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藤宮静与からの視点ー1

 息子のことがわからない。


 社交的だし、成績もいい。運動もできる。けれど、推薦でいい高校に行けそうだったのに、急にそれを断って公立高校に進学を決めた。でもその理由を、私には話してくれない。聞く勇気もなかった。


 子離れしなければならない時期になってきているのかもしれない。きっと健太郎さんに相談しても「アイツももう大人なんだし、気にしなくて大丈夫だよ」とかのんびりと言われそうだった。


 悠斗が帰ってくると、いつもは直接リビングに来て「母ちゃん腹減ったあ」と情けない声を上げるのが日課だった。そして皿に並べきれないくらいのおかずを作ってやり、「わあ母ちゃんは天才だね」と褒めてくれるのもまた日常だった。


 リビングで悠斗を待っていると、やがてシャワーを浴びる音が聞こえる。そういえば、今日から部活に行くと言っていたから、久しぶりにサッカーをして汗をかいたから先にシャワーを浴びたんだ。


「あれ、俺ってただいまって言ったっけ?」


 まだ少し濡れている髪をタオルで拭きながら悠斗がリビングにやってくる。私は長年の主婦の勘でその少し前に、食卓を完璧にしておいた。悠斗はいつも通り、「美味しそうだね」と笑いかけてくれる。


 健太郎さんは残業で、寂しく二人で並んで夕食にすることにする。「サッカーどうだった?」と聞くと、「サッカー?」とポカンとした。


「今日部活したんじゃないの?」

「部活行ったよ」

「じゃあしてるじゃんサッカー」

「ううんしてない」


 なんだか噛み合わない。私はまた息子との接し方がわからなかった。


「ああ、美術部に入ることになったんだ」


 ビジュツブ? ビジュツとは、あの絵を描く美術部のことか。私は息子と美術が中々に結びつかなくて混乱した。


 「どうして? サッカーは? 絵がやりたいの? だから志望校を変えたの?」なんて矢継ぎ早に聞けるわけもなく、また答えてくれる様子もなく、私は母親としての役割を早々に諦めたのだった。


「どうだった? 美術部」

「楽しかったよ。三年の先輩にね、油絵を描く人がいるんだ。その人が作ったステッカー貰ったよ」


 これ、と悠斗がスマホの裏を見せる。独特な色彩の、鮮やかなステッカーが目に入った。


「俺も書かせてもらったけど、楽しいね。俺、一番向いてる気がする」

「美術部?」

「うん」


 そんなこと言わないでよ。思わず泣きそうになる。だってあなたは、泥にまみれても諦めず勝って、仲間に囲まれて……。そうやってキラキラしているのがあなたじゃない。私だって口うるさく言うけれど、悠斗がサッカーしているところを見るのが私の生きがいだったことには変わらない。


「サッカーも楽しかったけどね。ルール覚えられないし」

「えっ?」


 何を言ってるんだ。一瞬からかってるのかと思ったけど、そんな気配もなかった。だってあなたは、小学校高学年からサッカーをやってきたじゃないか。

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