第81話 駆け出す
遅れました!すみません!
ジャラジャラと金属のこすれ合う音。土片が散り馬の嘶きがあちこちから聞こえてくる。そしてその中からは人間の少しばかり上がった息がいくつも。
「大丈夫か。飲むか?」
そんな中。鎧では無く軽装の女であるディアナ。その首には赤い奴隷紋が巡っており、隊列の後方を付いてきていた。
「……ありがとう……ございます」
そして受け取った水筒に喉を鳴らすのが、体力が摩耗し虚ろになっているのがシエナ。青髪もこの頃伸びて来て邪魔そうにしている。そしてそれが三分の一程減った所で、ディアナに一瞥して。
「ルナにも良いです……?」
ディアナが頷くとシエナは持っていた水筒をルナに渡す。彼女は……なんと言ったらいいのだろうか。今日はというかこの所、殆ど銀髪の日ばかりで少々子供っぽい所が強い。
「シエナちゃんもういいの?」
ルナは少しだけ遠慮しながらも口を付け水分補給をする。その間ディアナが辺りを見渡すが、やはり見える位置にいるのはダークエルフのレイルベル。
「逃げれないっての」
レイルベルには奴隷紋が見えない。どういう理由で付き従っているのかは分からない。だが確かにこちらを警戒するように見てきている。そして他にも視線を向けるが、館の使用人達は、主の乗る馬車の御者台や馬に乗って護衛している。
「……」
既に戦闘は数回あった。どれも前衛が戦ったからディアナ自身巻き込まれていないが、その頻度が増えるごとに目的地に近づいているのを感じる。そう視線を散らしていると、隣を歩くルナの小さな腕が伸びる。
「ありがとっ!」
ディアナは表情に困りつつそれを受けとる。正直子供の相手は苦手で、特にここまで幼いとクラウディアの影もちらついて、どうにも関わりずらい。
そうした日々が一か月程続いていただろうか。この地面がベット代りとなり、周囲では常に焚火が揺らめき、誰かしらの話し声が聞こえる、この環境に慣れてきていた。
「……おい。起きろ」
だが今日ばかりはいつもと違う。自分らが戦場にいると思い出させる様に、天幕の外で聞こえる、慌ただしく動き回る足音に剣戟の弾ける音。
「ん~……?もう朝……?」
シエナがまだ寝ぼけているが、ルナは元々寝れていなかったのか毛布を握って怯える。そして時間的猶予が無いのか、目の前の天幕が捲られ現れるのは、敵の兵士。
「……夜番は何やってんだッ」
ディアナはすぐに太腿に差してあったナイフを抜き、その兵士の喉元へと投げ飛ばす。そして血しぶきが上がり、顔に掛かってしまいながらも、その死体を押し出し天幕の外の様子を伺う。
「夜襲か」
左手にある山には多くの篝火が見える。どうやら奇襲を受けてしまったという事らしい。そこまで状況を把握すればやる事は単純で。
「このままやり過ごすぞ」
ディアナは天幕を閉め、荷物で塞いでしまう。だが不安そうにシエナは。
「でも逃げないと敵が……」
近くで聞こえる雄たけびに大きく肩を揺らすルナとシエナ。だがそれに混じって駆け続ける足音に、遠くなっていく馬の蹄。
「多分敵はそこまで多くない。大将狙いだ」
わざとらしいほどの篝火。恐らく大きく見せようとしているだけ。実際に外を見た時にも、味方が混乱して右往左往しているだけで、敵はそこまで多く見えなかった。
「だからやり過ごす。メイベルが死んだらこれで分かるしな」
ディアナは自身の首元にある奴隷紋を指差す。ルナにもシエナにも同様にその奴隷紋が刻まれている。
そしてシエナらにとって頼れる大人はディアナしかいない以上、従わない選択肢は無く頷くしか出来ない。
「は、はい……」
そして結局それは正しく、数分もすれば天幕の外では撤退の太鼓が聞こえてくる。自身の首の紋を見ても撃退に成功したらしい。
「……こんなのが何日続くんだか」
こんな襲撃がありながらも次の日にはすぐに出立するらしく、天幕は畳まれ隊列が作られる。その準備を勿論手伝わされるが、その間使用人のレイラが歩み寄ってくる。
「昨晩は大丈夫でしたか」
レイラの腰には振るえるのか疑問だが、剣がかけられている。使用人となるとこんな所でまで主を守らないといけないのかと、少しばかり同情してしまう。
