9、決意表明
その頃、街では……。
「なぁ、あの配信見たか?」
「見た見た!」
「ショックだよなぁ~……あの美少女の正体が男だなんて!」
「ショック通り過ぎて幻滅したわ、オレ!
だからさっそく退会した……課金した金額は戻らないけどな」
「そう!ソレな!
ツライよなぁ~、いくら赤部屋に溶かしたんだよ、オレ!
ゾッとするわ」
「それにしても、なんで声と正反対なビジュアルを選んだのかしら?」
「よく言われる、理想の自分になってみたかったというヤツじゃない?」
3人組の男性たちが、ドリンク片手に歩きながら話したり、ある公園では男女各2名からなるグループが芝生に座り込んで、話題の配信について話し込んでいる。
赤いウサギの正体について、人々は一日中話題にしているといっても過言ではない状態であった。
「……だそうですよ、先輩?」
「あぁ、何がだよ?」
あの、警察史上最大の危機と称された、赤いウサギによる通信指令室乗っ取り事件がある程度の収束を迎えた数日後、ミナトとアソウはいつもの食堂で昼食をとっていた。
警察内部が爆破対象、かつ、その犯行の一部が全世界に配信されたこともあり、直接その対応に関わったミナトとアソウも庁内で注目を集め、2人が食堂に姿を見せただけで堂内が騒めく。
普段は無口なアソウだが、さすがにあちらこちらで耳に入るせいか、ウサギに対する人々の反応を、わりと小まめにミナトに教えてくれた。
そもそもコイツは、情報収集能力がズバ抜けているからなぁ〜
まぁ、このおキレイな顔面を目にしただけで、話すつもりがないコトも話したくなるよな
真正面に座っているアソウの整った顔をなんとはナシに見ながら、ミナトはぼんやりと思う。
「先輩がウサギの正体を暴いてから、ヤツの評価はダダ下がり、会員数もほぼゼロで、サイトは閉鎖されたってさ」
「やはり……あのビジュとのギャップがな……美少女に野太い声は一発アウトだよな?」
そんな話を小さな声でアソウとヒソヒソと交わしていると、ミナトの隣の席に、いきなり本日のオススメが乗ったトレーが置かれた。
「仲間に入れてくれる?」
「ボス!」
驚いたミナトの呼びかけをOKと受け止めたのか、ミナトの左隣にカナエがストンと座る。
「まだ捕まってないわ」
席に着くのと同時に、ミナトが尋ねようとした内容をカナエが答えた。
「なんでオレの質問が分かったんですか?」
更なる驚きにミナトが目を大きく見開いて口にすると、カナエは箸を手に取りながら教えてくれる。
「最終的に気になるのは、ソコしかないじゃない。
しかもミナト、かなり顔に出るタイプだから分かるわよ」
「オレにはボスのワカる能力の方がスゲ~と思う」
遠回しに小学生扱いされたミナトは口を尖らせながら、ご飯を頬張った。
「あの発信地は東南アジアだ」
ざわめく周囲に配慮してか、アソウが汁物を啜りながら、小声でボソる。
「そうね、だから身柄の確保は現地委託なの。
う~ん、この唐揚げ、美味しい~ぃ」
前半の一文は声を潜めて、後半の一文は大きな声で述べたカナエに、食堂の配膳担当のおばちゃんから「良かったわ~」との返事があった。
その声に「いつも美味しいランチ、アリガトね!」と笑顔で返したカナエをさらに凝視しつつ、ミナトがカナエを賞賛する。
「コミュ力、すげぇ~!
さすが、ボス!」
「うふふっ。
私の部下たちって、情報管理能力はピカイチだけど、まるでそれを引き換えにしたかのようにコミュ障ばかりじゃない?
上司の私は、そこを補ってあげないとね!
でもミナト、今回もすごかった!
さすがウチのゲートキーパーと呼ばれるだけあるわ!」
「……仕事だからな」
どストライクに上司から褒められたミナトは、頬を薄っすら赤く染め、付け合わせのサラダをつついた。
「あのね、ミナト……」
まだミナトに話しかけようとしたカナエだったが、ふとポケットに手をやると、慌てて立ち上がる。
「やだ~、食べ始めたばかりなのに、呼び出しがかかっちゃった!
行くわ!」
そう言ってカナエは、トレーを持ってサッサと出口に向かった。
「相変わらず、騒がしいよな、ボス」
突風のように訪れ、去っていったカナエの背中を見送りながら、ミナトの口からボスへの評価に続き、あの時の感想が溢れ落ちる。
「残り3秒だったけどな」
ミナトの感想にアソウは箸を置き、静かにミナトの目を見つめた。
「止めること自体が神技だ。
さすがゲートキーパー」
最近知った自分の二つ名に、ミナトは顔を顰めて、抗議の意を表す。
「ヤメろ、その呼び名」
「ははっ」
珍しく声をあげて笑ったアソウは、ふと真顔になると、スイッと首を前に出し、ミナトの目の前で音は発さず、唇の動きでこう告げた。
『先輩へのアクセスは、オレがゲートキーパーですから』
目で読み取った瞬間、ミナトの耳から一切の音が消える。
ドクンと跳ねた自身の鼓動に驚いたミナトは、つついていたサラダを急いで口に押し込んだ。
だが、どうやら喉はまだ驚愕から立ち直れていなかったらしく、ミナトはすぐさま派手に咳き込む。
「ゲホッ、ゴホッ、なっ、何だよ、ソレ!」
手で口を覆い、涙目になりながら、ミナトはこの原因を作った本人に、怒鳴ってしまった。
「水、飲んでください」
当の本人は前に出した首をスイッと元の位置に戻し、何事もなかったかのように自身もコップを手に取る。
「隣に立つ者の務めです」
コップを口につける直前に放った言葉は、飲んだ水と共に、アソウの内側に深く流れこんだ。
<完>




