表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶太郎がゆく ~猫と霊を癒やす料理で、戦国の天下を巡る~  作者: 莵月
第二章 ~四歳の茶太郎、京の大火を知る~
PR
44/308

第41話 「潮を飲むアオバトと、止まった塩舟」

 ――遠い海から来た翼が、宇治と都を結ぶ――


 南の空から飛んできた緑色の鳩は、秘密基地の屋根を越えたところで力尽きた。


「落ちる!」


 そうが飛び立ち、地面へぶつかる直前に受け止める。


 鳩は若葉色の羽に黄色い胸、翼には紫がかった赤い模様を持っていた。

 脚には、小さな文が結ばれている。


「……お水……」


 茶太郎が椀に水を入れると、鳩は嘴を近づけたが、すぐに首を振った。


「ちがう……塩のある水……」


「塩水を飲むの?」


 橋姫が鳩の羽に触れる。


「この子はアオバトです。山に暮らしながら、ときおり海辺へ下り、潮の水を求める鳥」


 茶太郎は水へ塩を入れようとしたが、山科言継やましな・ときつぐが止めた。


「濃すぎれば身体を害する。ほんのわずかでよい」


 茶太郎は薄い塩水を作り、水飴を一滴だけ溶かした。


 鳩は少しずつ飲み、やがて目を開く。


「……あまい。おいしい……」


 光が羽を包み、八歳ほどの少女へ姿を変えた。

 若葉色の髪に黄色い房、肩には紫紅色の羽模様が残っている。


「わたし、シオ。東の相模さがみ大磯おおいその照ヶてるがさきから来たの」


 蒼が目を細めた。


「大磯から宇治まで、一度に飛んだのか?」


「そんなの無理。山で休んで、川をたどって、伊勢や大和を通ってきた。海と山を行き来するうちに、道を覚えたの」


 シオは胸を張った直後、ふらりと倒れかけた。


「今は休め」


「……はい」


 脚の文は、山崎の舟着き場からの急報だった。


 森彦右衛門もり・ひこえもんが封を開く。


「塩舟が止まっておる」


 堺方面から淀川を上ってきた舟が、山崎付近で足止めされていた。

 洛中の混乱によって荷の受取人が散り、舟頭は誰へ渡せばよいか判断できないという。


 積荷は塩、干魚、米酢。


 いずれも避難者の炊き出しや傷の手当てに欠かせない。


「塩がなければ、粥ばかりでも身体がもたん」


 ひこじいは帳面を広げた。


「じゃが、勝手に宇治へ運べば盗みになる。荷主と届け先を確かめねばならん」


 シオが顔を上げる。


「舟頭さんが言ってた。荷の半分は、下京しもぎょうの町へ届けるもの。六角堂ろっかくどうを目印に、受け取る人を探してほしいって」


 ユキは文の端にある印を確かめた。


「下京の町組で使う合印や。焼け出された仲間を養う荷やと思う」


 弥七も頷く。


「宇治の分と都の分を、勝手に混ぜるわけにはいかんな」


「なら、迎えに行こう」


 茶太郎が言った。


「誰の食べ物かを確かめて、必要な人に届けるんだ」


 翌朝、一行は山崎へ向かった。


 シオは高い空から大きな川筋を読み、蒼は低く飛んで浅瀬や人影を確かめる。


「右の水路。大きな舟が二艘」


 蒼が指し示す。


「その先に塩の匂いがする」


 シオが答えた。


 山崎の舟着き場には、荷を積んだままの舟が係留されていた。


 舟頭は、ひこじいの書状と町組の合印を何度も見比べる。


「宇治へ渡せるのは三俵だけや。残りは下京の者が受け取る荷やで」


「それで十分です」


 茶太郎は頭を下げた。


「残りも、ちゃんと届けます」


 塩三俵を受け取る代わりに、宇治からは茶葉と乾かした薪を舟へ積んだ。

 ただ貰うのではなく、互いに不足するものを補うためだった。


 秘密基地へ戻ると、茶太郎はシオのために薄い塩水飴を作った。

 青柑子あおこうじの果汁をほんの一滴加えた、澄んだ水飴である。


「名前は《ひとしずくの塩水飴》」


 シオは目を輝かせた。


「海の味と、山の甘さがする……」


 茶太郎が笑う。


「シオが海と山の道をつないでくれたからだよ」


 シオは大事そうに水飴を舐めた。


「じゃあ、次はわたしが茶太郎を海へ案内する。すぐじゃなくても、いつか必ず」


 その約束を聞きながら、ひこじいは下京宛ての荷札を見つめていた。


「茶太郎。残りの塩を都へ届けるには、六角堂の町衆と話をつける必要がある」


 伊平いへいじいさんが静かに言う。


「そこには、花をもって人の心を立て直す僧がおるそうじゃ」


 荷札の裏には、一人の名が記されていた。


 池坊専応いけのぼう・せんおう——。


 焼けた都で花を立て、町の人々を励ましている僧の名だった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 今回は、海と山を行き来するアオバトをもとに、シオという案内役を描きました。


 塩舟の荷は、見つけた者が自由に使える物ではありません。宇治へ渡せる分と、下京へ届ける分を荷札で確認し、茶葉や薪との交換によって受け取りました。


 物資を助け合うときほど、誰の荷なのかを確かめる必要があります。


 次に塩を届ける先は、焼け跡に立つ六角堂。


 次回、池坊専応の一枝が、傷を隠さず町を立て直す方法を示します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークや評価(★)をお願いします!
『茶太郎がゆく』
style=
目次からブックマークをお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