第6話:雷を宿す拳
どうして此処に海月が?
そんな疑問はあったが、それどころではない。
「彼女がイヴですね?」
両手を前に突き出し、光が収束を始める。
間違いない閃光を海月へ向けて放つ気だ。
「海月ッ!」
名前を叫ぶ。それだけで危機が迫っていることに気づけるだろうか?
しかし、俺の心配は杞憂に終わる。
ルミナが閃光を海月へと向けて放つ。
真っ直ぐに突き進む閃光。直撃すればタダでは済まないことは間違いなかったが、突如として閃光は屈折し、天井へと直撃した。
天井を突き抜けた穴から青空が覗く。
「ぷい」
海月の目の前に水球が浮かんでいる。
「アイツ、水で光を屈折させやがったのか!」
時雨が驚きの声を上げると共に、一瞬で海月の前に立つ。その手にはナイフが握られてる。
だが、海月は被っている傘の片方の触手でナイフを持つ腕を縛り上げ、もう片方で時雨を絡めとり、そのままルミナのいる方へぶん投げた。
「おおおおお⁉」
叫び声を上げて宙を突き進む時雨。そんな彼を受け止めるようにルミナは踏ん張るが、耐え切れず一緒に吹き飛ばされる。
「ぷい!」
得意気な表情を浮かべつつ、ふわふわしながら近づいて来た。
「ぷい?」
「……助かったよ、海月」
「ぷいぷい」
触手を動かしながら喜びを表現する海月。しかし、状況を本能で理解しているのか、視線は直ぐに吹き飛ばした二人へ向けている。
「痛ぇな……」
頭部から血を流しながら時雨が立ち上がる。
遅れてルミナも額を抑えつつ立ち上がるが、彼女は傷を負っていないようだ。
「相変わらず頑丈じゃねぇか、ルミナ」
「アナタが軟弱なだけですよ」
そんな言葉を交わしつつ、二人の視線がこちらへ向く。
「ったく、とんでもねぇ怪力娘だぜ」
「恐らく海人の水母種ですね。水と雷を操るのも納得です」
どうやらルミナは海月のことを多少なりとも知っているようだ。
「アンタ、結構博識なんだな?」
「博識というワケではありません。ただ、知識として与えられているだけです。その様子だと彼女との意思疎通は、まだできていないようですね」
「どういう意味だ?」
「こちらが答えるとでもお思いですか? 時雨、手段を選んだり、冥途の土産なんて言っている場合ではありません。何も知らない内に仕留めましょう」
全てを答えてくれるとは思っていなかったが、やはり情報のアドバンテージは明らかだ。
時雨は『霊長候補の番になった奴は、相手の能力の一部を有することができる』と言っていた。俺が海月の番となっているのなら、何かしら一部の能力を手にしている可能性がある。
海月へと目を向ける。
「ぷい! ぷい!」
可愛らしい声を上げて、時雨とルミナを威嚇している。
このままではジリ貧だ。現状は一対二。足手まといは明らかに俺だ。
相手も本気で命を絶ちに来る。そして、相手にとって最も殺し易いのは間違いなく俺だ。
「——ああ、仕方ない。後味はワリィが同族殺しもやむを得ねぇか」
一瞬に時雨の姿が俺の目の前に現れる。
「ぷいッ!」
「アナタの相手は私ですよ?」
海月が俺の方へと触手を伸ばそうとしたが、即座にルミナより妨害される。
「悪いな、二度目になるが——ここで死んでくれないか?」
「っ——ざっけんな!」
突き出されたナイフを右手で受け止めると、深々と突き刺さる。貫通はしていないが、ドクドクと血が流れる。
だが、一瞬の隙はできた。
一歩、大きく時雨へと向かって踏み込む。
「お前、イカれてんのか⁉」
「それはこっちの台詞だよ!」
怪我を負った状況で向かって来ることに驚いたのか、時雨は怒鳴るように声を上げ、それに反論するように俺は叫ぶ。
ナイフが突き刺さる手に熱を感じるが、不思議と痛みはない。きっとアドレナリンか何かの影響で麻痺しているのだろう。しかし、今はそれが好都合でしかない。
左手で拳を作り、渾身の力を込めて時雨の腹部へと向けて突き出す。
直撃の瞬間、バチンと何かが弾けるような音が鳴った。
————と、
「ガアッ⁉」
時雨が苦悶の声を上げ、膝を着く。
カランとナイフの落ちる音が響くと同時に、後方へと飛び退く。そして、握ったままの左拳を見てみれば、パチパチと青白い光が纏わりついていることに気づいた。
「これは……雷か?」
自身の拳に帯電するものを見て、言葉を紡ぐ。同時にこれが俺の有する海月の能力の一部であることを理解した。
「クソっ! 身体が痺れやがる。お前、使ったな!」
顰め面を浮かべながら立ち上がる時雨は叫ぶ。
これで対等……いや、まだ。
左拳に雷は帯電しているが、偶然の産物でしかない。自由に扱えていない以上、まだ相手が有利だ。
だが、光明は見えた。
一瞬だけ視線を海月へ向けると、ルミナと小競り合いを繰り広げており、拮抗しているように見えた。
そうなれば俺のやるべきことはひとつ。
目の前の時雨を討つ。それだけだ。




