第7話 転げ、空回る
一旦登場人物が出そろったので、後書きに纏めておきます。
空気も冷え込み人の影すら疎らな街中。コンラートは眠気に押されつつも施設へと帰っていた。
「灯は……ついてないか」
見える奴隷商の施設は真っ暗。
コンラートの眠気はピークに、手綱を握る馬の蹄鉄の音が子守唄のように響く。だがなんとか意識を持たせ、コンラートは馬を返すと、施設の敷地内にある埃っぽい倉庫へと入る。
そして鎧を脱ぎ剣と共に丁重に置く。
「……また迎えに来るからな」
コンラートは名残惜しそうに脱いだ鎧と剣を撫でる。文字通り自分の命より大事な品。それをこんな埃臭い所に置くなんて、そう憤るコンラート。
だが逆らえるわけもなく、コンラートは命令に従ってカギを閉める。
「奴隷商と交渉するか……」
そう呟きながらもコンラートはフラフラと施設の戸を開ける。すでに子供も寝ている時間。そう思っていたコンラートだが、聞こえてくるその男の子の声。
「あ、おかえり。コンラートさん、だよね?」
ランタンの暖かい灯がコンラートを出迎える。そのランタンを持つのは、頬杖をつき眠そうに座るエリックだった。
「……エリック君か。こんな時間まで起きてて良いの?」
何を言っているんだとエリックは頬をポリポリと掻く。エリックの赤みがかった髪に、ランタンの灯が色彩を強調するように反射している。
「だってコンラートさん自分の部屋も知らないでしょ?来てすぐ出てっちゃったし」
エリックは眠そうに眼を擦りながらも立ち上がる。そしてランタンを掲げ、コンラートに中に入る様催促する。
コンラートは深々とお辞儀をし、エリックの眼を見て言う。
「ありがとう。助かるよ」
するとエリックは顔を逸らしてしまう。だが声は至って平坦に答える。
「いえいえ。役割分担ですから」
会話からも察せるが、やはりコンラートとエリックには距離があった。
それもそのはずで、コンラートがこの施設に来た時自己紹介をしただけの関係だからだ。
だが今のコンラートは誰かに頼られたい。そしてそれに応えたい。今苦しんでいるかもしれない主の傍に居れない不甲斐なさを、紛らわせるように、そう強く思っていた。
そんな神妙な顔をするコンラートにも気付かずに、エリックは2階へと先導し振り返る。
「この部屋です。厠は中庭の小屋なのでそこでお願いします」
2階の一番奥の部屋。それがコンラートの部屋らしかった。
「うん。分かったよ」
コンラートがそう返事をするなり、軽く頭を下げるエリック。どうやらあまり長居をするつもりはないらしい。
「では」
ゆらゆらと揺れる暖かい灯が遠ざかっていく。
だがこの時のコンラートには、何もしないという選択肢が無かった。この現状に何も出来ない、何もしていない事が許せなかったからだ。
そうコンラートの手は、咄嗟に伸びてしまう。
「ちょっと良い?」
ランタンの灯が揺らめき、壁に写った影は僅かに形を乱す。
「……なんです?」
怪訝そうに振り返ってくるエリック。
そんなエリックの眼をジッと見、コンラートは壁に背を預け廊下に座る。
「エリック君は今何歳?」
人の良い笑みで語り掛け、コンラートは隣をポンポンと手で叩く。するとエリックも頭を掻きながらも、隣に腰を下ろす。
「14。ここに来て3年目」
コトっとランタンを置き、エリックは落ち着いた声で返事をする。コンラートは、そんなエリックに対し率直に言葉を浮かべる。
「へぇ14か。すごい大人びてるね」
落ち着き具合からもっと上の子かと思っていた。14と言えば故郷ではまだ学問を修める年齢、それが今ではこんな状況を強いられてしまっている。
思わずそんな境遇に感情移入をしてしまうコンラート。だが、ふとエリックは思い出したように言う。
「てか珍しいですね。大人なんて」
「そうなの?」
コンラートは首を傾ける。大人の奴隷なんて珍しい物でも何でもないはず。そう思っていたが、エリックは詳しく教えてくれる。
