第1話:空から落ちてきた卵
ゴールデンウィークも明け、夏の気配がほのかに感じられる頃。
午後の授業中に肩肘をついて窓の外を眺めていると、空から落ちていく白いモノを目にした。
夢でも見ているのか、と目をパチパチと瞬きし、目を細めて凝視してみれば、やはり間違いなくそれはゆっくりと落ちていっている。
眉間に皺を寄せ、教室の壁に掛けられている時計へ目を向ける。授業の終わりまで残り数分ほど。
再び窓の外、落ちていく白いモノへ目を向ける。
やはりそれはゆっくりと落ちている。その先には、授業以外で使われている姿を見たことがないテニスコート横の茂みがあった。
ジーっとその落下を見届けると同時に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
このまま帰りのHRが行われるのだが、落ちたモノが気になることもあり、机横に引っ掛けているリュックを手に取る。クラスメイトの誰かが声を掛けてきたが、適当な理由を告げてから教室を飛び出した。
階段を駆け下り、下足場でローファーに履き替える。そのまま教室から見えていたテニスコート横に広がる茂みへ小走りで向かう。
碌に手入れのされていない茂みの中へと足を踏み入れると、土へ沈み込むような感触があった。きっと昨日降った雨でぬかるんでいたのだろう。
靴が汚れることに顔を顰めつつも、あの落ちていった白いモノへの好奇心が勝り、この辺りだろうと思う場所までズンズン突き進む。
(……在った)
白いモノ。それはサッカーボールほどの卵だった。
ゆっくりと近づいてから、しゃがみ込む。恐る恐る触れてみると、想像していたような卵の硬さはない。それには弾力があり、人肌のような温もりが感じられると共に、中身が動いているような感触があった。
(何の卵なんだ? そもそも空から落ちてくる卵って……)
これはまさしく未知との遭遇というやつなのだろう。不思議なことに恐怖や不気味さ以上に、言いようのない胸の高鳴りが身体を支配していた。
しかし、胸の高鳴りを感じる自身に違和感を覚える。まるでそう思わされているような感覚だ。それでもこの高鳴りが自身の感情であることは否定できない。
——と、メシリという鈍い音が鳴った。
音の主は触れている卵。
直ぐに手を引き、飛び退くように卵から離れる。
今、何かが孵ろうとしていた。すると、一片の殻が跳ね、卵に小さな穴が開く。
(ッ————⁉)
その穴から何かがこちらを見ている。
興奮か緊張からか、喉の奥に渇きを感じつつも、その孵化する様子から目を離すことができずにいた。
メシリ——と、再び鈍い音が鳴り、数片の殻が跳ね、卵から何かが飛び出す。そして、少しずつ、その姿が露わになっていく。
(——————)
きっと間抜けな面をしているだろう。それを自覚できるくらいには、生まれた生物に唖然としていた。
その姿は、四肢を含めて人と変わらない。異なるところを挙げるなら、頭を覆うような半透明の帽子から、触手が伸びているくらいだろうか。
その生物は、こちらを真っ直ぐ見つめながら、ふよふよとクラゲのように宙を漂う。
と————、
「いっ⁉」
その生物が半透明の触手を伸ばし、身体へ絡めてくる。
冷たい感触に思わず変な声が出てしまった。だが、その生物は何やら嬉しそうに、跳ねるように宙を漂う。
絡められた触手を解こうとするが、思った以上に力が強い。しかし、こちらに害があるようには思えない。
困った。
どうしようもないので、この目の前の生物が満足するまで流れに身を任せることにした。




