5、もうひとつの仕掛け
「ちょっ、ちょっと!
せっかくの私の美貌がぁ!
勝手に変なコトしないでよぉ!」
巨大スクリーンの中から赤いウサギの喚く声が聞こえてきたが、ミナトは応じない。
とにかく時間がない!
それにウサギのヤツ、容貌が変わったことに対して抗議をしてきたが、その口調にまだ余裕がある
なんだ?
アイツはいったい、なにを隠してる?
焦っている気配を赤いウサギに気づかれないよう、ミナトは表情筋に力を入れた。
しかしミナトの背中には、ジワリジワリと不快な汗が次々とわいてくる。
コレも違う!
アレも違う!
爆発プログラムは、一体ドコに仕掛けられているんだ?
容赦なく時間だけが過ぎていく中、とうとうミナトの額にも、薄っすらと汗が滲み出してきた。
「先輩……」
「大丈夫だ」
ミナトの焦りの気配を誰よりも敏感に察するアソウがわざわざ声をかけてくれたが、ミナトは少しだけカンにさわって、ことさら素っ気なく返答してしまう。
落ち着こう!
まだ時間はある!
一度深呼吸をし、ミナトは妙な気負いを霧散させると、再び膨大なプログラム群に飛び込んでいった。
「15分前……4、3、2……」
その時、隣のアソウが身じろぎ、叫ぶ。
「見つけた!
コレだ!」
「該当コードの先頭に、何でもいいから入力して阻止しろ!」
「分かっている!」
ミナトはアソウの元にすぐに駆け寄りたかったが、あの赤いウサギのことだ……仕掛けが単純に1つだけとは限らない。
目の前のPCから手も目も離すわけにもいかず、結果としてミナトは、当たり前の阻止方法を叫ぶしかなかった。
ビィービィービィーッ
アソウが入力を済ますと、重低音のブザーが鳴り響き、ミナトがわざと干渉しなかった、左画面の表示時刻がいったん止まる。
「よくやった!
ミナト、アソウ!」
カナエの嬉しそうな声がインカムからあふれたが、これまでの赤いウサギの攻撃方法を身に染みて知っているミナトは、まだ手放しで喜ぶ気にはなれず、口に出した。
「喜ぶのはまだ早いかも……」
「先輩!」
ミナトの懸念が現実化するのと、アソウの上擦った声が、2人だけの空間に響く。
同時に目の前にある巨大スクリーンに映っている、デフォルメされた赤いウサギの顔が美少女に戻った。
一拍ののち、左側の表示画面のカウントが再び動き出す。
「やはりフェイクだったか……」
ミナトのため息混じりの呟きに答えるかのように、スクリーン内の赤いウサギはニッコリ笑った。
「なかなかやるじゃない♡
でもね、ざんねぇ~ん♡
ハズレでしたぁ~♡」
アソウは少しだけ体を揺らしたが、赤いウサギの挑発に沈黙を保つ。
そんな後輩の冷静さに力をもらったミナトは、気合いを入れ直し、データの海を泳いでいった。