「うん。基本大人は農奴か軍人奴隷だし、買値を売値が超える事ないんです。子供ぐらいしか値上がりする事滅多にないし」
スラスラと自身の現状を、悲観でも哀愁でもなく、ただ事実として述べるエリック。子供らしからぬ不気味さを漂わせる。
齢14の子がそうならざる負えないこの環境に、コンラートは恐怖すら感じていた。この歳ならそんな事気にせず、遊び学ぶのが普通なのだと。
そしてその元凶となった奴隷商への怒りも自然と湧くのだった。
(こんなこと間違ってる)
いつの間にか強く手を握ってしまっている。
だがその沈黙で、エリックが不思議そうにコンラートを見ているのに気づく。コンラートは咄嗟に笑みを作り、その拳を隠す。
「他に何人もいるの?」
するとエリックは指折り数えながら教える。
「4年目が2人、3年目が1人、2年目が2人。で騎士さんらが合わさって10人……あ、あの病気の子いれたら11人か」
奴隷商というのだからもっと大勢いるのかと思えば、案外少ない人数。確か5年目で売られるという話だが、エリックの場合16の歳で外に売却されるということ。
(やはり異常だ)
コンラートのいた国では一応の成人だが、学生で子供という扱いの年齢。なのに目の前の子供が、自分の知るそれと同じには、あまりにも見えなかった。
もちろんコンラートの国にも近しい制度はあった。だがここまでひどい物でもなければ、ある程度の権利は保証されていた。だがこの国ではそうではない。そうなるとコンラートの主であるシーナの事が、余計に心配になってしまう。
そんな主に重ねたつもりもなく、コンラートはエリックに尋ねる。
「……怖く無いの?」
同情にも近い心配をするようにコンラートは問いかける。するとエリックは、希望でもなんでもない諦めたような、乾いた笑みを浮かべる。
「怖がった所ででしょ。これ以上どん底は無いし、あとは上り調子ってね」
エリックは分かりやすく無理をし、子供らしく笑ってそう言う。
だが、そんなエリックの姿がコンラートには耐えられなかった。今まさに、こんな顔を姫様をし苦しんでいるのかもしれない。そう思うといてもたってもいられなかった。
だからと、コンラートは、大丈夫だと教えるようにエリックの頭に手を伸ばす。
「……君も無理するなよ。子供なんだから」
今のコンラートはエリックと話しているようで、そうではない。本人は無自覚だが、どこか遠くの姫を重ね、その代替をエリックに求めていたのだ。
そうしてコンラートは、割れ物を扱うように優しく、エリックの頭を撫でる。それはまるでかつての主の髪を持ち上げた時のように。
だがその手をエリックは、鬱陶しそうに掴み振りほどく。
「やめてください。そういうの」
強く、あまりに強くコンラートの手が握られる。目を瞑れば軍人に掴まれていると勘違いしそうな程の力で。
ただただ困惑しながらも、目を合わせれば酷く嫌悪の籠った眼がコンラートを貫く。それはさっきまでの穏健な雰囲気とは対極的な物だった。
だがコンラートが瞬きをすれば掴まれていた手は離され、エリックの表情もさっきまでの平静さを取り戻す。
「すみません。でも他の子にもしない方がいいですよ」
「あ、あぁ。気に障ることしたならごめん」
「良いんです。初めてですから」
かなりの動揺がコンラートにあった。コンラート自身はエリックを心配し、頼られようとした結果の行動。それがまさか拒絶されるなど、つゆにも思わなかったからだ。
だが、その当人であるエリックは大きな欠伸をし会話を切り上げる。
「じゃあお休みなさいです。明日飯当番だから忘れないようにしてくださいね」
そう一方的に残しエリックは、、ランタンの暖かい灯と一緒に廊下の先へと消えて行ってしまう。
「━━ちょっと…」
何か言葉を紡ごうとしたが届かない。喉元を超えることは無く伸ばした手は空を掴む。
