↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶太郎がゆく ~猫と霊を癒やす料理で、戦国の天下を巡る~  作者: 莵月
第一章 ~三歳の茶太郎、宇治を巡る~
PR
17/361

第17話 「縣祭(あがたまつり)の支度――レオと茶太郎の茶料理試作会」

 ――初めての共同料理と、祭りへ届ける二つの味――


 初夏の風が宇治の里を吹き抜け、通りには縣祭の幟が立ち始めていた。


 宗次たちは、縣神社へ茶料理を奉納できないか願い出た。


 話し合いの結果、神前へ供える料理は大人が責任を持って届けること。町の者へ出す料理は宗次の店先で扱うこと。その二つを守るなら、試作を進めてもよいことになった。


「神さまへ供える物と、店で売る物は別や」


 秘密基地へ集まった子どもたちに、宗次が説明する。


「奉納する物を勝手に売ったらあかん。店の料理も、霊の力を売り文句にはせえへん」


「どうして?」


「目に見えへん力を言い立てたら、病や怪我が治ると思う人が出るかもしれん。それに、祭りを利用して金儲けしとると思われたら、神社との信頼もなくなる」


 茶太郎は頷いた。


「不思議な力じゃなくて、味と材料を見てもらうんだね」


「そういうことや」


 志乃も材料を並べながら微笑んだ。


「値段や神社との話は大人に任せて。茶太郎たちは、皆が安心して食べられる味を考えてね」


 茶太郎は隣にいるレオを見た。


 今日のレオは、白金色の髪と金色の瞳を持つ、人の子に近い姿をしている。ただし、細い尾と丸い獣の耳は残っていた。


 誰かに姿を決められたのではない。

 料理を手伝うために、レオが自分で選んだ姿だった。


「一緒に作ってくれる?」


「……うん。ぼく、やってみたい」


 レオは緊張しながらも、小さな胸を張った。


 ◇


 最初に試すのは、店先で出す焼き茶団子だった。


 茶太郎が乾かした茶葉を細かくし、米粉へ少量混ぜる。志乃が水加減を整え、レオは分けてもらった生地を両手で丸めた。


「一口で食べられるくらいにするんだよね」


「うん。大きさもそろえてね」


 レオが作った最初の団子は、少し角張っていた。


「……丸くない」


「食べたら同じだよ〜!」


 こたろが慰める。


「せやけど、大きさが違うと火の通り方も変わるで」


 かん太が見本を一つ作り、レオの団子の隣へ置いた。


「初めからうまくできんでもええ。並べて見たら、どこが違うか分かるやろ」


 レオは二つを見比べ、もう一度生地を転がした。


 今度は先ほどより丸い。


「できた」


「上手になったね」


 茶太郎が笑うと、レオの尾も小さく揺れた。


 丸めた団子をかん太が茹で、宗次が表面を軽く焼く。仕上げに米飴を薄く塗ると、香ばしい茶の匂いが竹林へ広がった。


「祭りの日は歩きながら食べる人もおる」


 宗次が焼き上がりを確かめる。


「汁物より、こっちの方が渡しやすいな」


「竹串は使わないの?」


「人が多いところで子どもが持つには危ない。小さな竹の皮へ載せて渡そう」


「それなら、食べ終わったあとも片づけやすいねぇ」


 志乃も賛成した。


 ◇


 二品目は、縣神社へ奉納する茶の蒸し羊羹だった。


 柔らかく煮た小豆を潰し、米粉と小麦粉、わずかな米飴を合わせる。そこへ茶太郎が選んだ茶葉を混ぜ、木の型へ入れた。


 レオが生地の上へ手をかざす。


「ぼくの力も入れた方がいい?」


「無理に入れなくていいよ」


 茶太郎は答えた。


「力じゃなくて、レオが一緒に作ったと分かる印をつけよう」


 二人は細い竹べらを持ち、生地の表面へ緩やかな線を描いた。


 宇治川から巨椋池へ流れる水。

 大吉山から秘密基地へ下りてきたレオ。


 二つの帰り道を重ねた模様だった。

 蒸し上がった羊羹には、小豆色と茶葉の緑が、穏やかな流れとなって浮かんでいる。


「きれいな模様やねぇ」


 志乃が目を細めた。


「茶太郎とレオ、二人で作ったんやね」


 縁には、羊羹から伸びる糸が淡い白金色に見えていた。


「強い力じゃない。でも、二人の糸が喧嘩せずに並んでる」


 レオは蒸し羊羹を見つめ、照れたように笑った。


 ◇


 三品目には、葛粉を使った茶の葛寄せを試した。


 分福の湯で葛を練り、茶葉の香りを移す。冷ますと、淡い緑色の柔らかな菓子になった。


「ぷるぷるしてる〜!」


 こたろが器を揺らす。


