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第二十七章《復讐透過 -Blade Princess;16 Gust the Last-》

 ヴァルトニックは嗤う。

 何故なら、おかしくて仕方ないからだ。

 考えてもみて欲しい。当たり前のことなのだから。

 だから結果は当然の帰結。考えるまでもない明瞭な結果。

 もたらされた現実は、分かりやすい真実でしかないのだから。

 だが、ヴァルトニックには、そんな現実が面白くて仕方がない。

 嗤いが込み上げてきて、それを抑制できない。

 だから嗤う。嗤い続ける。


「簡単な答え合わせをしよう」


 ヴァルトニックは、そう告げた。

 この愉快な復讐劇を盛り上げるための策の一つとして、ヴァルトニックは解説することを選んだ。


「――かつて、人間は高度な文明を誇っていた。だが、それでも駆逐できない敵がいた。……いや、敵とは直接言わないまでも、敵視していた相手がいた。無論、考えるまでもない。そう、エルフ共だ」


 寿命も、力も、精神性においても人間の上位種。煩わしい不愉快な存在だった。

 もちろん、全ての人間がそう感じていたわけではないだろう。おそらくは少数派。だが、首脳陣にはそういう感性を持つ人間が多かったのだろう。まぁそれは推測に過ぎない。真実は知れない。遙か過去の出来事だ。歴史にも記されない消えた……、消された事実だ。


「だが、首脳陣は考えたはずだ。そして声には出さずとも支持するものは少なくなかったと思われる。だからこそ、計画は進められた。……そうして開発されたのだ。……禁忌の薬物が」

「妖精だけを死滅させる毒物……」

「そう。素晴らしい発明だった……」


 きっかけがそれだったのか、それ以外の何かだったのかは今となっては分からない。だが、戦争が始まり、激化するにつれてその重要性は高まっていった。


「ところで……一つ。この薬には問題点が存在していたのだ。それは安定した供給を妨げる、厄介な性質とも言えた。……そもそも」

 と、ヴァルトニックは講釈を続ける。

「どうやってエルフだけを死滅させている? 人間に利かない理由とはなんだ……? ……答えは気だ」


 フレアも、クレアも、静かに耳を傾けていた。

「気には陰性・陽性どちらかの性向が表れるものだ。身体のつくりも、見た目もほとんど一緒なのに、そこだけは明確に違いがあった」

 その寒気のする講釈に、ただ聞き入るしかなかった。

「エルフは陽性の性向を示し、人間は陰性の性質を示していた。そして、強い陰性を結晶化させれば、それはヤツらにとって毒になりうるらしい。……それは実に興味深い話だった。人間の存在を重ね合わせれば、憎きエルフ共にも一矢報いることができるというわけだ」

 ヴァルトニックは愉しそうに、語る。何処が愉しい話なのかは、二人には永遠に理解できないことだろう。


「……とはいえ、そこまでを遺跡の資料から探り当てたのは良かったが、再現に苦心してね。陰性結晶を作り出すために人間の死体を相当数無駄に消費したよ」

 苦労話を語るように、ヴァルトニックは溜息交じりにそう言った。

 薄ら寒い感覚を抱きながらも、返す言葉は見当たらなかった。


「結果として、人間の骨髄から若干量の陰性結晶を採取することに成功してね。……あとはそれを量産するだけだった」

 ……そこから、フレアは一つの結論を出してしまった。考えるだけでも恐ろしい仮説を。

「ふ、もう分かったかな。各地に戦禍を撒き散らしたのは力を誇示するためでもなく、ただの兵器実験をするためでもなく、ましてや意味のない示威行為でもなかったわけだ。……全てはひとえに陰性結晶を量産するため。エルフ共を駆逐するためだったというわけさ」


 狂っている……。フレアは戦慄した。

 復讐それだけのために、各地へ攻め入ったいたというのか。人間の骨髄を回収し、妖精を殺す毒物を作るためにそれだけのことを……。


「ああ、そうそう。試作品もいくつか試したんだったな。お前らは知っているか? 病死したように見せかけられるような毒性の低いものを何度か雲に紛れ込ませたんだ。確実性は欠けるが、どこかで病死したエルフはいなかったか? 居場所を探し当てるまではそういう地道な復讐しかできなくて随分ともやもやしていたんだが……」


 病死。病死した妖精は、確かにいた。

 病気になる可能性が低いはずの妖精族は確かに何人か病死していた。

 可能性の低さの割に、件数自体は少なくなかった。なのに、どうしてそれを考えなかった。

 どうして、殺されているという視点でものを考えられなかった……?


 フレアの両親。クレアの母。他にも数人。そういえば森で会った最初の人間、エイリッドの妻も病死と聞いていたような……。

 全てが陰性結晶のせいで死んだのかは不明だが、間違いなくそのなかの何人かは、殺されているはずだ。


「雨には紛れ込んでいただろうが、やはり直接内服させるのと違って、確実性が低すぎるのが難点だな。利点は攻撃範囲が広いことだが……。効果を踏まえると成果は微妙か」

 ヴァルトニックは、独り言のように呟いていた。

「川や地下水に溶け込んだ分もその分薄まってしまうだろうし、やはりいまいちだったな。こうして直接攻め込めて、本当に良かった。直接この手で下せるかと思うと、本当に報われる気分だ」


「さて、気分はどうかな……? 精々惨めたらしく足掻いてくれよ。あまりにも呆気ないと、つまらないからな」


 ここまでの長話の間に、どうにか待避を進められれば良かったのだが、それは全然進んでいない。

 周囲に包囲網が作られていて、逃げ場がなかったためだ。

 そして、ヴァルトニックの放つ威圧感は、長であるクォラルを超えている。そんな相手に腰が引けてしまい、うまく立ち上がれない者までいる始末だ。

 だから、状況は最悪。そして……。


 話を終えたヴァルトニックは、再び剣を構えた。無造作に持った状態から、攻撃する構えへ。

 ヴァルトニックの講釈のお陰で、僅かにはやった気が抑えられつつあったフレアだったが、身構えようとすると身体は依然強張ったままだ。

 それを察したのかは分からないが……。


「わたしに任せて」


 クレアがヴァルトニックの前に立ち塞がる。

 大剣を持つ大男と、華奢な少女の対比は、あまりにも冗談のようだった。

 全てが嘘臭く、胡散臭い。

 荒唐無稽で、滑稽ですらある。

 だが、滑稽をいうのならむしろ自分のほうだった。

 クレアを止められず、立ち尽くすしかない自分のほうがよっぽど滑稽だ。


「できれば、目を逸らしていて。この男は、わたしが殺す」


 そんな勇姿を、彼女は見られたくないらしい。

 そうは言われても、フレアにはそれはできない。無理な相談だった。

 何故ならフレアは確信していた。この勝負の行く末は、予想通りの結末に終わる。

 予想通りに、敗北するだろうからだ。

 いざという時に彼女を守れるよう、フレアは目を離さないと決めていた。

今までずっと書けなかった伏線をようやく消化できました。

不自然な病死と、大量虐殺の真意。

それにはそんな理屈もありましたとさ。

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