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茶太郎がゆく ~猫と霊を癒やす料理で、戦国の天下を巡る~  作者: 莵月
第一章 ~三歳の茶太郎、宇治を巡る~
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第25話 「小さな扉と、ウリハの帰る場所」

――道を結ぶ力は、運ぶ量ではなく縁によって育つ――


 大吉山からの帰り道。


 日が沈み始めた山中を、マキトの残した白い印が照らしていた。


「こっちだ。足元に気をつけよ」


 マキトが先頭を歩き、かん太が茶太郎とこたろの手を引く。


 ナギは地下を流れる水の音に耳を澄ませていた。


「……右の道、水が集まってる。滑りやすい」


「ほな、左へ回ろう」


 伊平いへいじいさんが道を選び直す。


 ウリハも一行についてきていた。


「キュイッ! ぼく、山の外に出るの初めて!」


 元気よく走り出した直後、木の根につまずいて転がる。


「ぼくと同じ〜!」


 こたろが喜ぶ。


「同じにするな!」


 ウリハは土を払い、何事もなかったように胸を張った。


 秘密基地へ戻ると、床の上に一枚の若葉が落ちていた。


 大吉山で小さな扉へ入れた、ウリハの葉だった。


「本当に届いてる……」


 茶太郎が若葉を拾う。


 基地の壁には、新しい印が浮かんでいた。


 若葉をかたどった、小さな光の輪である。


『大吉山との縁が定着したようだ』


 茶丸ちゃまるが告げる。


「もう、人も通れる?」


『試してみるか』


 茶太郎が光の輪へ手を当てる。


 胸の奥に熱が集まり、壁に手のひらほどの小窓が開いた。


 向こう側には、大吉山の塚と、夕暮れの木々が見える。


「ぼくの山だ!」


 ウリハが鼻先を突っ込もうとした瞬間、小窓が揺らいだ。


「うわっ!」


 ウリハは弾かれ、後ろへ転がった。


『まだ生き物を通すほど、道が育っていない』


「葉っぱは通れたのに」


『葉一枚と、意思を持つ霊一体では、必要な力が違う』


 茶太郎は試しに、空になった小さな木椀を窓へ入れた。


 椀は無事に大吉山側へ落ちる。


 もう一度呼び戻そうとしたが、小窓は細かく震え、そのまま閉じてしまった。


「閉じちゃった……」


『一度に運べる量にも限りがある。何度でも使える亜空間ではない』


 ナギが床下の水を見つめる。


「道を開いたあと……基地の水、少し冷たくなった」


『扉は、土地に蓄えられた熱や霊気も使うらしい』


 茶太郎は壁から手を離した。


「じゃあ、食べ物をいっぱい運ぶために使ったら、基地や山が弱る?」


『その可能性がある』


「必要なときだけにする」


 茶太郎は決めた。


「楽だからって、何でも扉で運ばない。最初は自分で歩く」


 壁の若葉模様が、穏やかに光った。


 ウリハは基地の中を見回す。


「ここ……ぼくもいていい?」


「もちろん」


 茶太郎は、入口近くに藁を敷いた。


「ウリハの場所はここ。土が近い方が落ち着くでしょ?」


「キュイッ!」


 ウリハが藁へ飛び込み、身体を丸くする。


「ここ、温かい。山とは違うけど……好き!」


 レオとシロも、その隣へ座った。


「……ウリハ、ともだち」


「いっしょに……まもる!」


 マキトは入口に立ち、ナギは床下の水路を泳ぐ。


 大吉山へ続く扉は、まだ葉と小さな道具しか通せない。


 それでも秘密基地には、新しい帰る場所が一つ増えた。


 その夜。


 平等院の方角から、金色の羽根が一枚、夜風に乗って飛んできた。


 羽根は基地の入口を通り、茶太郎の前へ静かに降りた。


 触れた瞬間、鳳凰の声が心へ響く。


『茶太郎。明日、平等院へ来なさい』


 金色の光の奥に、黒い迷宮の入口が浮かんでいた。

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『茶太郎がゆく』
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