3、バディと合流
「もう来てたのか……」
てっきり自分の方が先に到着するだろうと思っていたミナトは、見慣れた大きな背中を見て驚く。
迎えに来てくれた車両にミナトが乗り込み、近くの大通りに出た途端、その車両は特権であるサイレンを鳴らして、爆走してこちらに到着したからだ。
「アッ……」
「待ってたわ、ミナト!」
さっそく大きな背中の持ち主の名前を呼ぼうとしたところ、右横から逆に自分の名前を呼ばれ、ミナトは先にそちらへと体を向ける。
「ボス……」
上司であるカナエは、険しい表情を崩さぬまま、通常より声を一段低くしてミナトに告げた。
「全ての防犯カメラ、扉の入退室履歴、可能な限りの聴き取り調査等、あらゆる情報を集め解析したけど、この指令室内に部外者が侵入した痕跡はなかったわ」
カナエからの情報を聞き、ミナトの眉間に皺が寄る。
「赤いウサギが自ら足を運んで、爆弾を仕掛ける可能性はやっぱりないか……」
「そうね、今回もこれまでの手口みたいに、システムを勝手に改ざんして、対象物を爆発させるみたいだわ。
だとすると、まずこの部屋の、何をターゲットとしたのかしら?」
「スクリーンだ」
カナエの疑問にミナトが目を細めたところ、調査している一台のPC画面から目を離すことも、こちらを振り向くこともなく、深みのある耳障りの良い声がミナトとカナエの耳に届いた。
「スクリーン!?」
「アソウ……そこまで解析できたのか!」
爆発ターゲットの特定場所に驚いたカナエの声と、2年前から赤いウサギを一緒に追跡するようになり、今では自他共に相棒と呼ぶ人物名を口にしたミナトの声が重なる。
アソウの右手はキーボード上で激しく何かを打ち込む動作を続けたまま、左腕をスッと上げ、前方の巨大スクリーンを指差した。
その時、まるでアソウの声に呼応するかのように、それまで管轄地図を表示していたスクリーンがバチっと大きな音を立て、美少女と名高い、赤いウサギの顔をスクリーンいっぱいに映し出す。
「正解♡
さすがマイダーリン♡」
緊迫した空気と真反対の弾んだハイトーンボイスが、アソウの回答を肯定した。
相変わらず、アソウがお気に入りなんだな
ミナトは内心ため息をつきながら、しかしスクリーンからは目を離さぬまま、カナエに尋ねる。
「ボス……残り時間は?」
「……あと30分」
いつも気丈なカナエの声が、少しだけ震えたようにミナトは感じた。
「……わりぃ、時間がなくて、ボスの通常PCまで赤いウサギ対策はできなかった。
今、ここの状況は、赤いウサギによって、全てライブ配信されている。
だから、今後の対策を例のメールボックスに送っておいた。
読みにくいかもしれないが、第2に着いたら、ウォッチから読んでくれ」
「わかったわ、ミナト。
例のインカムも大丈夫よね?
それをアソウにも装着させて、連絡はそちらで」
「イエス、ボス」
カナエと手短に打ち合わせをして、ミナトは先に赤いウサギと対峙している大きな背中のもとに向かう。
「待たせたな。
それにしてもオマエ……やっぱりウサギのオキニだな」
ミナトがアソウの左肩にポンと右手を置くと、ビクッとアサウの体が揺れた。
いつもなら何かしらの皮肉めいた返事がくるはずだが、アソウは前を向いたまま、沈黙を保つ。
不審に思ったミナトは、怪訝な声でアソウへ呼びかけた。
「どうした?」
「……スミマセン、ヤツがオレ目当てだから、こんな場所まで」
「気にすんな!
今回もオレが守ってやるよ!
それに……オマエだって無傷じゃない。
足は大丈夫か?」
そう声をかけて、ミナトの視線がアソウの足を捉えると、無意識だろうか、アソウの左足がススッと後ろに引かれる。
「大丈夫です」
小さく返したアソウの左肩を、ミナトがもう一度少し強く叩くと、背後からカナエの号令が響き渡った。
「全員、この部屋から撤退!」




