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茶太郎がゆく ~猫と霊を癒やす料理で、戦国の天下を巡る~  作者: 莵月
第一章 ~三歳の茶太郎、宇治を巡る~
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第27話 「温もりの試練と、一つの鍋」

 ――豪華さではなく、皆で作れる味を探して――


 秘密基地へ戻ると、茶太郎は地面へ材料を書き並べた。


「麺には、小麦粉と塩と水」


 宗次が商屋の在庫を確認する。


「小麦はある。ただし全部は使えん。店で売る分も残さなあかん」


「少しでいいよ。雑穀の粉も混ぜる」


 ウリハが跳び上がる。


「キュイッ! 畑に葱と蕪がある!」


「勝手に抜いたらだめだよ」


「ちゃんと聞いてくる!」


 ウリハは畑へ走っていった。


 かん太が慌てて後を追う。


「一人で行くな!」


 ナギは水差しの周りを泳ぐ。


「水……ぼくが見る。柔らかい水、麺に合う」


「でも、ナギが水を作るんじゃないよ」


「うん。井戸の水から、合うものを選ぶ」


 出汁に使えるものは多くなかった。


 宇治の商屋にあったのは、


 ・都へ運ばれる途中の昆布

 ・干した小魚

 ・干し椎茸

 ・味噌桶から採れた少量の溜り

 ・生姜

 ・葱

 ・蕪とその葉


 宗次は昆布を一本持ち上げる。


「これは売り物や。使うなら、その分は働いて返してもらうで」


「何をしたらいい?」


「茶葉の選別を手伝ってくれ」


「ぼくもやる!」


 茶太郎、ゆかり、こたろは、混ざった茎や傷んだ葉を選り分けた。


 レオとシロも横に並ぶ。


「……これ、茎」


「こっちは……葉っぱ!」


 希太は茶葉の籠へ入ろうとして、ゆかりに止められた。


「希太は見てるだけね」


「にゃ……」


 仕事を終え、茶太郎たちは必要な分だけ昆布を受け取った。


 次は味噌屋へ向かう。


 味噌屋の主人は、小瓶に入った溜りを見せた。


「味噌の桶から採れる、濃い汁や。塩気が強いから、入れすぎたら全部同じ味になるぞ」


「何と交換できますか?」


「茶太郎の家の茶茎を少し分けてくれ。働く者の湯に使いたい」


 宗次がうなずく。


「それなら話はまとまる」


 材料は、頼めば無料でもらえるものではない。


 育てた者、作った者、運んだ者がいる。


 茶太郎は材料と一緒に、その人たちの手間も受け取っているのだと知った。


 秘密基地へ戻ると、試作が始まった。


 最初の汁には、昆布、干魚、干し椎茸をすべてたくさん入れた。


 さらに味噌と溜りを加える。


「できた!」


 茶太郎が味見すると、強い旨味と塩気が一度に押し寄せた。


「……おいしいけど、疲れる」


 橋姫も椀を置く。


「一口目は華やかです。しかし、最後まで飲むには少し重いですね」


 茶丸が茶太郎を見る。


『旨味を集めることばかり考えたな』


「温かくしたかったから……」


『味を重ねることと、心を温めることは違う』


 茶太郎は材料を減らした。


 二度目は昆布と干し椎茸を中心にする。


 干魚は香りを補う程度。


 味噌を溶き、溜りは最後にほんの少しだけ加えた。


 麺には小麦粉と雑穀粉を合わせる。


「キュイッ! ぼくがこねる!」


 ウリハが前足を生地へ載せる。


「足は洗った?」


「……洗ってくる!」


 ナギが選んだ井戸水を少しずつ加え、かん太が力を込めて生地を練る。


 ゆかりと志乃が麺を細く切った。


 レオとシロは蕪を運び、こたろは葱を持って転んだ。


「葱は無事〜!」


「自分の心配せえ!」


 文福茶釜の湯で、麺を一度茹でる。


 それから蕪、葱、干し椎茸とともに、味噌仕立ての汁で短く煮込んだ。


 生姜をほんの少し加える。


 鍋から、柔らかな湯気が立ち上った。


「食べてみよう」


 全員で鍋を囲む。


 茶太郎は自分から食べず、まず小さな椀へ取り分けた。


 熱すぎないように息を吹きかけ、レオへ渡す。


「どう?」


 レオは麺を一本すすった。


「……あったかい」


「熱くない?」


「うん。お腹の中に……ゆっくり来る」


 ナギも汁へ触れる。


「水の流れ……やさしい」


 ウリハは夢中で麺を食べている。


「キュイッ! もう一杯!」


 茶丸も汁をひと口舐めた。


『豪華ではない。だが、これなら食べる者が疲れぬ』


 志乃が微笑む。


「冷めても、味噌と生姜の香りが残るね」


 宗次も椀を置いた。


「材料も無理なくそろえられる。同じものを、また作れる料理や」


「また作れる……」


 茶太郎は鳳凰の言葉を思い出した。


 失うことを恐れる心へ出すのは、二度と手に入らない珍味ではない。


 食べ終わっても、また皆で作れる料理。


「名前をつけよう」


 ゆかりが言う。


「何て名前にするの?」


 茶太郎は、鍋を囲む仲間たちを見渡した。


「《帰り火の煮込み麺》」


「帰り火?」


「帰ってきた人のために、消さずに残しておく火。マキトが守ってるものと同じだよ」


 マキトが静かに頭を下げる。


「よい名だ。帰る者は、火が見えれば歩き続けられる」


 その瞬間、茶太郎の手にある橙色の印が光った。


 鍋の湯気が一筋の道となり、平等院の方角へ伸びていく。


 鳳凰の声が響く。


『料理は定まりました。第一の扉へ来なさい』


 茶太郎は完成した鍋を見つめた。


 作ったのは自分一人ではない。


 水を選んだ者。


 畑から野菜を運んだ者。


 粉をこねた者。


 材料を作り、交換してくれた人々。


 そのすべてが、一つの鍋へつながっている。


「行こう」


 茶太郎は橙色の印を握る。


「この温もりを、迷宮へ届けるんだ」


 翌朝。


 茶太郎たちは《帰り火の煮込み麺》を携え、影心の迷宮が待つ平等院へ向かうことになった。

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『茶太郎がゆく』
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