第六節 選択肢
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そして、その日が来た。
デキウスがルフスを呼んだ。
「ルフス」と支配人デキウスは言った。その目に興行師の計算高い光があった。「お前、次の大興行でスパルドと当たる」
ルフスの心臓が止まりそうになった。
「スパルドと……」
「そうだ」とデキウスは頷いた。「不敗のスパルドと勝ち上がってきた志願剣闘士ルフス・トロガス。──いい物語だろう? 客が押し寄せる。金が動く。──お前も望むところだろう。スパルドを倒せば、お前は一躍この闘技場の頂点に立つ。自由も農地も見えてくる」
ルフスは答えられなかった。
スパルドと戦う。──あの疲れ果てた砂上の華と。想い人と静かに暮らすことだけを願っているあの悪魔人と。
「......おい、デキウス」とルフスは掠れた声で言った。「もし俺がスパルドに勝ったら。──スパルドはどうなるんだよ」
怒気の混じった彼の声に、デキウスは少しのあいだ黙った。「......勝つ気、か」それから、事務的に言った。
「ふむ。それはその日の主催者次第だ。が──」彼は言葉を切った。「不敗の華が敗れる。それは大きな見世物だ。客は興奮する。そして、興奮した客はたいてい血を求める。──スパルドが敗れれば、客は殺せと叫ぶだろう。長年無敗だったあの華が砂に沈むのを見たがる。人はそういうものだ」
ルフスはめまいがするようだった。
「主催者が」とデキウスは続けた。「その客の声に応じるかどうかは分からん。スパルドは稼ぎ頭だ。俺としては殺されては困る。──だが、興行というのはそういうものだ。何が起こるか分からん。客があまりに殺せと叫べば、主催者も無視できん」
彼はルフスの肩に手を置いた。
「いいか、ルフス」と彼は言った。「お前はただ勝てばいい。勝ってスパルドを砂に沈めろ。その後のことはお前が気にすることじゃない。──お前が負ければ、お前が死ぬ。お前が勝てば、お前は頂点に立つ。それだけだ。単純な話だ」
だが、ルフスにはそれは単純な話ではなかった。
勝てば自由が見えてくる、だと?適当なことを。勝てば、スパルドの唯一の願いを──想い人と静かに暮らすというただ一つの願いを──永遠に砂に沈めることになるだけだ。
あの疲れ果てた華が、客の歓声の中で殺されるのだ。ルフスの剣によって。
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試合の前夜。
ルフスは宿舎の中庭で、スパルドを探した。
悪魔人はいつものように一人で夜空を見上げていた。ルフスが近づくと、スパルドは振り返らずに言った。
「聞いたよ」と彼は言った。「お前と当たるそうだな。──明日の大興行で」
「スパルドさん」とルフスは言った。声が震えた。「俺は……どうすればいいんですか」
スパルドはしばらく答えなかった。
「勝て」とやがて彼は言った。静かに。「勝って俺をあの砂に沈めろ。──それがお前の道だ。お前はまだ若い。借金を返して自由を得るチャンスがある。俺を踏み台にして頂点に立て」
「でも」とルフスは言った。「俺が勝てば、人気者のあんたといえど、客は殺せと叫ぶかもしれない。──あんたには想い人がいるんでしょう。静かに暮らしたいって願いが」
スパルドは乾いた笑みを浮かべた。
「願いか」と彼は言った。「──ルフス。俺は二十年その願いを抱いてきた。二十年だ。だが、一度も叶わなかった。叶うはずがないんだ。俺が価値を持ち続ける限り、デキウスは俺を手放さない。俺の想い人はもう待ち疲れている。森精人は長く生きる。だが、待つことにも限りがある。──いつか彼女は俺を待つのをやめるだろう。そのとき、俺の願いは完全に死ぬ」
彼は夜空を見上げた。
「だから」とスパルドは言った。「いっそ砂の上で終わりたい。──不敗のまま囚われ続けるより。お前に勝たせてお前の自由への道を開いて。そして、俺はこのうんざりする生活から解放される。それが俺に残されたただ一つの自由だ。死ぬという自由だ」
ルフスはその言葉に寒気を覚えた。
スパルドは死のうとしている。ルフスに勝たせることで。それが彼の唯一の逃げ道だと思っている。──二十年勝ち続けてたどり着いた結論がそれだった。生きて自由を得ることではなく、死んで解放されること。
「そんなの」とルフスは言った。「間違ってる」
スパルドが彼を見た。
「間違ってる」とルフスは繰り返した。声が大きくなった。「あんたが死んだとして、客は一日興奮してそれで終わりだ。──あんたの死で得をするのは、あんたをこの砂に縛りつけてる連中だけだ。あんたは最後まであいつらの見世物として消費されて死ぬ。それのどこが自由なんだ」
スパルドは答えなかった。
「俺は」とルフスは言った。「あんたを殺したくない。あんたに勝って自由を得たくない。──そんな自由は要らない。あんたの命を踏み台にした自由なんて」
「じゃあどうする」とスパルドは静かに言った。「戦わなければ、二人とも罰せられる。逃げれば、俺は奴隷法の下でお前は剣闘契約の下で、追われて殺される。──この砂の上に選択肢はない。勝つか負けるか。殺すか殺されるか。それだけだ」
ルフスはしばらく黙っていた。
そして、彼は一つの考えにたどり着いた。それは危険な考えだった。だが、それしかなかった。
「一つだけ」とルフスは言った。「選択肢がある。──客が望むものを与えない、選択肢が」