「揺らしすぎたらこぼれるで」


 かん太が慌てて器を押さえた。


 味は悪くない。

 口へ入れると、葛の滑らかさと茶の香りが涼やかに広がる。


 しかし、初夏の店先では形が崩れやすく、一つずつ器も必要になる。大勢へ素早く渡す料理には向いていなかった。


「今回は見送ろう」


 宗次が判断した。


「祭りの日は人が多い。おいしくても、渡すのに手間がかかったら店が回らん」


「失敗なの?」


 レオが心配そうに尋ねる。


「失敗やない」


 宗次は葛寄せを一口食べた。


「祭りには向かんと分かったんや。暑い日に店の中で出すなら、ええ菓子になるかもしれん」


「今は使わなくても、作ったことは無駄にならないんだね」


「それが試作や」


 レオは残った葛寄せを見つめたあと、しっかり頷いた。


 ◇


 試食の結果、祭りへ用意する料理は二品に決まった。


 宗次の店先では、米飴を薄く塗った焼き茶団子。

 縣神社へは、茶太郎とレオが流れの模様を描いた茶の蒸し羊羹。

 茶粥については神社側との相談を続け、正式な許しが得られた場合だけ奉納する。


「店の値段は、材料と手間を計算して父ちゃんたちが決める」


 宗次が帳面へ書き込む。


「売り上げの一部は、宇治橋と川辺の修繕へ回すつもりや」


「僕たちが戻した川を、今度は商いで守るんだね」


「霊の力だけに頼らず、人の手で守り続けることが大事やからな」


 レオは試作の間、何度か影を揺らした。


 団子がうまく丸まらなかったとき。

 祭りで大勢の人に見られることを想像したとき。

 白金色の足元から、黒い霧がわずかに漏れた。


 それでもレオは、霧を隠さなかった。


「茶太郎。ちょっと怖くなった」


「じゃあ、休もう」


 二人は手を止め、秘密基地の外へ出た。


 竹林を渡る風に当たり、ゆっくり息をする。茶丸と希太も何も言わず、少し離れた場所へ座った。

 しばらくすると、レオの影は元の小さな獣の形へ戻った。


「もう暴走しない」と決めつけるのではない。


 苦しくなる前に知らせる。

 知らせてもらった者は、無理をさせない。

 それが、皆で決めた約束だった。


「ぼく、ここで料理を作るの、好き」


「祭りの日も無理しなくていいからね」


「うん。でも、できるところまでやってみたい」


 レオの言葉に、縁が微笑む。


「二人の糸が、少し太くなったよ」


 茶太郎も、自分の中に新しい感覚が生まれていることに気づいていた。

 レオの力を借り、料理を強くするものではない。

 相手の様子を確かめ、できることを分け合い、それぞれの手を一つの味へ結ぶ感覚だった。


「当日は、大人が店を切り盛りする」


 宗次が皆を見渡した。


「茶太郎たちは、今日決めた味を丁寧に作ってくれ。それから、嫌やと思ったら無理をせずに言うんやで」


「うん」


「ぼくも、丸い団子を作る」


 レオは、試作の最初よりきれいに丸めた団子を一つ掲げた。

 分福が、ぽん、と楽しそうに蓋を鳴らす。

 縣祭へ届けるのは、奇跡をうたう料理ではない。

 皆で試し、失敗し、直しながら作り上げた二つの味だった。


 けれど祭りの日、レオの料理を口にするのは、仲間だけではない。

 自分を怪物と呼ぶかもしれない、大勢の人々が待っている。


 レオは幟の立つ町を見つめ、白金色の尾を胸元へ抱き寄せた。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 今回は、茶太郎とレオによる初めての共同料理でした。


 完成したのは、店先で出す焼き茶団子と、縣神社へ奉納する茶の蒸し羊羹。葛寄せは祭りには採用されませんでしたが、試作したからこそ、別の使い道が見えてきました。


 料理へ不思議な力を加えるのではなく、失敗を比べ、役割を分け、相手の状態を確かめながら一緒に作る。これも茶太郎が学び始めた、新しい「縁の結び方」です。


 次回はいよいよ縣祭当日。


 人を恐れて山へ隠れていたレオが、初めて大勢の前へ立ちます。茶太郎たちの二つの味が、祭りへどのような縁を結ぶのか、見守っていただければ嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークや評価(★)をお願いします!
『茶太郎がゆく』
style=
目次からブックマークをお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。