「あぁなんとか。そっちも大変そうだな」
遠巻きには死体が積まれ火を付けられる。あちこちで使用人が医療を施し、食事の配給にと走り回っている。それはレイラも例外では無く、白黒の使用人服の裾は泥でかなり汚れている。
「これが私の仕事ですから。それで……シエナは……」
そうレイラが畳みつつあった天幕の中を覗く。結局館内でも話す機会が少なく、再会の喜びを味わえなかったのだろう。
「話してくか?」
そう気を遣ってやるのだが、シエナは少しばかり名残惜しそうにしつつも天幕から手を離す。
「……いえ。全部終わってからにしておきます」
レイラの視線は灰と骨だけになっていく死体へ向く。あれにすら感情移入しているのか、見てわかる程に苦しそうに、顔を顰める。そんな彼女の肩に一度手を置いて、ディアナは天幕へと戻る。
「あんまり気負いすぎるなよ。奴隷に出来る事は少ない」
レイラは俯くだけで何も言わなかった。なにを思っているのか知らないが、この戦場を見て思う所があるのだろう。
「……まぁ気分の良い物じゃないしな」
そう呟きながらディアナが片付けつつある天幕に戻ると、台に乗ってシエナが骨組みを解体する所で。
「え、なんか言いました?」
そうよそ見してしまうので、シエナが足元をふらつかせる。そしてその乗っていた台を抑えていたルナも狼狽え、今にも倒れてしまいそうになる。
「落ち着かない奴だな」
ディアナはすぐにシエナの背を支え、転ばぬようにする。そして腕の中では申し訳なさそうに目を伏せるシエナ。
「すみません……」
それなりの期間一緒にいるがどうにも距離を感じる。それはディアナ自身距離を詰めようとしていないのだからそうなのだが、それにしても怖がられている様にも感じてしまう。
「さっさと終わらせるぞ」
だが仲良くした所でなので、ディアナは淡々と準備を進めて行く。そうして更に幾日か経っていいき、肌寒くなりつつある季節。ディアナに正確な情報は入ってこないが、兵士たちの雰囲気からして、その目的地である帝都が近付いているのを肌で感じる。
「……どうやって亮太を助けるか」
未だメイベルからは帝都で何をするか聞かされていない。連れてきたという事は、プレヴァルの館へと向かわせるのだろうが、その時亮太がどこに居るかが問題。館にいるならそのまま助けれるが、他の牢に入れられているならば、助け出すのは難しい。
「……」
吐いた息が白く昇っていく。空を見上げれば星が見え、視線を落とせば焚火で温かく森が照らされる。そして後ろには見張りだと言わんばかりに立つレイルベル。
「ため息が多いぞ。人間」
そう言いながらレイルベルはディアナの隣に腰掛ける。手には抜き身のナイフを握ったままで、隙1つ見せようとしない。ディアナは片膝に腕を掛けたまま、ぼーっと野営地を眺める。
「戦争でため息が出ない奴はいないだろうが」
正直言ってメイベルに対する信用は無い。だからこそこの奴隷契約も未だに良かったのか悩んでいる。もう既にディアナは勝手に動けない以上、亮太を見捨てないといけなくなってしまう。だが、隣のこいつは奴隷紋が無い。
そこに目を付けディアナは話しかける。
「逆にアンタはどうなんだよ。奴隷じゃないのになんで従ってる」
この女を味方につける必要が出るかもしれない。多少制約はあるにしても、奴隷紋が無いなら自由に動けるはず。そんな意図が伝わらないよう、表情を隠して問うと、レイルベルは少しばかりの沈黙の後。
「……帝国を滅ぼしたら私の国を再興させてくれるんだと。アルエシア様を頭目にして」
その目には光は無かった。言葉の意味と裏腹にレイルベルの顔は暗く、恨めしそうに本陣の焚火を睨んでいた。ディアナはその視線を追いながら、慎重に情報を引き出す。
「そのアルエシアってのは王族だったり……って所か」
レイルベルは小さく頷く。その視線からしてアルエシアというのは本陣にいるのかもしれない。そしてレイルベルは、体を捻りこちらを向く。それは探るような言葉で、ジッとこちらを見てくる。
「アンタもあの老婆信じてないよな」
揺さぶりなのか否か。この問いかけすらメイベルの仕組んだ事である可能性もある。それを考慮してある程度濁して質問に質問で返す。
