7、問いかけと逆転
アソウのたったひと言で、無意識に入れていた余分なチカラが、ミナトの全身からスッと抜けていった。
視界がもう一段階、クリアになる。
我ながら単純だな
ミナトはまたしても表情筋を駆使することで、気持ちを顔に出すことを全力で阻止したが、今度の感情は抑えることがなかなか難しく……苦肉の策として、胸の内だけでニヤついた。
「3分前……2、1……」
この闘い、負けられねぇ!
ミナトは声に出さずに呟く。
マウスとキーボードの操作音以外、静寂が支配する中、ミナトはふと、隣に向かって口を開いた。
「いいのか?」
「なにが?」
無機質で平坦なトーンだったが、アソウはいつものように、すぐ応じてくれる。
「もしかして……オマエの最期の瞬間に立ち会うのがオレでも」
「あぁ……望むトコロだ」
そのひと言をもらったら……オレは!
ミナトの中で何かがソッと、外れた気がした。
「1分前……58、57……」
カナエのカウントの声が徐々に遠ざかり、ミナトの集中力がもう一段階増す。
ミナトの目には、プログラム言語がPC画面から飛び出してきて、スゴい速度で上から下へ流れていくように見えた。
「30秒前……25、24……」
その時、今まで真っ白い背景に黒い記号群が流れ去る景色の中で、1行だけ蛍光して黄緑色にみえるコードをミナトは発見する。
コレだ!
ミナトの口角は再び上がった。
「悪いな、アソウ。
オレの最期は、やっぱりカワイイ嫁と子どもが立ち会うって決まっているんだ!
だから、ココで終われない!
2人とも生き抜くぞ!!」
ミナトはアソウにそう声をかけると、光っているコードの前に「f」を打ち込む。
途端、その一行は黒字に転じ、瞬く間に下へ流れていく。
「先輩!」
いつになく慌てたアソウの声が耳元で聞こえたと思ったら、ミナトの左肩がバシッと叩かれた。
「痛ってぇ~んだよ!アソウ!
オマエはその澄ました顔に似合わずガタイが良くて力強いんだから、少しは手加減しろっていつも言ってんだろぉ!」
つい先ほどまで極限状態にいたせいか、ミナトの口調もより粗雑になる。
「イイから前見ろよ!先輩!」
まだジーンと痺れる左肩を自身の右手でゆっくりと撫でながら、ミナトは言われるがまま、少し先に横たわる巨大スクリーンへと焦点を合わせた。
『0:00:03』
「止まった?」
左肩にまだ自身の右手を乗せたまま、ミナトはなぜか自分の顔の右真横に同じく顔を寄せてきた、アソウに問いかける。
「あぁ、さすがだ、先輩」
通常より、更に一段低い声でアソウが答えると同時に、スクリーン右側にアップに映っていた美少女の顔が、今度は大きくグシャリと歪んだ。
「あれ?
オレそんなプログラム組んでないぞ?」
予測しなかった画面の動きに、ミナトは言い訳めいた言葉を発する。
ポカンと口を小さく開いたまま、ミナトは成り行きをアソウと共に見守っていると、画面の女は歯を剥き出しながら、野太い声でひと言吠えた。
「チッキィショ~ォオォォォ~!」
これまでの赤いウサギから一度も聞いたことのない音声とセリフに、ミナトは驚きすぎて体を硬直させたまま、今度は隣のアソウに問いかける。
「ヤツ、音声変え忘れているよな?
コレ、ヤツの地声?」
対するアソウの返答は、極めてシンプルな上、的確だった。
「だな。
あのビジュアルに惹かれて会員登録したヤツらは、すぐ退会するな」




