表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/34

第二十八章《剣鬼龍眼 -Blade Princess;17 Just the Last-》

 視界が赤に染まってゆく。

 わたしはこの感覚を知っている。よく識っている、――気がする。


 赤は何だ。

 視界に映るは、赤い血糊。命であったもの。抜け殻。屍体。

 胸に宿るは炎。赤く燃える劫火の猛り。情念そのもの。わたしの心の憤り。


 赤い炎と、赤い血が、わたしの視界を埋めている。

 それしかない。それ以外がない。


 胸の中の雑念が消える。わたしは一本の剣になる。


 敵はそこだ。そこに一人。それが敵だ。振るうべき敵だ。倒すべき敵だ。

 わたしはそのために在る。そのために居る。そのために生まれ、そのために死ぬ。


 わたしは一本の剣だ。そのために殉じる。そういう運命。

 それで良い。それで構わない。


 守るべき者は同胞たちだ。それを守り通す。それだけの戦い。

 何のことはない。ただ、それだけのことだ。


 難しいことなど何もない。

 在るべきように在れば良い。そのための剣になろう。

 そのためにこの命、費やしてみせよう。


――


 その時、少女の瞳が赤に染まった。


 放たれる気迫は、鬼気迫るものでそれが伊達や酔狂などではないことは明白だ。

 見知ったその気配を感じ、ヴァルトニックは打ち震えていた。

 こうなるか。こうなってしまうのか。

 やはり神は、そういう展開を用意していたのか。


 ヴァルトニックは嗤う。愉しそうに嗤っている。

 狂気に満ちた、嗤い声を上げる。


 少女が剣を抜いた。

 刹那。

 間近へ迫る刃先。

 しかし。


 ヴァルトニックにはそれすらも見える。見えすぎるくらいだ。

 無造作に躱し、振り返る。

 そこには避けたばかりの刃が肉薄している。


 だが、それを避けることも容易い。

 躱すと同時に踏み込む少女。動作はワンアクションするごとに速く疾くなっている。

 研ぎ澄まされてゆくように。調整されてゆくように。

 あるいは、その感覚に慣れてきているのかもしれない。


 ゾクゾクと、背筋を震えが走る。

 これこそが、《スカーレット・イリス》。これこそが《龍の血族》。

 そうでなくては困る。

 つまらない復讐では盛り下がるばかりだ。


――


 青龍剣、奥義《鏡華葬》。

 そこから派生したのは、緑龍剣、《風旋連牙》。

 更にそこから赤龍剣、《豪破断》。

 更に、更に、更に……。


 絶技と絶技の応酬。奥義と奥義の化かし合い。

 目を疑う攻防に、フレアは目を回しそうだった。

 だが、それと同時に確信を深めていった。

 クレアは、やはり《龍の血族》であり、《スカーレット・イリス》なのだと。


 そしてそれと同時に、疑いも深めてゆく。

 この、クレアと同レベルで戦うことのできるこの男は、何なのだろうか。

 彼も《龍の血族》だというのか。それとも……、それ以外の何か……?

 だとすればそれは一体何だ……?


 ――こいつは一体何者なんだ……?


 クレアの剣技は加速してゆく。

 あれは……、緑龍剣奥義、《無塵劇》。

 青龍剣のみならず、緑龍剣まで極めていたというのか。ようやく赤龍剣を修めたばかりのフレアには到底及ばない戦闘センスだ。

 放たれる無数の連撃を、しかしヴァルトニックはあっさりと躱している。

 そこから更に加速するクレア。それを危なげなく回避するヴァルトニック。


 ――どこまで……、どこまで加速してゆくんだ……!


 やがて動き出したのはヴァルトニックだ。今まで回避に専念していた分、クレアの反応が若干遅れる。

 その攻撃は、クレアを狙ってはいなかった。さすがにクレアを狙ったものであれば、即座に反応できただろうが……。

 標的は後方で見守っていた妖精たち。そこへ放たれた先程の瓶弾がクレアの剣に裂かれ、あの劇毒が撒き散らされる。


 そんな超速度で行われていた戦いに反応できた者はいない。フレアもそれを弾くような行動は取れなかった。

「ぐあぁッ!!」「いやぁああッ!!」「痛い、助けて……!」

 悔しさに歯を食い縛るが、そうして生じた隙を見逃すヴァルトニックではなかった。


 銃声と共に振るわれる銃剣。あの威力は以前受けたシークのものとは比べものにならない威力だろう。

 それをクレアは細い身体で受け流す。凄まじいまでの技量だ。

 そして、フレアは気づいてしまった。


 クレアと同じく、ヴァルトの瞳も赤に……。

 スカーレット・イリスの証左でもある赤い瞳へと変貌していることに。


 ――そんな……、嘘だろ……!


