迷いの大樹海と、対人トラップの解除(ディフューズ)
【第3章・世界樹防衛編、堂々開幕!】
★毎日「朝7時」更新中!★
舞台は王都から世界へ! ついに「ファストトラベル」と「新たなロマン重火器(RPG&対空ミサイル)」が解禁!
剣と魔法のファンタジー世界を、FPSのロジックで圧倒する痛快無双劇!
※第1章・第2章(王都編まで)完結済み。今からの「一気読み」も大歓迎です!
「それじゃあ、気をつけてな恩人! 王都でまた会おう!」
「ああ。マルコ、ガロも達者でな」
すっかり朝日が昇った『滝の集落』。
ポンタたち一行は、王都へ帰還するマルコやガロ、そして村人たちに盛大に見送られながら、次なる目的地である『獣王国』へと出発した。
「よしよし、いい子なのー。今日もよろしくお願いするの!」
『クエェェッ!』
馬車の御者台に座るニアが嬉しそうに首筋を撫でると、二頭の巨大な『走鳥』が心地よさそうに喉を鳴らした。
馬を優に上回るほどの巨体と、大木のように太く強靭な脚を持つファンタジー世界の巨大鳥。ニアの同郷(獣人)の匂いに安心しているのか、彼らは驚くほど従順だった。その凄まじい脚力は、ルルの手によってレッドミスリルのサスペンションなどが組み込まれた重量級のオリジナル馬車――キャンピングカー仕様の『アカマル号』を、荒れた未舗装路であろうと軽々と引っ張っていく。
ガロから譲り受けた地図を頼りに進むこと数時間。
やがて、空を覆い隠すほどの巨大な木々が密生する『大森林地帯』の境界へと辿り着いた。
「すごい……。ここが、ニアの本当のふるさと……」
王都の地下水道とスラムしか知らなかったニアが、車窓から食い入るように鬱蒼とした森を見つめている。圧倒的な大自然への驚きと、少しの不安が入り交じるその小さな背中を、エリスが優しく撫でた。
ポンタは御者台から、複雑に絡み合った木の根と、網の目のように張った太い枝を見上げて小さく息を吐く。
「王都を出る前から危惧していたことだが……やはりこの森じゃ、全高3メートルのダルマは物理的に展開できねえな。無理に呼べば森を破壊しちまう」
「ええ。ここから先は、ポンタさんの生身の戦術が頼りですね」
エリスの言葉に、ポンタは力強く頷いた。
大森林の中には、かろうじてかつての街道だったような獣道が続いていた。だが、巨大な岩や隆起した木の根が容赦なく行く手を阻む。
「フッ!」
馬車の先頭を歩くヒルデが、ピンポイントで走破の厳しそうな箇所に『土魔法』を放つ。ドゴォッという音と共に、巨大な段差が瞬時に平らな土へと均されていく。
ヒルデの生真面目なサポートを受けながら、馬車は薄暗い大森林の奥へと進んでいく。
道中、ポンタは揺れる車内のリビングスペースで、テーブルに地図を広げていた。
「さて、森に入ったことだし、現状の目的と外交カードの整理をしておくか。ミリーナ、先生役を頼む」
「はいっ、お任せください!」
元ギルド受付嬢である黒髪の少女、ミリーナがコホンと咳払いをして立ち上がった。
「まず、私たちの現在の身分は、グランゼリア国王陛下から直々に任命された『Sランク特使』です。目的は、帝国による邪神復活(世界樹の汚染)を阻止するため、世界中の国と対話して協力を取り付けること。これは全人類、いえ、全種族の存亡を懸けたワールドクエストになります」
「で、その最初の交渉相手が、この森に引きこもってる獣王国ってわけだ」
ポンタが腕を組むと、ミリーナは少し真剣な表情になって頷いた。
「はい。ですが、獣王国は現在、完全な『鎖国状態』にあります。歴史上、彼ら獣人はその高い身体能力や希少性から、人間に奴隷として不当に扱われ、狩られてきたという暗い過去があります。だからこそ彼らは人間を極度に嫌い、この大森林に結界を張って国を閉ざしました」
「ガロが言ってたな。今の獣王国内部じゃ、帝国への憎しみから他国を侵略してでも生き残ろうとする『過激派』と、森の結界に引きこもって自衛を貫く『穏健派』で意見が割れてるって」
「ええ。私たちが特使として向かうべきは、話が通じる可能性が高い『穏健派』の重鎮、あるいは王族のもとです」
ポンタはアイテムボックスから、厳重に封がされた二つの書状を取り出した。
一つは、グランゼリア国王からの『特使の親書』。
そしてもう一つは、王都を出発する前、城塞都市アルメニアのギデオン(元Sランク冒険者でギルドマスター)から預かっていた、個人的な紹介状だった。