「信じていないとしてどうする。アンタも主が従う以上裏切る訳にいかないだろ」
レイルベルが何か考え込んでいるのか睨んでくる。そして手でナイフを回し、視線を夜空へと上げてしまう。
「……どうするんだろうな。私は同胞を助けだせればいいが、アルエシア様は違う。仇を晴らして国を取り戻したがってる。私にはその感情すら人間に利用されているような気がしてならないが」
多分これを誰かにずっと言いたかったのではと、そう思ってしまう。それこそこの頃奴隷になって警戒の必要が無くなってからも、こちらに視線を寄越していたのは元々これがしたかったからなのだと。
恐らくこいつも自分と一緒で保険がかけたいのだ。メイベルに利用されるだけされて捨てられる可能性。それを考慮してどうにか仲間をみつけておきたのいだと、そうでは無いかと思ってしまう。
「……まぁ皆考える事は一緒か」
ディアナがそう呟くと不思議そうにこちらを見て来るレイルベル。そしてまず自分からだと、ディアナは情報を開示する。
「私はある男を助けたい。ただそれをメイベルが許すかは分からない。それでアンタは主の身と同胞を守りたい」
レイルベルも察してくれたのか体をこちらに向け真剣な面持ちになる。そしてそれを確認してディアナは続ける。
「保険の保険だ。互いの目標が達成できないとなった時に協力しよう」
これに意味があるかは分からない。だが協力者がいるというだけで、選択肢の幅は広がる。結局は互いにメイベルに対して信用しきれていないというだけなのだ。何もなければそれでいい。
そしてレイルベルはナイフを持った手をそのままこちらに向けて来る。
「……つまりいざとなれば、アンタは裏切る気があるって事だな」
ナイフの切先は月明りを反射し、ディアナの眼前へと迫る。レイルベルは未だに態度をはっきりさせない。だからこそディアナははっきりと言ってやる。
「奴隷紋があるから出来る事は限られるがな。命令で止められない限り数人は殺せる」
そう言うとやっとレイルベルは軽く微笑み、そのナイフを鞘へと納める。そしてそのまま膝に手をつき立ち上がる。
「よく私に話したな。見張りだというのに」
そう言いながら手を差しだしてくる。どうやら交渉は成立したらしいと、ディアナはその手を握り返し立ち上がる。
「あんまり演技上手そうには見えなかったからな」
「言ってろ」
2人が何かを動かす訳じゃない。それこそ巻き込まれ操作される側の人間。それでも自身の目的を果たすために、些細な協力関係を築いたのだった。
ーーーーーー
更に一か月程。冬も本格化し始めた頃合いに、やっとディアナ達のいる軍勢は帝都へと到着していた。そしてそんな中、使用人であるレイラは、主の傍仕えとして後ろで立ち話を聞いていた。
「ここで陣を張ったまま待機しましょうか」
軍議。と言えばいいのだろうか。各地から集まったのであろう貴族や軍人が一つの机を取り囲み、その中心にはメイベルがいて、そう発言する。
「しかし帝都内で既に協力者の舘が包囲されたと……」
今はこれからの方針を話し合っているらしい。ひっきりなしに泥だらけの兵士が来ては情報が追加されていく。そんな中でもいつもの様子で、穏やかにメイベルは対応する。
「あれは父親の出方を見るまでは助けません。彼が味方かどうかでも変わりますからね」
どうやら貴族達は今すぐにでも帝都を攻略したいらしい。誰しも逸っているのが部外者から見ても分かる。それでもメイベルが最初に挙兵したからか、それ以上誰も抵抗はしようとしない。それこそメイベルの一意見に同意する面もあったからだ。
「じゃあそういう事で各々抜かり━━」
そうメイベルが軍議を区切ろうとした時。また新たに騎士がやってくるが、それは見てわかる程負傷しており、髪は煤だらけになった女だった。
「……彼女は?」
メイベルがそう尋ねると、それを連れてきたらしい兵士が答える。
「クラリス公爵令嬢の使者だと。援軍を求めて」
そう紹介されると、その死者は一度頭を下げそのまま奥へと進み入り、メイベルら貴族たちを前にする。
「もう既に街のあちこちで火の手が回っています!!今すぐに攻城をお願いしたく!!!!」
