新倉光貴からの視点ー1
華やかな教員生活に憧れていた。
担任を持って生徒の悩みを聞く。教卓に立てば生徒が頷きながら話を聞いてくれるような、面白い授業ができる。放課後には部活の指導をする。同期と将来の教育について語り合う。そうなるはずだった。
けれど、現実はどうだ。教育委員会や生徒の親に怯え、面倒事は避けたいと思ってしまう自分がいる。授業の準備やその他の庶務に追われ、サービス残業をする日々。教員不足で同期はいない。ていうかそもそも、憧れの教員になれたというのに、俺自身が楽しめていなかった。
最も苦痛なのは、なぜかくじ引きで決まった部活は最悪で、放課後が来るのが憂鬱だった。
美術部の扉を嫌々開けると、オタク女子たちが集まってコソコソ話している。俺に気付くと、そそくさと各々の席に戻っていった。
別に、オタクであることは問題ない。けれど最低限、人とのコミュニケーションを取ってほしい。……あ、それを指導するのが俺の役割か。
でも俺は、絵なんて描いたことがない。むしろそういう芸術的なことは昔から苦手だった。
既に入部している彼女たちの絵を見ると、俺なんかより全然上手いし何より個性がある。油絵を描く生徒もいれば、アニメ風のタッチで描く生徒もいる。俺が彼女らに教えられることなんて何もなかった。
けれども、顧問という立場上、何もしないというわけにもいかない。それに放課後の職員室は、鬱憤が溜まった教員たちの負のオーラが移りそうで長居したくはなかった。
油絵が得意な森川が「今年の新入生は一人だけですか」と聞く。「そうだね仮入部もいないし」と返す。
「じゃあ私、姫ポジですかー」と新一年生の安田が森川に抱き着いた。森川が安田の頭を撫でた。
「あーあ、イケメンの一年こねーかなー」乙女ゲームが好きだという、白木が椅子の上で胡坐をかきながら言った。「下着が見えるかもしれないからやめなさい」と注意するも、新任の俺のことなんか舐めてるから聞いちゃいない。
何人か幽霊部員がいるが、大体いつもこのメンバーである。彼女たちは絵を描いたり、話をしたりしている。いや話をすることがメインで、絵を描いているところはあまり見なかった。
俺は俺で授業の準備や事務作業を勝手に進めていた。楽と言えば楽だけど、本当のところ、俺は合唱が得意だったから合唱部の担当になりたかったのだ。けれども運悪く、今年度から廃部になってしまった。だから俺はもう、余生みたいな放課後をここで過ごすしかなかったのだ。
普段通りの日常を壊したのは、一名の来客だった。遠慮がちに開けられた扉から覗かれたのは、生徒たちが期待していた「イケメン」の男子生徒である。
「あの、入部希望なんですけどー……」
女子生徒たちはガタガタと別に動かさなくてもいい机を動かしたり、立たなくてもいいのに立ち上がったりして挙動不審だった。
確か、彼は一組の藤宮だっただろうか。一組の担任が彼のことを褒めていたので記憶に残っている。それに彼の見た目は芸能人みたいに整っているから、俺が求めている華やかさというものがそこには詰められていた。




