第3話 「茶太郎、茶丸を看病し“初めての料理”を作る」
――獣王に名を与えた日――
茶畑脇のお地蔵さんで倒れていた黒猫——茶丸。
茶太郎は胸の奥の熱に導かれるように、そっと抱き上げた。
かん太
「茶太郎、気ぃつけろ。弱ってるんや」
こたろ
「猫さん冷たいよ〜……」
茶太郎
「……大丈夫。あったかくする」
茶太郎は茶丸を抱え、
両親の商家へと走った。
母・志乃
「まぁ……猫ちゃんが弱ってるやないの。茶太郎、連れてきたん?」
茶太郎
「助けたい」
父・宗次
「よし、奥の部屋に寝かせてやれ。湯を沸かすぞ」
茶丸は布団の上で小さく丸まり、
かすかに息をしていた。
茶丸の体に触れるたび、
茶太郎の胸の奥がじんわり熱くなる。
甘い。
寂しい。
弱っている味。
茶太郎
「……なんか、作らなきゃ」
志乃
「作るって……茶太郎、料理できるん?」
茶太郎
「できる。たぶん」
3歳児の言葉とは思えないほど、
茶太郎の声は真剣だった。
宗次
「よし、簡単なもんやったら手伝ったる。茶太郎、何がええ?」
茶太郎は茶畑の棚に置かれた茶葉を見つめた。
胸の熱が強くなる。
茶太郎
「……この茶葉。使う」
宗次
「茶葉で……何を作るんや?」
茶太郎
「猫さんが飲めるやつ」
志乃
「茶太郎……あんた、ほんまに不思議な子やねぇ」
茶太郎は茶葉を手に取り、
小さな指でゆっくり揉み始めた。
かん太
「茶太郎、それ……茶揉みしてるんか?」
こたろ
「すごいよ〜! ぼくより上手だよ〜!」
茶太郎の指先から、
ほんのり霊気がにじみ出る。
茶葉が柔らかくなり、
香りが甘く、優しく、
どこか懐かしいものへ変わっていく。
宗次
「……なんやこの香り……普通の茶葉と違う……」
志乃
「心が落ち着くような……不思議な香りやねぇ」
茶太郎
「これ、猫さんにあげる」
宗次は湯を少し冷まし、
茶太郎の揉んだ茶葉を入れて弱火で温めた。
湯気がふわりと立ち上がり、
部屋の空気が柔らかくなる。
志乃
「……なんやろ、胸が軽くなるような……」
かん太
「茶太郎の茶……すごいな……」
茶太郎は小さな椀を持ち、
茶丸の前にそっと置いた。
茶太郎
「飲んで……あったかくなるよ」
茶丸は弱い体を起こし、
椀の縁に鼻を寄せた。
その瞬間——
茶丸の霊気がふわりと揺れた。
金色の瞳が少しだけ開き、
茶太郎を見つめる。
茶丸はゆっくりと茶を舐めた。
甘い。
優しい。
心がほどける味。
茶丸の呼吸が、
ほんの少しだけ整った。
志乃
「……飲んだ……!」
宗次
「茶太郎、お前の茶……ほんまに効いてるんやな……」
茶太郎は笑った。
胸の熱が静かに落ち着いていく。
茶丸は茶太郎の膝に頭を乗せた。
弱っているのに、どこか安心したような顔だった。
茶太郎
「……名前、つけるね」
かん太
「名前? 猫にか?」
こたろ
「茶太郎、名前考えるの〜?」
茶太郎は茶畑の葉を見つめた。
胸の奥に、ふわりと甘い味が広がる。
茶太郎
「……茶丸」
志乃
「茶丸……茶畑の子らしい、ええ名前やねぇ」
宗次
「黒猫に“茶丸”か……なんや、しっくりくるな」
かん太
「茶丸様やな。なんか強そうや」
こたろ
「茶丸〜! 早く元気になってね〜!」
茶丸は弱い体で尻尾を一度だけ揺らした。
それは、
獣王が見せる“最大級の肯定”だった。
茶太郎
「茶丸……ぼくが守るからね」
茶丸は目を閉じ、
茶太郎の膝の上で静かに眠った。
この日——
茶太郎は初めて料理を作り、
獣王に名を与え、
霊性料理人としての道を正式に歩き始めた。




