6、撤退命令と抵抗
「12分前……3、2、1……」
もう一度やり直しか!
ミナトはハッと短く息を吐き、残時間から、ある結論を導き出す。
「ボス、この建物から全員の撤退命令を」
「10分前……7、6……わっ……かっ……」
「ボス?」
いつも冷静なカナエの声が揺らいだのを不思議に思い、ミナトはもう一度言葉を繰り返した。
「全員に撤退命令を」
「あなたたちもよ!ミナト!!」
カナエの指示にミナトは淡々と事実を伝える。
「ここから移動して、再び態勢を整える時間はない」
やはりカナエは良い上司で、すぐさま言い返してきた。
「人命優先よ!」
過去似たような状況で、とにかく早く任務を果たせとしか言わない上司もいた中で、カナエの命令はミナトの心を温める。
だからミナトは、なおさら自信満々にカナエに返答し、その目はプログラム群をひたすら追い続けた。
「オレたちが赤いウサギを止められないとでも?
あと9分もある。
念のためです、ボス」
「……分かった。
ミナト、無事に帰還するのよ!
全員この建物から撤退!」
通信が切れる前に聞いたカナエの指示内容に、ミナトの肩の力がちょっとだけ抜ける。
次は……コイツか……
ミナトの目は真っ直ぐ前を向いたまま、腹部に力を入れ直した。
そして声をほんの少し大きく放てるよう、コッソリ息をできるだけ大きく吸い、だがさりげなく右隣に声をかける。
「アソウ……退室しろ」
「聞こえない、先輩」
予想した答えなので、ミナトも指示をハッキリと繰り返すだけだ。
「た・い・し・つ・しろ!」
「ヤダ」
こうなったら、この説得方法はどうだ?とばかりに、ミナトは少し前に仕入れたネタを披露する。
「お前!
長く付き合っている最愛の彼女がいるんだろ?」
だがアソウの答えは、ミナトの予想を超えてきた。
「ココに来る前、別れてきた」
「はぁ!?
ウソだろ!?
っていうか、朝ごはん食べてきましたみたいに、軽く言うんじゃねぇ!」
ミナトはクラリと目が回る気がしたが、当然ながらそのまま悠長に、倒れている場合ではない。
それなら、もう少し深くツッコンでやる!
好奇心を抑えきれずに、ミナトは勢いに流されるまま、アソウに聞いた。
「なんでだよ?」
「今回はイヤな予感がしたから」
対するアソウの答えはいつもながらの天然さで、さらにミナトの疑問はつのる。
「イヤな予感って……どういう?」
「さぁ……言葉にするのは難しい。
先輩がよく核心コードを見つける時に言うじゃないですか、なぜかワカるって。
そんなカンジ?」
「はぁ!?」
もう少し問い詰めたい思いに駆られたミナトだったが、これ以上そんな余裕はない。
「6分前……5、4……」
聞こえてくるカナエの声も移動しているせいか、少し息が上がっていた。
湧き上がってくる動揺をカナエのボイスカウントに集中することで無理矢理抑え込んでいたミナトだったが、アソウのポツリと放ったひと言が、ミナトの様々な動揺を瞬時に一蹴させる。
「憂いはもうない。
だから、最後までオレは隣にいますよ、先輩」