上手く話せていたと思っていたが、また余分な事を言ってしまったのだろうか。そう原因を探ろうと思考するが、とうにコンラートの体は疲労困憊。
「……寝よう」
そうしてよろよろと入った部屋は、お世辞にも良い物とは言えなかった。藁に布切れ一枚が被せられているだけ。採光用の窓こそあれど、この寒さだと迷惑でしかない上、所々木材の隙間からも風が吹き込む。
「……でも綺麗に掃除はしてある」
誰か子供がやったのだろう。そう感謝を零しそうになるが、やはり庇護されるべき子供に世話をされている自分が許せなくなる。そんな逡巡があったが、一日の疲れがどっと来て気付けば、その意識は深く落ちていった。
だが数時間もしくは数十分。それは分からないが未だ日の出が遠い時間。眠るコンラートの呼吸は荒くなり、まさに悪夢と言っていいほどの物にうなされていた。
「ひ……姫様……?」
雪のように白かった肌は傷だらけ。高貴な王城にいたというのに、今は鎖に縛られ汚らしい独房に座り込む主の姿。
「す、すぐにお助けに参りますから!!あともう少しだけ!!耐えていてください!!!」
叫ぶ。自分は貴方の騎士だとそう言い聞かせるように、ひたすらに。だがそれはどうしても届く事は無い。
右手が主の手を取ろうと伸びるが、金属の擦れる甲高い音と共にそれが止まる。
「……え」
伸ばした手には手かせがかけられていた。気付けば自身と主の間に鉄柵がいくつもあり、その距離を教える。だがそれでもコンラートは鉄柵の間を縫い、鎖を軋ませ血を流し伸ばす。
「俺は!!貴女の!!騎士ですから!!!!」
コンラートが見ている夢だからなのだろう。都合よく鎖はほどけ、鉄柵は歪曲しその手が姫へと届こうとする。
だがあと少し。ほんの少しで手が届きかけた瞬間。俯いていた姫の顔が上がる。
そしてそのおぼろげな深紅の瞳は、じっとコンラートを見つめる。
「今の私を見てよくそう名乗れますね」
心臓を鷲掴みにされたような痛み。それで一瞬手が止まってしまう。それと同時に主の深紅の瞳は真っ黒になってしまう。
「この不忠者」
そしてそれがまるで罰かのように、これまで近づいて来た距離が一気に引き離される。
「違う…!違う違う!!違います!!!私はただ貴女をッ!!」
叫ぶ声は届かず、コンラートは暗闇の中へと放り込まれる。そして時が経つことなく、コンラートは目を見開き、自身の呼吸の荒さに気付く。
「……夢か」
汗が嫌に張り付き、外気にどんどんと冷やされていく。
それと共に記憶も薄れていくが、夢だと処理するにはあまりに最後の主の顔が忘れられない。
だがこのままでは寝付ける気がしないコンラートは、厠へと行こうと部屋をあとにする。
「俺は騎士だ。俺は姫様の騎士だから。俺は……」
外に出れば更に汗が張り付く。まだ荒れた息は収まらず、動悸もいまだ落ち着く事が無い。壁に寄りかかりながらも木の床を軋ませる。
そうして落ち着けるように何度も深呼吸しながら階段を降りる。すると、ふと1階の通路の奥に人影が見える。
「……何してんだ」
月明りに反射するその影は奴隷商そのものだった。ギルドに用事があると言っていたが今帰ってきたらしい。だがそれが分かったとして、出てきた部屋が例の病気の子の部屋なのが、コンラートに疑念を抱かせる。
奴隷商は口元を覆っていた布を取りながら答える。
「何でもない。それよりお前も何をしているんだ」
冷淡な奴隷商の言い方。コンラートは気が立っていたこともあり、強めに言い返す。
「俺は厠に行くだけだ。子供に変な事するなよ」
距離はあり灯は僅かな月明りのみ。コンラートから奴隷商の表情はうかがい知れなかった。
「何もしてないから早くいけ。もう俺も寝るから」
奴隷商はそう言って自分の部屋へと消えて行く。コンラートは一瞬病気の子の様子を伺おうかとも思ったが、その病気という単語に足が止まってしまう。
(うつったら奴隷商は薬を用意してくれるのか……?)
