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第二十章《落月に緋は指して -Blade Princess;09 Sundown,Moonrise-》

 アークが思い出せることは少ない。

 だが、打撃を繰り返すうちに少しずつタイミングが合うようになってきたアークとシークの攻撃が、その時丁度、合致したのは鮮明に覚えている。

 同時に繰り出される攻撃は、いなせるような生半な威力ではなく、かといって躱しきれるようなタイミングでもなく、アークはその瞬間、自身の勝利を予感していた。

 だが、そこでも敵――、ジークの判断は早かった。

 回避が不可能と見るや、行動を攻撃へと変じたのだ。そしてその矛先は、アークへと向けられていたのだった。

 三人はそれぞれ攻撃動作に入っており、もう回避は間に合わない。

 アークはにわかに死を感じたのだった。

 死を覚悟した一瞬。しかし、それこそが絶好のチャンスでもあった。

 この一瞬こそ、ジークに最も隙が生まれる瞬間だからだ。

 シークへ背を向けたジークは、背後から迫る銃剣を回避できない。

 この一瞬を逃せば、今後二度と隙など生じないだろう。

 ならば。

 光の仙術を使うタイミングはここにある。

 同じ動作、同じタイミングで出せる技だ。だからこそ、切り替えも容易であるその技を、叩き込む。シーク諸共、巻き添えにする形で。

 一瞬を貫くがごとく、一閃を解き放つ。


「……射貫け。"閃きの王剣"」


 アークの拳から一条の光が迸った。

 光速で放たれる気弾はあらゆるものを貫く。障害物を貫いて走り抜ける。それを妨げることのできる物質は存在しない。

 この一撃で終わったはずだった。

 直撃を受けたジークも。

 その背後にいたはずのシークも。

 生きているはずがなかった。

 なのに。


「言ったろ? 俺は機嫌が良い。気功術の先に、こんな道筋があるなんてな。やはり敬うべきは先人だ」


 アークの放った閃光は、何故かジークには効いていないようだった。

 そして、シークの斬撃も、左手に握られたもう一本の小振りな銃剣が受け止めている。

 何故だ。

 アークは、そう問わずにはいられない。

 何故なら、アークの放つ光の仙術は、防御不能の絶技だからだ。

 光は直進する性質を持つ。物体に遮られようとも直進をし続ける。光とは本来そういうものだ。

 それが現実で起こらない理由としては、反射という性質に因る。

 障害物にぶつかり、反射することで光は曲がり、拡散する。そうして徐々に散ってゆくものなのだ。

 仙術とは気の変質に他ならない。

 精霊から仙術の力を授かることで、人間は気を変質させる能力を得る。

 光の仙術とは、気を光へと変質させる術である。

 つまり、アークの放つ仙術は光でもあり、同時に気でもあるエネルギー体なのである。

 光もであるため、光の特性を宿しているし、気もであるため、アークの操作を受け付けてくれる。

 これが光を攻撃に利用するメカニズムなのだ。

 音の速度と比較して、実に88万倍に及ぶ光の速度で放たれた気はまっすぐに直進し、対象を通過する。その際、その通過点の物質は消滅される。それは約束された因果律というものだ。この法則を打ち消す法則があるとするならそれは……。

 気功術――、ということなのだろう。

 仙術とはいえ、気であることに変わりはないのだから、気で防ぐことは不可能ではないのかもしれない。

 ただ、光の速度で――、かつ光の性質を持った気を、気で相殺することなど、可能なのかという疑問は残る。

 ……いや、それは欺瞞なのかもしれない。

 敵は強く、強大だ。こちらの思惑をすでに何度も破っている。それを今更ありえないだとか、そんなありきたりな言葉で覆すのは間違いと言わざるを得ない。

 ゆえに結論は出せる。ジークは気を放射することで身を守ったのだと。そして、こちらの手の内は割れ、そのうえ、隠してきた奥の手はすでに受けきられている。おまけにこれ以上の隙は、もう生み出せる目星もない。

