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第二十四章《共喰の双生 -Blade Princess;13 Dead and Alive-》

 ――私は今、何を考えていた――?


 思い出せない。

 何かを思い出したような気がするのに、今ではその残滓すら残っていない。あるのは、何かを思い出したような感覚だけ。

 空虚な、空っぽな自分――。

 飽き飽きするぐらいいつも通りの自分でしかなかった。大嫌いで、許せない自分でしかなかった。


 ――私には何もない……。


 求めても手に入らない。独りぼっちの空白。

 目的も理想もない。ただ、あるだけの存在。フライヤはそれを嫌悪していた。

 しかし、嫌悪するだけ、憎悪するだけ、視線はそれに吸い寄せられることになる。その結果何度も目の当たりにしてしまう。

 自分を見ないで生きる手段などないのだから。


 一人でいるのは嫌いだ。大嫌いな自分しかいないから。

 だから求めた。彼を求めた。彼がいれば何でもできる。何にでもなれる。

 それはもう、病的なくらい、彼に依存していた。

 分かっていた。理解していた。それでも、求めずにはいられない。それ以外に自分を保つ手段がないのだから。

 だからこそ、ここは嫌いだ。


 独りぼっちの空白。虚無の空間。

 何もない。自身を象徴する一切が存在しない伽藍堂。

 吐き気がする、居心地の最悪な空間。

 自分以外の一切が存在しない、フライヤ自身の脳内。


 目を覚ましたい。

 けれど、その手段は分からない。

 何故、意識を失ったのか。何故またここに来たのか。

 分からない。分からない。


 ――助けて……。私を見つけ出して……。


 ――ここから、連れ出して――……


――


 銃弾が飛び交う中、肩を寄せ合った相棒が意識を失っている。

 ついに来るべき時が来たのだと、ジンは戦慄した。

 相棒は天才だ。それは努力の必要がないという意味だ。

 どんなことでもほんの数回で身につけてしまう彼女には、反復練習が必要ない。その結果、体力があまり保たないのだ。

 それでも、気の消耗は最低限に抑えられているため、普段はあまり気にならない程度の体力であると言える。

 だが、こういった極限状態では、それすらもままならない。

 傷つき、追い詰められ、ギリギリまで磨り減らされた精神では、堪えきれない状態になる。


 ツケが来たのだ。

 今まで彼女の才能に、彼女の危機回避能力に甘えてきたことのツケが、今にしてようやく回ってきた。

 頼みの綱のフライヤには、もう頼れない。彼女はもう、戦えない。

 ならば今、彼女を守るべき存在は自分しかいない。思えば、自分はこの時のために彼女と共に居たのかもしれない。

 ここで命を潰えたって構わない。彼女を守れるのなら、こんな命、いつ捨てたって構わない。

 フライヤの笑顔を守れるのなら、どんな苦痛にも、孤独にも耐えきってみせる。

 この、絶望的な現状からも脱してみせる。

 彼女の命、それと引き替えなら、自分の何と引き替えになったっていい。


 ――俺の全ては、お前にくれてやるわ。


 こんな命に価値があるなら、全てを燃やし尽くしてやろう。

 ジンを包む気が、煌々と猛り、燃え上がっていた。


――


 元々、ジンには何もなかった。

 ゴロツキばかりがたむろする汚い街でその日暮らしに生きてきた。

 刹那的な人生。今日死ぬか、明日死ぬかの毎日。賭け事でありついた金を一夜で使い切るのもいつものことだった。

 街の治安は最悪だった。盗みも賭博も当たり前の日々。ジンはそんな毎日に満足していた。

 太く短い人生だと、そんなふうに考えていた。

 当たり前の幸せなど、知りもしなかった。安心して眠りにつける世界を知りもしなかった。

 罵声と銃声が鳴り響く街で、当たり前のように眠りこけていた。


 そんな日々が永遠に続くかと思っていたが、存外に早く、僅か一晩でジンの日常は終わりを告げた。

 ヴァルトニック社の軍勢と、レジスタンスの戦いの主戦場になった街は、翌日には廃墟になっていた。

 ジンが寝座にしていた地下道は災禍を免れたらしい。……地上は酷い有様だったが。

 なんとなく九死に一生を得てしまったが、特にすることもない。

 別の街に移ったジンはそこでなんとなくギルドの門を叩いた。

 賞金稼ぎとしての生き方をそこで得た。


 意味など特になかった。今まで通りに盗みや賭博で生きても良かったが、前の街ほど治安が悪かったわけでもなく、そういう生き方が若干ながらしにくいだろうというのもあった。