そんな一瞬でも自分を優先した思考に、コンラートは嫌気がさしてしまう。夢の中の出来事がこびりつく中、余計にコンラートの心を追い込ませる。
「……何が騎士だよ」
女子供を守るべき、そう偉そうに言っておきながら、自分自身を優先してしまった。そんな事実がこの止まった足が突きつけてくる。
だが、ふと視界にまだそれがいるのに気付いたのは、その忌々しい声を聞いた時だった。
「勝手に入るなよ。お前から病気を貰ったら、弱ってる彼女が死ぬからな」
扉から顔を出し、コンラートへと忠告する奴隷商。それと目を合わせる事が出来ず、コンラートは背を向ける。
「……言われなくとも」
部屋に向かわなくていい理由が出来て少し安堵してしまっている自身に、コンラートは更に嫌悪感を抱いてしまう。
そうして心を自傷しながらも、中庭へと歩いて行くコンラート。
そして中庭に出れば、嫌に眩しい月明りが出迎える。それと拙いながらも空を切るような音が聞こえてくる。
それはコンラートが長年聞き馴染んたその音だった。
「……ハンナちゃん。だよね?」
確か一年目の子。コンラートと一緒に奴隷商に買われた子供。コンラートに取ったら、名前しか知らずまともに会話も出来なかった相手。だが奴隷商の元に運ばれる道中、明らかに周囲と孤立していたのが印象に残っていた。
ーーーーー
2日前の事。奴隷商の元に到着する前の馬車の中での出来事。失意の中にあったコンラートだが、それでも騎士として子供守ろうと笑顔を作っていた。
「俺はコンラート・ベルセリウス。見ての通り騎士だから安心してね」
沈み切った空気の馬車の中をコンラートは声を張り上げる。すると金髪碧眼と帝国特有の外見をした男の子がそれに答える。
「……エドガー。こっちが妹のカミラ」
見た目からして金髪碧眼で兄妹だと分かる2人。どうやらコンラートという人物を計りかねているのか、困惑しているようだった。
コンラートは安心させるように、その鎧に付いた紋章を見せる。
「言った通り騎士なんだ。だから大丈夫。君たちは絶対に守るからね」
笑顔を作りエドガーの頭を撫でてあげる。今のコンラートには、これぐらいしか安心させる方法を思いつかなかったからだ。
「あ、え、ちょ、ちょっと━━」
そうエドガーは少しだけ照れくさそうにしたが、騎士と名乗ったお陰か安心したように笑みを浮かべる。環境が劣悪だっただけに少しボサボサしていて、長い間不衛生な場所にいたのだろうと察しが付く。
それを確かめつつコンラートは、視線をエドガーの後ろに隠れるカミラへとずらす。
「カミラちゃんも大丈夫だからね。騎士のお兄さんが守るから」
そう空いた片方の手で頭を撫でようとするが、兄であるエドガーの後ろへと隠れてしまう。だが、兄であるエドガーにぴったりで、この子には頼れる相手がいるのだと安心もする。
そして他の子も安心させないと。そう蹲る男の子を見つけるが、声を掛ける前にエドガーが止める。
「レオンは放っておいて……ください。多分あんまり話したがらない」
なら猶更安心させないと。そう逸るコンラートだが、エドガーの深刻そうな顔に手が止まる。
(いやいや。唯一の大人な俺が焦ってどうする)
きっとそれぞれ事情がある。今は自分の声が届く子にだけ手を差し出せばいい。この時のコンラートはそう判断出来ていた。
だからと、4人の内の最後へと視線を向ける。その彼女はボーっと、荷台を覆う布の隙間から外を覗いている。
「……綺麗な子だな」
これまで沈黙を貫いていたが、顔に傷のある釣り目の子。歳的には彼らの少しお姉さんぐらいで、髪も黒で珍しい。
