第4話:襲撃者
放課後、航と京、海月のことをかなり可愛がっている玲奈を含めた面々でショッピングモールに繰り出していた。
海月はリュックの中ではなく、玲奈に抱えられている。思ったよりも周囲は気にしていない。また、ジッとしていると、ぬいぐるみに見えることも理由としてあるかもしれない。
さて、海月の着る服なのだが、サイズ的に赤ちゃんサイズから選ぶ必要がありそうだ。そうなると、赤ちゃんが着る服を高校生が選んでいるという珍妙な光景が展開されることになる。
当然ながら周囲から好奇の目を向けられるのだが、そこは京と玲奈の情報工作のための会話により事なきを得た。
買い物になると流石は女子。もの凄くハイテンションだ。
これが可愛い海月の服となれば、猶更なのだろう。
きゃっきゃ、と盛り上がっている京と玲奈を横目に、航は大きな欠伸をしながら背伸びをする。
「何か突き合わせて済まないな」
「別に良いさ、集。それにしても海月ちゃんって何なんだろうね?」
その疑問は御尤もだ。
拾い主である自分ですら知りたいことでもある。
「ま、周囲に危害を加える感じもないから心配はないかな?」
「そっちの心配よりも、世間に知れ渡った時の方が心配なんだよな」
「それはそうだね。そこは親として集がしっかりするしかないね?」
「親って……」
「でも、飼い主って言うのは抵抗がない?」
確かに。しかし、親と言われると、それはそれでむず痒いものがある。
ちらりと女子二人へ視線を向ける。どうやら盛り上がっている様子で、まだまだ時間が掛かりそうだ。
「航、悪い。ちょっとトイレに行って来る」
「オーケー。二人には伝えておくよ」
そそくさとトイレへ向かって歩き始める。
このショッピングモールは行き慣れていることもあり、トイレまでの道中に迷いはない。ものの数分で事を済ませた。
ポケットからスマートフォンを取り出す。画面に映っている時間を確かめ、みんながいるお店へ戻ろうと足を踏み出そうとした時だった。
「——へえ? 高校生が霊長候補のアダムなのか?」
そんな声が耳に届いた。
いや、ワザとこちらに聞こえるように言ったのだろう。
声のした方へ顔を向けると、そこに若い男と女性が立っていた。男が日本人であるのは明らか。だが、女性は違う。パッとすると西洋人に見えたが、その耳は普通の人と違って尖っている。
「間違いありません。彼は霊長候補のアダムでしょう。まあ、霊長候補であるイヴの姿は見えませんが……」
「じゃ、ラッキーってことか?」
「考え方によってはそうですね」
二人の会話。その意味はまるでわからない。
しかし、その内容が自分と海月に関連していることは理解できた。
「さて、立ち聞きをしているところ済まないが、ここで死んでくれないか?」
「————は?」
瞬間だった。
強烈な閃光が瞬く。
半ば直感的に横へ跳ぶと、耳を劈くような轟音が鳴り響いた。
「外すなよ、ルミナ」
「どうやら勘で避けたようですね」
先ほどの閃光は目の前の女が放ったと見て間違いなさそうだ。
二人から視線を逸らさないようにしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……何だ、アンタら?」
「へえ? 餓鬼の割には随分と冷静じゃねえか? ま、俺とお前は同類だよ」
男の言葉に、訝し気な表情を浮かべてしまう。
同類? どういうことだ?
そんな様子に気づいたのか、男は鼻で笑う。
「何だ? お前、何も知らないのか?」
「どうやら霊長候補が生まれたばかりなのでしょう」
「ソイツは僥倖。ま、ルールとしては、どちらかをぶっ殺せば良いんだろ?」
男は獰猛な笑みを浮かべる。
「悪いな餓鬼。お前に恨みは何もねぇんだが、これも戦争でね——恨むならアダムになった自分自身を恨むんだな!」
瞬間、男の姿が目の前にあった。
距離としては数メートル離れていたはず、どういうことだ?
ふと、男の手に鋭利なナイフが握られている状況が視界に映る。
「ッ————⁉」
咄嗟にナイフが握られている男の手を抑える。
「目は良いみたいだな?」
ドン、と腹部に鈍い衝撃を受ける。腹から口へ空気が吐き出され、その痛みから膝を着く。
「おいおい、これで終わりかよ?」
視界に映るのは男の足。
ゆっくりと見上げると、男がこちらを見下すように立っていた。