 だが、こうして切迫した戦闘を行っているという事実が、それを証明していた。

 ヴァルトニックは、《スカーレット・イリス》を宿している……。


――


 《スカーレット・イリス》を発動させたクレアとヴァルトの戦いに、フレアは関与できない。

 ステージが違いすぎるためだ。

 速度に秀でたクレアと、抜群の破壊力を持つヴァルトの戦いは一見、拮抗しているものの、攻撃範囲の広さと周囲に守るべき者がいる状況下では、その通りにはならない。

 戦いには参加できないフレアだったが、妖精族の守りだけであれば、どうにかできなくはない。なので、そういう態勢に移ったのだが……。

 やはり、ヴァルトの攻撃力は半端ではなく、飛んできた技の余波を受け止めようにも、3回に1回程度しか受け止めることができない。

 声を張り上げ回避してもらうにも限度がある。

 ……完全なジリ貧になりつつあった。


 それだけなら、まだ挽回の余地はあったはずだ。

 しかし、緩急自在に攻めるヴァルトには妖精にとって猛毒である瓶弾を多数所持していて、度々劣勢に持ち込まれる。

 そして、ついにクレアの足に、毒霧が掠めてしまった。


「痛ッ!! ぐぅッ!!」


 痛烈な悲鳴を上げるクレア。

 そこへ飛び出し、クレアを守ろうと、必死に瓶弾の前に躍り出るフレア。だが……。


 瓶はそのままフレアの頭上を軽々と飛び越え、遙か後方へ流れてゆく。

 そこにいるのは――。


 判断ミスを悟るも、もう手遅れでしかない。放られた弾はクレアを狙ったものではなく、後方の妖精たちを狙ったものだった。


 何人かが放射した気で防御壁を作ろうとしたようだが、範囲は適切ではない。防ぎきれなかった水滴を喰らい、同胞が苦痛に怯む。

 飛んできた霧はクレアが剣圧で弾いたが、それで防げるのは一瞬だけだ。

 なにより、ヴァルトの攻撃はそれだけでは終わるわけがなかった。

 振り下ろされた銃剣を、フレアは受け止めきれず、クレア諸共押し潰され、ついで放たれた横薙ぎの一撃が周囲を巻き込んで吹き飛ばす。

 そこにいた妖精全員が息も絶え絶えといった様相を呈す。


 ――情けない。たった一撃でこんなもんかよ……。


 フレアは自分の未熟さに嫌気が差した。

 本当に大切な者を守りたいのに――。そのためなら命だって惜しくないというのに――。

 ダメージに身体が動かない。立ち上がれない。足に力が入らないのだ。

 ここで立ち上がらなきゃ、何も守れないのに――。

 でなきゃ、何のために剣を振るってきたのか分からない。

 何のために戦ってきたのか分からない。


 ――オレは……。オレは……ッ!


 本当に苦しいとき、辛いとき。それでも立ち上がれるヤツは英雄になれるヤツだ。

 ――少なくともそれは、オレじゃない……。

 もしそんなヤツがいるとしたら、……それは……。


 背後で音がした。

 振り返るまでもない。そこにはアイツがいる。

 アイツなら、英雄と持て囃されるのも分かる。持て囃したくなる気持ちも理解できる。

 こいつになら、全てを任せられる。

 ――こいつなら、きっと勝ってくれる。


 ――だからオレは、任せたんだ。任せてしまったんだ。

 ――それを一生後悔することになるとも知らず、アイツに任せてしまったんだ。


 ――アイツに重荷を背負わせてしまったんだ。

 ――本当ならオレが背負うはずだったものを……。

 ――オレが背負うべきはずだったものを……。


 ――オレはこの時のことを一生後悔することになる。


「わたしは絶対に負けない。負けるわけにはいかない」


 少女は一人、悲壮な決意をする――。

サブタイトルですが、「けんきりょうがん」と読みます。

うまく話を進められなくて、四苦八苦してます。

あと、どっかで三十章までに終わるとかほざいたことがあったが、すまなかったな。アレは嘘だ。

……三十五章までには終わると思う。ホントゴメン。自分計算とか出来ないんで……。無理ゲーなんで……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