先ほどの包囲されたという舘の話だろうか。この様子を見るともう時すでに遅しだと感じてしまうが、彼女は机を強く叩き。
「こちらも示し合わせていた軍勢は蜂起させました。ですから早くッ!!!」
そう強く要求する使者だが、メイベルの細い眼は大きく開くことなく。
「勝手に動かれては困るのですけどねぇ。それに蜂起したと言っても大した量じゃないでしょう?」
使者の女は信じられないと言いたげにするが、それを意に返さずメイベルは更に続ける。
「クレリアン公と合流して完全包囲してから攻城を始める。それは決定事項ですから」
メイベルは立ち上がって、申し訳ないと言いたげに使者の女の肩を叩く。そしてそのまま視線が誰に向くかと思えばレイラに対してで。
「彼女にご飯と替えの服をお願いしますね」
「あ、は、はい!」
レイラは自分が呼ばれるとは思っておらず、僅かに声を上ずらせてしまう。もたつく足でそのまま急いで、その使者に肩を貸す。
「さ、どうぞこっちへ」
だがその使者の足は重くしきりにメイベルへと振り返り。
「どうかご思考をッ!!」
そう叫ぶがそれが受け入れられることなく、天幕の外へと出されてしまう。そしてそんな彼女を連れ、レイラは別の小さな天幕へと案内する。
「水浴びは出来ないので布で我慢してくださいね」
そうレイラが世話をしようとするが、使者の女は不安そうにブツブツと。
「あいつ助けに行っただろうな……そうじゃないとクラリス様が……」
命からがら逃げだしたというのに主の事をずっと気にかけている。レイラにはその忠義があまり理解出来ないが、自身の職務については責任を持ち。
「これ食べてください。水はあまり無いのでゆっくり」
パンを取り出して彼女に与えようとする。だが彼女はそれらを口にしようとしないので、レイラは困り果ててしまう。
そして多少気になっていたからのもあるが、多少会話をすればパンを口に付けてくれるのではと思い、問いかけてみる。
「……あいつって誰なんです?話聞く感じ助けるの難しいじゃないんですか」
だが、不用意な言葉に怒りを買ってしまったらしく使者は眉を吊り上げる。
「難しい難しくないじゃない。助けだしてもらわないと困る。その為に私は背を向けてここに来たんだ」
そこまで信用の出来る人物なのだろうか。そう思うのだが、時間が経つにつれ自信が消えていき、使者は苦い顔をして俯く。
「だが、もう舘に火は回っていた……」
諦観も僅かに混じる。理屈では理解しているのだろう。そしてそんな会話の中、天幕を遮る布が突然開けられ、そこに現れるのはディアナだった。
「え、ちょっと勝手に入って来られちゃ……」
だがレイラのそんな静止も無視して、ディアナは取り乱した様子で、その使者の肩を掴み問いかける。
「その相手って亮太って名前の奴隷商じゃないか!?」
ディアナの言う奴隷商という言葉にレイラも僅かに手か強張り、その使者を見る。しかしその使者は歯切れの悪く。
「い、いや……奴隷商ではあるんですけど名前は……」
だがそれだけでディアナは確信したように立ち上がる。
「ならあいつだ。あの公爵令嬢の交友関係がそんな広い訳ない」
その失礼ともとれる発言に使者は目じりを上げるが、すぐにそれを抑え何かを察したようにディアナに問う。
「貴女の知り合いなんですよね」
ディアナは「あぁ」と呟く。そして更に何か問いかけようとするが、それに被せて使者は声を張る。咄嗟にそうすべきだと、主を助けるために必死に演技を始める。
「彼も今館にいるんです!だから助けてに行くよう貴女からも頼んでくれませんか!?」
使者自身その彼が今館にいるか分からない。だがその彼を使えば援軍を引き出せるかもしれない、そう考えていた。そしてそれは確かにディアナにとっては確信の部分でもあり、その言葉を吟味する。
「……あいつなら……助けに行くよな」
ディアナの知っている彼なら助けに行く。そういう奴だと分かっているからだ。だが、だからこそディアナの中で焦りを生み、その様子を見てレイラにも波及する。
「え、奴隷商って……まさか」
そんな動揺するレイラに畳みかける様に、使者は分からずとも返事をする。
