mean.16
その後フリーズした俺は、信嗣さんの助けを借りてその場を離脱し、無事にマンションに帰った。
明日の課題は山積だ。
寺西にもう真似をしないでくれって伝えること。
信嗣さんとは付き合ってないということ。
それと俺はストレートであって、恋愛対象は女性であるということ。
なのでこの先も寺西とは友達のままの関係でいたいということ。
……無理ゲーだろ。
もういっぱいいっぱいだよ。なんだよこの情報量。
これ、どのタイミングで伝えりゃいいの? んで、どういう伝え方すりゃいいの? どの順で言えばいいの?
無理。絶対無理。
顔合わせんのが気マズすぎる。
メッセージだけパパパッって送りつけて終わりにしたい。
頭を抱えてスマホを取り出した俺に、帰宅した姉ちゃんが追い打ちをかける。
「テキストコミュニケーションに依存するのは良くないわ、早計な弟。
私達の意思疎通における言語情報の占める割合はたったの7%よ。誤解やすれ違いを防ぐためには、メラビアンの法則にしたがって、視覚と聴覚を最大限活用すべきよ」
なんだよそのポメラニアンの法則って。
かわいい犬が出てきたって、今の俺はそんなんかわいがってる余裕はないんだよ。
横で信嗣さんがうーんと唸りながらつぶやいた。
「でもなー、もしかしたらゲインロス効果が発生して、案外押し切られちゃう可能性もあるんじゃない? 彼の告白、俺ちょっとグッとくる部分あったし……」
なにそれ。ゲインがロスしてるとか。どういう経済用語? 聞いたことないけど?
「……まさかと思うけど、おもしろがってないよね?
俺、結構本気で困ってんだけど……」
「ああごめんなさい、怒らないで私の大切な弟。もちろん私だって真剣に考えているわ。
恋愛感情は一種の執着だから。それが得られないと感じたときに、相手がどういう行動を起こすタイプなのか、しっかりと表情や言動を見ておいた方がいいの。もしなにかあった時の判断材料としてね。
それに、これからもその人と友人としての関係を続けたいのなら、文字だけで伝えるのはやめておいた方がいいと思う。冷たい印象を与えてしまうから」
信嗣さんが控えめに口を挟んでくる。
「でも断るときに傷つけないようにって、優しくしすぎるのも良くないよ。
まだ脈があると勘違いしてストーカー化するタイプもいるから。思わせぶりな返答はしないほうがいいと思う。気をつけて」
「でもあなた、ばっさりやりすぎて逆上させたこともあったんでしょ?」と、これは姉ちゃん。
「それは高校のころの話。今はさすがに知識もあるし逆上タイプにガソリンかけるような対応はしないよ」
ちょっとムッとする信嗣さん。
「そう? 卒業前になにかあったわよね? たしか……」
「あれは違うよ。あれは……」
「あのーっ! 今はーっ! 俺のーっ! 話じゃないのーっ?」
カップル二人で盛り上がり始めそうな気配を察して俺は叫んだ。
せっかくこの場には心理学のプロが二人もいるのに、まったく役に立つ気配がない。
明日寺西と対決するときに、とっておきの秘策か何かを出してくれると思って期待したのに。
結局最終的には、直接会って俺の誠意を伝えるのが一番だという結論に至った。
心理学のプロ。
二人もいるのに、まったく使えない説……。




