新倉光貴からの視点ー3
「中学までサッカー部だったんです。だからまた、サッカーをやろうと思ったんだけど」
「やればいいじゃないか」
「……」
藤宮が黙る。やっぱり訳アリのようだった。けれど、サッカーがやりたくてもやれない理由なんて、一つしかない。
「怪我、か?」
「えっ?」
「怪我をしたからサッカーを続けられない。でもウチの学校の規則で何かの部活には入らないといけない……だから仕方なく楽そうなところに入った。そうだろ?」
「いやあの、」
「あの美術部の窓からは、校庭が見えるな。そしてもちろん、サッカー部の活動も……。絵を描くことは上手くないかもしれない。でも美術部にいれば、サッカー部の活動を遠くから見守ることができる」
「……」
「……」
「……」
「……」
嫌な沈黙が流れた。しばらくして「すみません、全然違います」と彼が苦笑いした。
「怪我じゃないのか?」
「怪我じゃないです。俺、体力なくて」
「え?」
「サッカーやると夜ご飯食べて寝ちゃうし。課題もできなくて。寝不足で日中も眠くなって、授業中寝ちゃうし。それに寝てるときなんて、目を瞑るとボールが動いてるような気がするんですよね。あ、サッカー自体は楽しいけど。でも汗かくのも嫌だったなあ。母ちゃんに汗臭いって怒られるし、ユニフォーム泥だらけで洗濯大変だって言われるし。それに、運動するとめちゃくちゃ腹減るんですよ。もう、国語の時間とかダメで。静かな授業だと俺の腹の鳴る音が響いて恥ずかしいし、申し訳ないっていうか。でも部活入らないといけないから、早く終わる美術部にしたんです。他の部活は十八時に終わるのに、ここは十七時半でしょう? 三十分あったらその分早く寝られるし。……あ、そう言えば。言われてみれば確かに、美術室から校庭、見えるんですね。俺、犬しか見てませんでした」
「犬?」
「学校の向かいの一軒家に、犬がいるんですよ。柴犬。あ、さっき描いたんですけど見ます?」
犬みたいに人懐っこい笑顔を彼は見せた。そしてその笑顔を見て、思い出した。彼は表向き、人気者でみんなから慕われている、かっこいい王子様。けれど、どこかダサい。ダサかっこいい藤宮くんが、彼だった。
教室に戻ると、三女子が何やら盛り上がっていて、その輪に入ると少女漫画みたいな目をした柴犬の鉛筆画が現れた。それはさっき藤宮が描いていた例の絵である。
藤宮は誇らしげに「普段からノートの切れ端で落書きしてるんです」と言い、三女子をすぐに虜にするのだった。
なんか、ダサいっていうか、普通の男子高校生なんだな。藤宮への評価がそう変わったあと「さっきの俺、ダサかったな……」と、自分のへっぽこ探偵ぶりが恥ずかしくなったのだった。