 だが、それだけだ。

 別に誰かを助けたかったとか、生き残る力が欲しかったとか、そんな感傷的な理由ではない。

 楽な生き方を望んだ結果だった。


 初めての依頼を果たしたとき、そこで初めて疑問が生じた。

 何故、ここまで喜ばれているのだろうか。

 自分がしたことはただの喧嘩だ。今まで通りの暴力と罵声が飛び交うだけの汚いだけの日常だ。

 だが、「助かりました」と笑みをこぼす老人に、ジンは困惑するしかなかった。


 今まで通りだったはずだ。何が違う? 何処が違う?

 繰り返す度に疑問だけが膨らんでゆく。

 何なんだこれは? 一体何だ?


 ある日、ギルドの受付の親父が気前よさそうな口調で言う。

「あんちゃん、最近楽しそうだな。どうしたんだ?」

 疑問は膨らみ続ける。

 ――楽しそう……? オレが……? 何かの間違いやろ?


 なんとなく鬱憤を晴らすつもりで、ジンは親父の話に付き合った。

 今まで通り、人に嫌われるだけの喧嘩をしていただけで、何故今は感謝されている? 理解ができない。分からない。

 親父は笑う。


「同じ行為でも、状況が変われば対応も変わる。お前は人に迷惑を掛ける喧嘩から、人を助ける喧嘩をするようになった。それだけのことだろ」

 そんなものか。暴力で人が救えるのか。こんなくだらないことで、誰かを救えるのか。こんなことで、人は笑顔になれるのか。

「大事なのは行為そのものじゃないだろ。それで何を成したかってことさ。人を助けて金がもらえるんだ、いい商売だろ、あんちゃん」


 くだらない。

 無意味な時間を使った。

 本当にバカみたいだ。

 こんなくだらない話に時間を使うだなんて。

 こんな話で、顔が綻んでいるだなんて。


 戦ううちに分かったことがあった。

 世界には、需要と供給が存在している。

 求められるものには金が支払われる。求められないものには鉛玉が仕向けられる。

 賞金稼ぎは、足りない人手を補うもの。人と人を繋ぐもの。潤滑剤のようなものだ。

 だから地方へ散り、仕事に当たる。その結果、金が手に入る。単純な話だ。


 だからこそ、求められるものには、求められるだけの何かが必要とされる。

 ジンが提供できるのは、掃き溜めの街で培った戦う術だけだ。けれど、それだけでも誰かの助けになれる。

 それでいい。それができれば、構わない。

 そんな僅かな充足感が胸を満たしていた。


 ――そうしてオレは、出逢ったんや。今の相棒、フライヤ=ルクセフィアに――。

ジンの過去篇。これで洗いざらい書けたと思います。

ほとんど土壇場で書き上げたところなので矛盾点とかいっぱいありそう……。

そういえばタイトルはきょうしょくのそうせいと読みます。

深い意味は実はありませんが、守り合うために傷つけ合う構図は、共食いするのと似てるような気がしたというだけです。

ノリだけで書いてるので深いところはつっこまんといてください。

一挙二話公開するくらいなら纏めたほうが良いんでないのとも思いましたが、やっぱり節目っぽい気がしたのと、読むうえでのウエイトを減らす意味でもこのほうがよかったんじゃなかろうかとも思います。

改行増やしたのもそういう理由です。読みやすくなってたら良いなー。


・きょうしょくのそうせいシリーズはもうちょっと続きます。もうそろそろ当て字のネタがないけどね!

それにしてもイリスカはなかなか進まなくて困ってます。プロット長く組みすぎなんですよね。大体人を死なせすぎなんだと思います。まぁ半死半生だけど。

きょうしょくのそうせいと、スピアVSジークを書いたら、あとは剣姫篇のクライマックスまでまっしぐらなのでがんばります。

そのあとに休息篇と決戦篇が予定されてるし、なんなら第二部第三部第四部まで構想あるけど、キリの良いところまでは書き上げますので、お付き合いいただけると幸いです。

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