマイル』だった。
(ソフィア)『マスター。普段全く使われない表情筋が多数駆動しています。非常に爽やかでマスターらしからぬ笑顔ですが、対象の警戒心を解く効果は覿面です』
(ポンタ)『……うるせー。使えるもんはガワ(見た目)でも何でも使うんだよ』
ポンタは脳内のAIからの冷静なツッコミに悪態をつきつつ、素早くアイテムボックスから携帯用の魔石バーナーとクッカーを取り出した。
マルコから貰った最高級のスパイスを惜しげもなく使い、特産の猪肉の端肉と野菜を強火で炒め、水を加えて煮込む。大森林の澄んだ空気に、暴力的なまでに食欲をそそるスパイスと肉の香りが漂い始めた。
「ほら、食いな。熱いから気をつけてな」
「あっ……ありがとう、ございます……」
ポンタから手渡された木製のカップ。女性は恐る恐る口をつけ、スープを一口飲んだ。
「っっっん!!!」
女性は目をまん丸く見開いた。
「何このお肉! 美味しい!!」
獣人が普段食べている肉や簡単な野草のスープとは次元が違う、複雑なスパイスの旨味と、とろけるような肉の脂。
女性はハフハフと頬張りながら、もはや警戒心など欠片も残っていない様子で、あっという間にスープをおかわりまでして平らげてしまった。
「ぷはぁっ……! ごちそうさまでした! あ、私、キャロって言います! 足を治してくれた上に、こんなに美味しいご飯まで……皆さん、本当にありがとうございました!」
すっかり元気を取り戻したキャロが、満面の笑みでポンタたちに深く頭を下げた。
改めて正面から向き合うと、彼女は亜麻色のショートヘアに、ピンと立った立派なウサギ耳を持つ獣人だった。森での狩猟に適した革の軽装を身に纏い、しなやかで均整の取れた体つきをしている。
「俺はポンタ。こっちはエリスに、ヒルデ、ミリーナ、ルル、そしてニアだ。俺たちはグランゼリア国王から任命された特使として、この獣王国に用があって来たんだが……」
ポンタはそう言いながら、懐から一つの『手帳のようなもの』を取り出した。
「ギデオンってオッサンを知ってるか? 王都を出る時、そのオッサンの昔馴染みのツテで作ったっていう、この通行証を渡されたんだ。これを頼りに、穏健派の隠れ里って場所を探してる」
ポンタが手帳を差し出すと、それを見たキャロのウサギ耳がピンと垂直に立った。
「えっ!? そ、それ……うちのお爺ちゃんが作った通行証だよ! ギデオンって、お爺ちゃんがよく自慢話で言ってる、昔のパーティーメンバーの人間の名前だ!」
「マジかよ」
あまりの偶然に、ポンタも思わず目を丸くした。
どうやら目の前の食いしん坊なウサギ耳の女性は、ギデオンの紹介状の宛先である『偏屈な獣人のジジイ』の孫娘だったらしい。
「皆さん、本当にありがとうございます!」
キャロは立ち上がると、恩を返すように胸を張って言った。
「うちの隠れ里は、この森のずっと奥にあるの! お爺ちゃんはきっと話を聞いてくれると思うから、私が里まで案内するよ!」
こうして一行は、思いがけない偶然から獣王国の確かな道標を得ることになった。
ポンタのキャンピングカー(アカマル号)は、キャロという新たな同乗者を迎え、大森林の奥深く――獣人の隠れ里へとその歩みを進めていくのだった。
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