「実に興味深い技術だ。鋭く洗練された高度な気功術師と相見える幸運に、感謝をしよう」

 ジークは無造作に歩きながら、そんなふうに呟いた。その表情を見て――、アークは、この男は狂っている――、と感じた。

 笑みを浮かべるその顔色は一体何に狂喜しているというのか。

 恐怖心が刺激されるアークだったが、その視界の端で動く影があったのだった。

 シークだ。ジークから離れた位置で剣に気を集中させているのが分かる。

 そこから、アークにはシークの思惑が分かってしまった。それは先程までの連携の賜物か、アイコンタクトだけで伝わってしまったのだ。

 ある意味ではその選択も狂的と言わざるを得ないのだが、それ以上の選択肢はないように思える。

 ――ならば、やるしかありませんか……。

 アークは再び拳を握りしめた。黒い手甲の感触が気を引き締めてくれるのを感じていた。


――


 妖精族の逃避行は、着実に進んでいた。

 クォラルはひとつ、息を吐いて心を落ち着かせる。

 東西南北、里を四方から襲い掛かったヴァルトニックなる軍勢は、最初は東・西・南を重点的に攻めてきていた。

 ゆえに、北にはクレアと少数の護衛を、南にはクラインと精鋭たちを送り防衛に徹していた。

 中央にはクォラルが控えることになる。

 しかし、戦況の不利を覚ったクレアは独自の行動に出始めた。持ち前の剣速を生かした遊撃を開始したのだ。

 そのため、妖精族全体の配置にも変更の必要性が生じた。敵の勢いが減じたのをきっかけに少しずつ部隊を下げさせることにしたのだ。

 敵は想定以上に強く、その技術力は看過できないものに成り果てていた。

 これ以上戦線を拡大すれば部隊は散り散りになり各個撃破される可能性もあった。それゆえの後退だ。

 クレアたった一人での抗戦は、それでも凄まじい戦力であった。効率的に指揮官を殺し、混戦に持ち込むことで被害を押さえるやり口は鮮やかですらあった。

 その間も敵の攻撃は止むわけではない。押され始めたクラインを援護するため、クォラル自身も何度か戦線に出向いて剣を振るった。

 一度退いてはくれたみたいだが、あの銃剣使いは別格だった。クラインでは荷が重いだろうが、何とか耐え凌いでもらうほかなかった。

 そして、クレアから撤退の提案がもたらされた。それもやむなしといった状態だった。

 クレアですら臆するような存在が、同じ時代に生まれてくることが奇跡のように思える。それくらいにクレアの戦力は強大なのだ。

 時代が時代なら歴史に名を残していただろう。

 たった十年の修行で兄弟子のフレアを越え、師であるクォラルよりも強くなった。妖精族の中ですらそうなのだ。気功術を生まれながらに使えないはずの人間族とでは勝負にすらならないだろう。そう思っていたのだが……。

 何事も予想というものは軽々と覆されてしまうものだ。

 あのクレアですら臆するような相手が現れたとは。……それこそがこの軍勢の総大将、ヴァルトニックに違いあるまい。

 クレアにも敵わないのであれば、あとは撤退することでしか、生存の道は残されていないだろう。

 依然、東・西・南には多くの戦力がいるらしく、一度相対したあの銃剣使いはいるだろうが、北こそが最も手薄に違いない。であるならば、そちらに前線力を集中させ突破するしか活路はない。

 そうして撤退戦は始まったのだった。


 敵の目的は分からない。だが、何かを求めるようではなく、純粋に殺すつもりなのだということだけが分かっている。話し合う余地すらなかった。

 人と戦うつもりなど、妖精族にはない。だが、妖精戦争の折に無抵抗に殺害された同胞のようにはなりたくない。

 見殺しにはできない。抗戦することに決めたのだ。

 死ぬわけにはいかない。絶対に生き延びる。犠牲者を出さないことは無理だろうが、可能な限りは生存させる。

 それこそが長であるクォラルに与えられた使命だった。

 若くして死んだフレアの父に代わり、里長を務めると決めたあの時から、定められた宿命なのだ。


 そんな決意と共に進む道すがら、クォラルは気づきたくない疑問に頭をもたげ続けていた。

 ――クレイン、ヌシは今何処におる……?

