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絆守集が文明を終わらせる理由  作者: 霜月風炉


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第2話:君の名前は海月

 クラゲのような雰囲気を漂わせる生物に懐かれ、仕方なしにリュックへ入れて自宅まで連れて帰った。

 見た目が人間なだけに全裸はいただけないので、適当な布を生物の身体に巻き付け、解けないように布の端を安全ピンで留めた。

 その後、自室で上機嫌に浮遊するそれを眺めながら、スマートフォンで似たような生物がいないか調べていたが……まあ、見つかるワケがない。

 海外赴任もあり、両親が普段から家にいないことは幸いだった。


「君は一体何なんだ?」


 浮遊している生物へ言葉を投げかける。当の生物はキョトンとした様子でクリクリとした目を此方へ向けているだけ。

 頭部に被っているもの、宙に浮いて漂っていること、そのサイズを除けば限りなく人間に近い。発する言葉も赤ちゃんの「だぁ!」や「あう」と変わらないのだから不思議だ。

 目の前の生物は卵から生まれている。間違いなく人間ではないはず。

 ともあれ、連れて帰った以上は責任が発生する。生半可な覚悟で生物を飼うべきではない、と言うのは持論だ。

 しかし、この見た目の生物を『飼う』と言ってしまうと、妙な罪悪感に苛まれそうだ。

 のそり、と頭に重みを感じた。

 手を伸ばすと、件の生物が頭の上に乗っている。


「重いから降りてくれないか?」


 そう言いながら引き剥がそうとするが、触手を身体に絡めて抵抗する。何度か試してみたが、うんともすんとも言わない。

 ふと、姿見鏡へ視線を向けてみると、そこには頭の上で満足そうな表情を浮かべる生物が映っていた。

 ここまで満足そうにされると、無理矢理引き剥がすのも忍びなくなってしまう。


「はあ……満足するまでいてくれ」


 溜息交じりに告げると、生物は嬉しそうに揺れる。


「待て待て、揺らすな揺らすな」


 まるで親戚の子どもと遊んでいるような感覚だ。ただ、力任せに攻めて来る感じがない分、親戚の子どもより大分マシである。


「放り出すワケにもいかないから、君の世話は責任を持つさ。そうなると……名前を付けてあげないとな」


 いつまでも君と呼び続けるワケにもいかない。

 しかし、


「ネーミングセンス無いんだよなぁ」


 困った。

 変な名前は自身の人格を疑われる可能性もある。何よりも名前は一生ものだ。人間であろうと、動物であろうと、それは一緒のはずだ。


「クラゲっぽいよなぁ。でも、身体は人間そのものなんだよなぁ」


 顎に手を当てつつ唸っていると、頭の上にいる生物も「うー」と真似をして唸り始める。

 ——何だコイツ、可愛いな。

 そんなことを少しだけ思っていると、天啓が舞い降りた。


「クラゲって確か……漢字で海に月だったよな?」


 スマートフォンで調べて、自身の記憶に間違いがないことを確認する。


「海月(くらげ)と呼ぶのはちょっとアレだから……海に月で海月(みづき)はどうだ?」


 それは独り言のつもりだったのだが、どうやら頭上の生物は耳聡いようで、縦へ横へと動き始める。


「動くな動くな」


 そう言って、頭上の生物を両手で掴み上げる。今回はすんなりと引き剥がすことができた。

 そのまま目の前に抱え、視線を合わせながら告げる。


「君の名前は海月だ。異論はあるか?」

「————!」


 言葉の意味を理解しているのかはわからない。だが、目の前の生物——海月は嬉しそうな表情を見せた。


「気に入ったのなら良かったよ」


 ほっと胸を撫で下ろす。

 ——と、次の問題に直面した。


「……なあ、海月って何を食べるんだ?」

「————?」


 その問いに首を傾げる海月を抱えたまま、思わず天井を見上げてしまった。

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