『ポンタ。獣王国の辺境には、俺が若い頃にパーティーを組んでいた獣人のジジイが隠居してるはずだ。偏屈な奴だが、話は分かる。まずはそこを訪ねてみな』
ギデオンの言葉を思い出し、ポンタは手紙を軽く叩いた。
「まずはギデオンのおっさんが紹介してくれた、辺境の隠れ里を目指す。そこで『対話』の糸口を見つけるのが第一目標だ。……とはいえ、歓迎はされないだろうがな」
ポンタは手紙をアイテムボックスにしまい、ミーティングを締めくくった。
やがて、馬車がさらに森の奥深くへと進んだ頃合いだった。
ニアの隣、御者台に戻っていたポンタは、周囲の空気が露骨に変わったのを感じ取った。鳥のさえずりや虫の音がピタリと止み、不自然な静寂が辺りを包み込んでいる。従順だった走鳥たちも、危険を察知したように低い喉を鳴らして歩みを遅らせていた。
(ソフィア、前方のルートをスキャンしろ。妙な静けさだ)
『はい、マスター。前方のルート上に、多数の偽装された対人トラップ群を検知。構造と配置から、獣王国の過激派が「人間」を殺傷するために仕掛けた悪質なブービートラップ(キルゾーン)と推測されます』
「チッ……歓迎されないどころか、明確な殺意のお出ましってわけか」
ポンタはすぐさまブレーキを引き、鋭い声で指示を出した。
「ストップだ。走鳥を止めろ」
馬車が停止すると同時、ポンタは暗視ゴーグルを下ろし、ソフィアのタクティカル・ビジョンを起動する。獣道に偽装された極細のワイヤー(仕掛け線)や、不自然に盛り上がった落とし穴が次々と赤くハイライト表示された。
外へ出てその光景を確認したルルが、嫌そうな顔をして顔をしかめる。
「うわっ、悪趣味……。ルル、遺跡の機械式トラップや魔法陣の解除なら得意なんだけど、こういう原始的なジャングルの罠って勝手が違ってて苦手なんだよね……」
「なら、俺が手本を見せてやる。よく見とけよ、ルル」
ポンタは仲間たちを後方に待機させると、単身でトラップ地帯へと足を踏み入れた。
FPSゲームの爆発物処理(EOD)ミッションで培った、無駄のないクリアリング。
ポンタは足元のワイヤーの張力を指先でそっと確かめると、炎のナイフで正確に切断して無力化。さらに、頭上に隠されていた振り子状の丸太のストッパーを外し、安全な方向へ意図的に落下させて破壊する。毒矢を射出する竹筒の仕掛けは、木に登って発射機構そのものを解体した。
「なるほど! 魔法や機械じゃなくて、物理的な張力と摩擦のバランスで成り立ってるんだね! 構造が分かれば簡単だよ、師匠!」
ポンタの洗練された動きを一度見ただけで、天才的なメカニックであるルルの瞳がキラキラと輝いた。
彼女はすぐさまポンタの隣に並び立ち、巨大なモンキーレンチや自作の工具を駆使して、楽しそうに罠を次々と解除し始める。
ポンタがワイヤーを見つけ、ルルが連動する射出装置を物理的に解体する。息の合った完璧なダブルチームにより、人間を殺すための凶悪なトラップ地帯はあっという間に無害な道へと切り拓かれていった。
「ポンタ様……!」
罠をあらかた解除し終えた直後、後方で警戒していたミリーナが、パッと顔を上げて森の奥を指差した。
「あっちの茂みの奥から、微かなうめき声が聞こえます……!」
「なんだと?」
ポンタたちがミリーナの示す方向へ慎重に近づいていくと、巨大なシダ植物の陰で、一人の人影がうずくまっていた。
それは、長くピンと立った耳を持つ『ウサギ耳の獣人の女性』だった。
彼女の右足には、過激派が仕掛けたであろう凶悪なトラバサミのような金属の罠が深く食い込み、痛々しい血を流している。同胞が仕掛けた対人トラップに、誤ってかかってしまったのだろう。
「おい、大丈夫か?」
ポンタが声をかけると、獣人の女性はビクッと肩を跳ねさせ、恐怖に見開かれた目でこちらを振り返った。
そして、ポンタやエリスたち『人間の姿』を認識した瞬間、その顔が絶望に青ざめる。
「ひっ……! に、人間……!? いやっ、こないで……っ! 殺さないで……っ!!」
這いずるように後ずさる獣人の女性。
極度に人間を恐れるその姿に、獣王国に渦巻く深い憎しみと恐怖の歴史が垣間見えた。
ポンタは一切の武器を持たず、両手を軽く上げて敵意がないことを示しながら、アイテムボックスから白い医療キットを取り出した。
「安心しろ。俺たちはただの通りすがりの特使だ」
12歳の少年の姿でありながら、その声には戦場を潜り抜けてきた絶対的な落ち着きと、頼もしさが宿っていた。
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