「えぇそうです!だから従者である貴女からも!!!」
そう使者に肩を掴まれ激しく。揺らされるレイラ。そして更に焦ってしまう中、確かにあるのは見殺しにしたくなく、いつかの恩返しがしたいという感情。
「じゃ、じゃあ私もどうにかメイベル様に━━」
そう言いかける。だがそれを止めるのはディアナだった。
「辞めておけ。断られるのがオチだ」
使者が目を剥く。レイラ自身ディアナの身の上話を聞いていた事もあって、なぜと、そう思わざる負えなかった。だが彼女は、確かに目を開き、天幕を閉めるとそのままレイラと視線を合わせる。。
「不本意でしかないが。アンタに任せる」
そう言ってディアナが差し出すのはいつの日か見た紙。
「……え」
それは確かに。レイラが出荷された日に盗賊の荷物から見つかった、奴隷身分から解放すると書かれた書状だった。
「なんでここに……」
そんなレイラの呟きに対して、ディアナは焦り急ぎながらも、その紙を広げ書けと催促してくる。
「あいつの引き出しにあっただけだ。時間がない」
レイラは訳も分からなかった。だがこの人が奴隷商の為に動いているのは、その必死の様子から伝わる。だからと、そこに名前を書こうとするが書くものがない。
だがふと自分の指先を見て。
「……血で」
自身のナイフで指先を切りつけ赤い血を垂らす。そしてそれを紙へと押し当て、自分の名前を刻む。それを書いた瞬間、僅かに辺りが赤く光り、レイラの首元からその奴隷紋は消えてしまう。
「こんなあっさり……」
だがそうやって感嘆に浸る暇はなく、ディアナは焦った様に。
「今すぐ帝都に向かえ。お前も多少は戦えるんだろ」
そう急いで立たされナイフをしっかりと掴まされる。何がなんだか分からないが、レイラはこの機会を逃す訳にいかないと、確かに頷き天幕の外へと駆けだしていく。
そして残された天幕では使者が不満そうに。
「あんな子供1人でなんに……」
ディアナもそうは思っていない。だが目的は1人の人間を助けだせればいいのだ。ならばと、ディアナは天幕の布を上げる。
「そうなるかどうかはこいつ次第だな」
そして外で話を聞いていたらしい。そこにいるのは、ダークエルフのレイルベルだった。そして彼女にディアナは。
「逃げた使用人を捕まえる名目。それならアンタも大丈夫だよな?」
いつかの約束だろとそう問いかける。そしてレイルベル自身利の無い話では無く。
「同胞を助け出しに行くのが優先になるが。それでも良いなら」
ディアナはそれでも良いと頷く。どちらにせよレイラ一人では戦力になるかも怪しい。これで帝都内で戦闘が激化すれば、本軍が動き出すきっかけにもなるかもしれない。そんな薄い望みがあった。
「あぁ。亮太……奴隷商はその同胞と同じ牢だった。だから場所は知ってるはずだ」
そうディアナは告げる。するとレイルベルは一瞬疑うような表情をするが、それをすぐに振り払い。
「信じるぞ」
「あぁ」
そしてレイルベルは周囲の様子を確かめ、最後にこちらに一言だけ残して走り出していく。
「アルエシア様に何かあったら頼むぞ」
「勿論」
レイルベルの足音が遠のいていく。それを確かめ、ディアナは天幕を出て、レイルベルとは逆方向に走っていく。そしてそれをしながらも、会う兵士達に対してワザとらしい演技で。
「メイベル様の使者を知らないか!?さっき陣の外に出て行ったんだが……!!」
レイルベルが逃亡では無いよう。あくまでレイラを追っていくために帝都に向かったと。そうするために合わない演技を繰り返す。やらなくてもいいのだが、約束をした以上義理立てはする。
「あぁダークエルフのあいつが追って行ったが見えなくなって……」
だが、それをしながら何をしているんだと、歯がゆい思いをしたのも確かで。
(私が直接行けたら……ッ)
この首にある奴隷紋が恨めしい。他者を頼る事でしか何も出来ない。それこそこれからしようと思っているのも、酷いもので他者を利用するもの。
「……でも助けないと」
今自分が出来る最善を。他の誰でもないあいつを助けるために使える物はすべて使ってしまおう。そうディアナは龍人の元へと駆けだすのだった。




