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結婚は人生のリスク管理に含まれませんので ~結婚を断った令嬢は、王国の帳簿を黙って直すことにした~  作者: 霧島 結衣


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第32話 最後の提案

 王城の大広間ではなく、簡素な執務室だった。


 余計な耳も、装飾もない。机と椅子と、積み上がった書類。政治ではなく、判断が行われる場所だ。


 国王ローデリヒは、黙ってエリシアの提出した書面を読んでいた。


 ――結婚選択猶予制度(最終案)

 ――撤回権の明文化

 ――離脱・復帰保証

 ――個人事例の非基準化条項


 読み終えた王は、ゆっくりと顔を上げた。


「……これで最後か」


「はい」


 エリシアは即答した。


「これ以上、設計は広げません」


 広げれば広げるほど、複雑になり、また誰かを置いていく。

 必要最低限。それが今回の終着点だった。


「お前は」


 王の声は低い。


「なぜそこまで、結婚を制度から切り離す」


 問いは、政治的なものではない。


 エリシアは、ほんのわずかに息を吸った。


「拒んでいるのではありません」


 はっきりと言う。


「強制を、拒んでいるだけです」


 沈黙。


「結婚は、選択肢であるべきです。

 報酬でも、罰でもなく」


 王の指が、机を軽く叩く。


「だが現実には、家格も、血も、継承もある」


「はい」


「理想だけでは、国は回らぬ」


「ですから」


 エリシアは、書面を指す。


「理想ではなく、仕組みにしました」


 選ばなくても罰せられない。

 選んでも戻れる。

 途中で変えても不利益を負わない。


「これは」


 王は、静かに言う。


「王の権限を、弱める」


「いいえ」


 エリシアは首を振った。


「王の責任を、減らします」


 その言葉に、王の視線が鋭くなる。


「誰かを政略結婚に差し出す判断を、

 王が背負わなくて済みます」


 部屋の空気が、わずかに揺れた。


 王はしばらく何も言わなかった。


「……お前は、王の負担まで計算に入れているのか」


「当然です」


 エリシアは淡々と答える。


「制度は、人を守るためにあります。

 それには、王も含まれます」


 長い沈黙。


 やがて王は、椅子にもたれた。


「なぜそこまでやる」


 今度は、もっと個人的な声だった。


「お前自身は、もう自由を得たはずだ。

 制度を広げずとも、生きていける」


 エリシアは、少しだけ目を伏せる。


 クララの顔。

 ミレイユの震えた声。


「……私は」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「強かっただけです」


 王が、目を細める。


「強い者だけが成立する自由は、

 自由とは呼べません」


 それが、答えだった。


 王は、静かに息を吐いた。


「お前は、最後まで厄介だ」


「光栄です」


 わずかに、笑みが混じる。


 王は、書面に印を押した。


 音は、小さかった。


 だが、それで十分だった。


「これを、正式制度とする」


 エリシアは、深く頭を下げた。


 拍手も、歓声もない。

 だが、決まった。


 結婚は、強制ではなくなる。

 失敗は、終わりではなくなる。


「これで、満足か」


 王が問う。


 エリシアは、少しだけ考えた。


「満足、ではありません」


「では何だ」


「納得です」


 それが、彼女にとっての最終形だった。


 王は、小さく笑った。


「次は、何を設計する」


 エリシアは、静かに首を振る。


「しばらくは、何も」


 王の眉がわずかに動く。


「設計しない時間も、必要です」


 その言葉に、王は何も返さなかった。


 だが、その沈黙は、否定ではなかった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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