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第4話 「莵々(とと)の縁(ゆかり)と希太、そして茶丸」

 ――三つの縁が初めて結び合う日――


 茶丸を助けて三日が経った。

 茶太郎の家の商屋は、朝から茶の香りで満ちていた。


 母・志乃が声をかける。


「茶太郎、今日はお客さんが来るよ。莵々(とと)のゆかりちゃん」


 茶太郎はぱっと顔を上げた。


「ゆかり、来るの?」


「うん。お母さんが紐の色合わせで相談があるんやって」


 そのとき、店の戸がコトンと開いた。


「……こんにちは」


 淡い桃色の着物に組紐の髪飾り。

 静かな目元が茶太郎を見つけて、ふわりと笑う。


「ゆかり!」


「茶太郎、元気そうでよかった」


 茶太郎の胸の奥が、ほんのり甘い味で満たされた。


 茶太郎はゆかりの手を引き、奥の部屋へ案内する。


「ゆかり、見て。猫さん、助けたんだよ」


 布団の上で眠る黒猫。

 白い斑を持つ獣王・茶丸。


 ゆかりは茶丸を見た瞬間、瞳の奥に淡い金色の線が走った。


「……この子、すごい糸を持ってる」


「糸?」


「金色の縁……神さまみたいな色」


 茶丸はゆっくりと目を開け、ゆかりを見つめた。


「……(低く鳴く)」


「こんにちは。茶太郎のお友だちだよ」


 茶丸は一度だけ尻尾を揺らした。

 それは“挨拶”だった。


「うちにも猫がいるの。希太きたっていうの」


「きた?」


「三毛の男の子。ちょっとブサかわで……すごくツンデレ」


 志乃が驚く。


「三毛の雄!? 珍しいねぇ」


 ゆかりは少しだけ声を落とした。


「……でもね、希太はただの猫じゃないの」


 茶太郎は息をのむ。


「どういうこと?」


「昔の偉い人が飼ってた猫の生まれ変わりなんだって。

 菟道稚郎子うじのわきいらつこさまの猫」


 茶丸の耳がピクリと動いた。


「……(低く、興味のある鳴き声)」


「茶太郎、よかったら……ととのえに来る?」


「行く!」


 茶丸は立ち上がり、茶太郎の足元に寄り添った。


「茶丸、行く?」


「……(尻尾を揺らす)」


 ゆかりは嬉しそうに微笑んだ。


「茶丸、歩けるようになったんだね。よかった」


 ととのえに着くと、店の奥からブサかわな三毛猫が姿を現した。


「……にゃ(※不機嫌そう)」


「希太、茶太郎だよ。お友だち」


「……にゃ(※興味はあるがツン)」


 茶太郎は目を輝かせた。


「かわいい……」


「シャッ(※照れ隠し)」


 その瞬間、茶丸が希太を見た。


「……(低く鳴く)」


 希太の毛が逆立つ。


「……にゃ(※警戒)」


 ゆかりが慌てて止める。


「希太、だめ。茶丸は茶太郎の猫さんだよ」


 希太はゆかりの声に従い、毛を戻した。


「……にゃ(※ゆかりには従う)」


 茶丸はゆかりを見つめ、静かに尻尾を揺らした。


 茶太郎が尋ねる。


「希太、ゆかりと仲良しなの?」


 希太はそっぽを向いたが、尻尾の先だけがゆかりの足に触れている。


「……にゃ(※ツン)」


 ゆかりは少しだけ視線を落とした。


「希太はね、わたしを守ってくれるの」


「守る?」


 ゆかりは静かに語り始めた。


「……赤ちゃんのころ、宇治橋でね。悪い霊に呪われそうになったの」


 茶太郎の胸の奥が、苦い味で満たされる。


「橋の下から黒い糸が伸びてきて、わたしの足に絡んだの。

 冷たくて、重くて……泣いたら、もっと強く締まったの」


 希太は毛を逆立てた。


「……にゃ(低く、怒り)」


「そのときね、希太が飛び出してきて……

 黒い糸を全部噛み切ってくれたの」


「希太が……助けたんだ」


 ゆかりは希太の頭を撫でる。


「うん。希太がいなかったら、わたし……」


 希太はゆかりの手に頭を押しつけた。

 ツンデレなのに、この瞬間だけは素直だった。


「……にゃ(※“守る”の意味)」


 茶丸はゆかりの手を見つめた。

 そこには淡い桃色の糸と、黒い痕跡がわずかに残っている。


 茶丸(念話)

『この子は“縁の子”。霊に狙われやすい』


 希太(念話)

『だから守るにゃ。ゆかりは特別にゃ』


 茶丸(念話)

『お前の霊気は古い。皇子の縁を持つ猫か』


 希太(念話)

『あんたこそ獣王のくせに、ゆかりに甘いにゃ』


 茶丸(念話)

『茶太郎の縁が、この子を呼んだのだ』


 希太(念話)

『茶太郎は悪くないにゃ。ゆかりが笑うから、許すにゃ』


 茶太郎

「二人とも……仲良し?」


 希太

「にゃっ(※否定したいが言えない)」


 茶丸

「……(尻尾を揺らす)」


 ゆかり

「ふふ……かわいい」


 茶太郎はゆかりの手をそっと握った。

 ゆかりは握り返す。


 希太は二人の足元に座り、

 茶丸は茶太郎の背後に静かに寄り添う。


「茶太郎の味、今日もあったかい」


「ゆかりの色、きれい」


 茶丸(念話)

『この三つの縁は、宇治を変える』


 希太(念話)

『ゆかりを泣かせたら、噛むにゃ』


 茶太郎

「えっ……?」


 ゆかり

「希太、だめ」


 希太

「……にゃ(※ゆかりには従う)」


 茶丸

「……(目を細める)」


 この日——

 茶太郎・ゆかり・希太・茶丸の縁が初めて深く結び合った。


 宇治の物語は、ここから本格的に動き始める。

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