 一度転進させ、北で戦っていたはずの部隊とは未だに合流できていない。その行方にはおおよその見当は付いているものの、心配でならない。

 無事でいてくれれば、それが一番いいだろう。

 もし無事でないとしても、この道中にはいないで欲しいものだ。

 ――今のクレアには、出来うる限り見せとうないわ。

 クォラルは、前方で揺れるクレアのポニーテイルを目の端に留めつつ、そう願わずにはいられなかった。


――


 放たれた光の槍はやはりジークの気で受けられている。

 ならば、と今度は立て続けに打ち込んだのは光の針の槍衾。

 だが、高笑いと共にそれらは吹き飛ばされる。アークは呆れて失笑すら浮かべてしまう。

 恐るべきはその気の総量だ。どうしてあれだけの気を無造作に放ち続けられるのか。肉体の改造、その一言で片付けるにはあまりにも不可解だ。

 ヴァルト社の技術力の高さ、と言ってしまえばそれまでなのだが。

 そして。もちろんこちらにも限界はある。

 光の仙術は燃費が悪いのだ。

 それもそのはず。光の仙術は通常の気功術と比較して、より圧縮して放たなければ殺傷力を持たせられない。つまり、ただの閃光にしかならなくなるのだ。

 ゆえに密度を持たせ、圧縮し、凝縮して打ち込む。それは他の物質を消滅させるほどの威力を誇るのだが、当然それには大規模の消費が不可欠だ。

 今までアークが使用を控えていたのは奥の手の温存という考えもあるにはあったが、それ以上に体力消費を考慮してのものだった。

 これだけの大量消費は、アークにとっても初めてのことであり、それだけに不安は拭いきれない。

 奥の手が時間稼ぎにしかならないというのは、なんとも歯痒いものである。

 だが、それも大事な戦術のひとつだ。この時間が、勝敗を分けることになる。

 アークは疲労に震える手足を気合いだけで振り抜く。

 地面を放射状に広がる光の波動。やはりジークの足下からそれは無効化されている。

 それを見留めつつ、アークは跳び上がる。頭上には巨大な太陽があった。

 いや、それは太陽ではない。太陽と見まがうほどの光の塊。戦いの最中に少しずつ練り上げていた気弾だ。

 それが、重力に従うかのように、地面へと吸い込まれてゆく。

 ここでようやくジークは回避に向かおうとした。だが、その足はそこで止まる。

 ジークは振り向かなかったが、その背後にはシークがいた。

 まるでシークを庇うかのように、ジークはそこで待ち構えていた。

 やはり、予想は的中していた。

 ジークは、家族を裏切らない。シークを巻き添えにするようなアークの攻撃は全て受け止め、無効化していた。

 だが、この一撃は無効化できまい。よしんばできたとしても、そこに隙は絶対に生じるはずだ。

 シークはそれを見越して、すでに気を集中している。背後から襲い掛かるための二撃目だ。

 守ろうとしている弟から決死の一撃をもらう気分はどんなものなのだろう。願わくばその表情は唖然としていて欲しいものだが、光に霞んでアークからは窺えない。

 僅かに垣間見える気配からは、あまり驚いているようには見えない。全て分かっていたとでも言うのか。

 だが、それでも結末は変わらない。ジークは、弟を守るためにもアークの放つ"嘆きの太陽"を躱せない。だが、受けきったところで背後から迫るシークの"ストライク・アウト"を躱すことはできない。

 これで完全に詰みだ。逆転の手はない。

 そして、太陽はジークを、シーク諸共、包み込むように落下し、視界は白に塗り潰された。


 ――音もなく、光が全てを呑み込んだのだった。

・お待たせして申し訳ありません。

マイペースに続いております。

言い訳はいっぱいあります。

ゲームがいっぱい発売されたんです。仕方なかったんです。

許してください。

『アルノサージュ』と『初音ミク Project DIVA F 2nd』が面白すぎたんです。

だから俺は悪くねえ!

アルノもFもまだまだ全然クリアできてませんが、いい加減サボりすぎたのでそろそろ上げます。

……そろそろ小説の書き方すら忘れつつありますが、きっとなんとかします。未来の僕が。

大丈夫、あいつはやるときはやる奴だよ!


・ジーク戦。

引っ張りました。すみません。

今回で終わらせるつもりだったんですが、終わらなそうだったので次で終わらせます。

明日の俺がきっとやってくれるさ!


・そういえば。

ちょっと思うところあってエルフサイドのまとめ的なシーンを入れてみました。

昔はよくまとめ的なのを書いてたんですが、最近はおざなりだったりして。

こういうのを入れると書いてる側としても状況を整理できるのでいいかも。


・そんなわけで。

次回へ続きます。

ジーク戦のオチとエルフサイドの進行。それからフライヤサイドの進行をしたいです。

それにしても長く掛かりすぎですね、剣姫篇。

すみませんがもうしばらくお付き合いください。ぺこり。

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