8、配信終了
「オイ、赤いウサギ!
いや、赤井、旧姓、宇佐美忠彦!
いい加減、こんな悪趣味なこと止めて、別の有益な企画をやれよ!
お前、せっかく良い腕持ってるんだから!」
ミナトは立ち上がって、スクリーンの少女を指差しながら、余計なお世話だとは承知の上で提案する。
悔しいかな……ヤツのハッキング能力は本物で、今回は正直、死も覚悟した
だから、要は使い方の問題だ!
同じ分野を追求し続けているからこそ、ウサギが持つ、能力のスゴさを今回は痛いほど実感した、ミナトからの提案だった。
しかしミナトの提案を聞いた赤いウサギは、目を見開いたまま、一瞬にして固まった後、顔を真っ赤にさせ、ミナトに向かって怒鳴る。
「うっさい、ウッサイ、うるさ~い!
覚えてろよ!」
そう赤いウサギこと、宇佐美忠彦は捨てゼリフだけを残し、スクリーンからプツンと消え去った。
「あ~っ、良くあるパターンだが……やらかしたなぁ……先輩」
アソウのボソリとした呟きに、ミナトは憮然として問い返す。
「なんでだよ?
逆にオレは手柄をあげたと思うんだけど?」
「いや……だから……その……」
いつもは理路整然と話すアソウが、珍しく言い淀んだ。
「何だよ?
はっきり言えよ?」
釈然としないミナトは、アソウに追及を続けたが、アソウは黙ったまま答えなかったので、仕方なしにミナトは、無理矢理自分で結論づける。
「まぁ、イイんじゃねぇ?
いきなりオレに本名暴露されたせいか、珍しくヤツは焦って、まだ配信中だったにも関わらず、何の対応もできなかった。
だから、さっきの赤いウサギの本名は、すでに全国、いや、海外まで配信されているだろうから、本人が捕まるのも時間の問題だな」
そう言い切ったミナトは、その視線を今度はアソウの足に定めた。
「その足、オマエが前に所属していた機動隊にいた時に、赤いウサギの爆弾シリーズを阻止しようとして負傷したんだろう?
後遺症が残るほどひどい怪我で、オマエは結果として、機動隊を去ることを余儀なくされた。
そのコトを知ったウサギは、機動隊の期待の新人であり、優秀でツラも良くモテモテのオマエを傷付けたコトに昏い喜びを覚え、それからずっとオマエに付きまとっているんだってな。
しかも今回は、オマエの命まで奪おうとした!
アソウ、機動隊に入るのが小さい頃からの夢だったって前に言ってたよな?
せっかく夢を叶え、その先も続くハズだった、輝かしい未来をアイツは潰したんだ!
しかもソレを喜ぶだなんて!
オレはそんなヤツ、マジ許せねぇ!
今回、オレたちがヤツを負かしたことで、少しくらい、オマエの気持ちが晴れてくれたら……オレは嬉しいな」
ミナトの話を黙って聞いていたアソウの目が、最後は驚きで見開く。
やがて、ポリポリと右頬を掻いたアソウは、目を伏せながら、小さな声で言った。
「……アリガト、先輩」
「ああっ?
良く聞こえねぇなぁ~?」
頑張った褒美にもう一度その言葉を聞きたかったミナトはそう返したが、後輩の頭の中身は既に業務へと完全に切り替わったようで、全く別内容の質問をされる。
「んで、先輩、どうやってアイツの本名、分かったんだよ?」
今はまだ仕事中なので、自然とミナトの意識も切り替わった。
「あ~それな……アイツがこちらのシステムに侵入してきた先を逆に辿っていったら、偶然見つけた」
「やっぱり、かなわねぇ」
真っ直ぐミナトの目を見つめて、ストレートに賛辞を述べたアソウに、ミナトはなんだか照れてしまう。
「まぁ……その……一応キャリアとしては、オレが先輩だからなぁ」
照れ隠しにミナトがアソウの髪をワシャワシャと撫で回すと、アソウはミナトの手から逃れながら、恐ろしいコトを言い出した。
「ウサギのターゲットは、ホントはオレじゃなくて、先輩だったりして……」
「オレぇ?
何で?
何でぇ~!?
オレはオマエみたいにモテないし、心当たりないんだけど?」
心底不思議そうな顔で逆にアソウへ質問したミナトだったが、アソウの回答を聞いた途端、頬だけでなく、耳たぶまでもが熱くなる。
「この分野にいる者は皆、先輩が持つ、ワカルという才能に嫉妬を超えて……ホレていますよ。
それに先輩、分かってます?
先輩の、その神がかった才能と天然の優しさに、男女問わずたくさんのファンがいることを。
ヤツ、宇佐美は、口ではオレのこと気に入って狙っているとは言うものの、本当は、先輩の隣にいるオレの立場が羨ましくて、その座からオレを蹴落とそうとしているんですよ?」
「はぁ~!
何だよ、そのヘンな解釈!」
ミナトにとって、思いもよらない解説をしたアソウはため息をひとつつくと、またしてボソッと言い放った。
「ウサギも報われない片想いだな。
まぁ、オレも……この場所を誰にも譲るつもりは、一切ないけど」




