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第9話

終始楽しそうに笑っている。


 こんな母を見るのは久しぶりだった。


 私も頑張ってきたつもりだけど……。


 少しだけ嫉妬。


 はははっ。


 空は快晴に近く、遠くには青い海が輝いていた。


 悠真さんは「中古なんです」と笑っていたけれど、車はとても乗り心地が良かった。


 昼前に秋吉台へ到着した。


 駐車場へ車を止めると、悠真さんが振り返った。


「少し早いですけど、お昼にしましょうか。どこかお店へ入ります?」


 ――やった。


 ついに私の出番だ。


「私、お弁当を作ってきたんです」


 私は少し誇らしげに保冷バッグを差し出した。


「えっ、三人分ですか?」


「はい」


 本当は半分くらい母に手伝ってもらったけれど。


 それは内緒。


 はははっ。


 ちょうどカルスト台地が見渡せる芝生を見つけた。


 そこには私たちと同じように、お弁当を広げている家族連れもいた。


 私はお弁当箱を開けた。


 サンドイッチ。


 唐揚げ。


 卵焼き。


 果物。


 少しずつ詰め込んだ、小さなごちそう。


「うわぁ……」


 悠真さんが思わず声を上げた。


「すごくおいしそうです。ありがとうございます。こんなごちそう、久しぶりです」


 そう言って、本当においしそうに食べ始めた。


 私は少しだけ笑った。


 そして、そっと一つのおにぎりを差し出した。


「これもどうぞ」


「僕だけ?」


「はい」


 悠真さんは一口食べて目を丸くした。


「あっ、鮭だ」


 その笑顔を見た瞬間、私はうれしくなった。


「僕、鮭が一番好きなんです」


 以前、喫茶店で何気なく話してくれたことを覚えていた。


 たぶん漫画だったら、この瞬間の私は目が「キラリ」と光っていたと思う。


 悠真さんは見た目よりよく食べる。


 細いのに不思議だ。


 その様子を見ていた母が、小さな声で言った。


「栞、最近変わったね」


「えっ?」


「明るくなった」


 私は笑って返した。


 でも、少し複雑だった。


 昔の私は、そんなに暗かったのかな。


 昼食を終え、私たちは秋芳洞へ向かった。


 その間も母と悠真さんは楽しそうに話している。


 私は母が余計なことを言わないか、そればかり気になっていた。


 秋芳洞へ入ると、ひんやりした空気が私たちを包んだ。


「きれい……」


 思わず声が漏れる。


 百枚皿の前で立ち止まる。


「すごい……」


 悠真さんが微笑んだ。


「これ、何万年もかけてできたらしいですよ」


「えっ、詳しいですね」


 すると悠真さんは照れくさそうに笑った。


「昨日、AIに教えてもらっただけです」


「えっ?」


「せっかく来るなら、ちゃんと案内できた方がいいかなと思って」


 私は思わず笑ってしまった。


 ――こういうところが、悠真さんらしい。


 母もゆっくりと鍾乳洞を眺めながら歩いていた。


 その表情は本当に楽しそうだった。


 私は自撮り棒を取り出し、三人で何枚も写真を撮った。


 もちろん母は真ん中。


 それが今日の主役だったから。


 楽しい時間は、本当にあっという間だった。


 気が付けば帰り道。


 家が近づいた頃、悠真さんが穏やかに言った。


「今日は本当に楽しかったです。久しぶりに気分転換ができました」


 そして母を見て尋ねる。


「お母さんも大丈夫でしたか?」


「ええ。私も本当に楽しかったです」


 車の中に笑い声が広がった。


 少しして、悠真さんは私の方を向いた。


「栞さん、お弁当、本当においしかったです。ありがとうございました」


 私は笑顔で小さくうなずいた。


 車は家の前に静かに止まった。


 私と母が降りると、悠真さんは私たちが玄関へ入るまで、ずっと見送っていてくれた。


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