コンラートはその子を視界に捉え、エドガーから手を離し立ち上がろとする。だが、その手をエドガー自身が掴み首を振る。またかと、コンラートは困惑してしまう。
「ど、どうかしたの?あの子が」
もしかしたら彼女も家族なり仲間に何かあったのだろうか。そして心に傷を負ったのだろうか。そう心配するコンラートだが、それは違うらしかった。
エドガーはひどく苦く恨みのこもった視線を彼女へと送る。
「あいつが俺らの村燃やしたんだよ。そのせいで皆滅茶苦茶になった」
端的にそう言われてもコンラートには理解が追い付かなかった。見た目からしてそんな暴れる子には見えないからもあるが、女で子供だったからだ。
だからその確認を込めるように聞き返す。
「……本当なの?それは」
すると怒りを隠そうともせずエドガーは刺々しく言う。
「ハンナに聞いてみたらいいじゃん。とゆーかあいつがそう言ってんだし」
その言葉にコンラートは、ハンナと呼ばれたその当人へと視線を向ける。それに返すように、その黒い瞳が、肯定するかのようにじっと見てくる。
何かを伝えるような、そんな瞳だった気がした。だが何も言おうとしないので、コンラートは尋ねる。
「……君が?」
するとハンナは目を細め、興味を無くしたようにコンラートから視線を外す。だが、言葉だけは返ってきていた。
「否定したら信じる訳?」
まるでこちらを信用せず距離を作る言いぶり。だがどうにか歩み寄ろうと、コンラートは笑みを張り付ける。
「言い分を聞かないとどうにも……」
顔の傷といい何かあったのはコンラートには分かる。それに何か同情すべき理由があるのではと、そう信じたくなる。
だがそれは一方的な同情でしかなかったのか、ハンナは突き放すように言う。
「言い訳は無い。事実として私が燃やした」
それだけ短く。弁明も全くない。ここでどう言葉をかければ良いのか。それを迷っている内に、この場の空気はどんどんと悪くなっていく。
そしてボソッとハンナは吐き捨てる。
「……善意の押しつけ程気持ち悪い物はない」
そしてタイミングを一緒にして、続いていた馬車の車輪の音が止まった。
ーーーー
思い出してもやはり放っておけない子なのは分かり切っていた。あの時は上手く言葉を送る事が出来なかったが、改めて今ならとコンラートは一歩踏み出す。
「……」
元々気の強そうな眼なこともあってか威圧しているような表情。レイラと似た黒髪。だがその汗と肩の上下から、ひたすらに努力をしていたのだと分かる。
「なんでこんな時間に?」
「……」
答える気が無いのかそっぽを向いてまた素振りを始めてしまう。やはり以前の様子から馴染めていないのだろう。
事実を見れば信頼関係の無い今、下手に関わらない方が良いのは誰にでも分かる。だが今のコンラートは夢の事もあり、焦り、どうしても騎士であろうとしたかった。
「俺が剣術教えるよ。昼間が嫌ならこの時間にでも」
「……お構いなく」
ハンナの黒髪が揺れる。髪の伸び具合からしてしばらく切っていないらしい。
「俺は騎士だからさ。相談にだって乗るし、君みたいな子には教えられる事は教えたいんだ」
コンラートは視線を合わせるように屈み、ハンナの肩に手を置こうとする。だがハンナは素振りを止め、コンラートの手を避け脇を通り抜ける。
そして去り際に一言残し、屋内へと姿を消してしまう。
「私を誰かと重ねるのやめてください」
カランカランと音を立て木刀がカゴに放り込まれる。バタンと乱暴に閉められる扉。コンラートは言われた言葉が釘のように刺さり、苦い顔をするしかなかった。本心のどこかでは目の前の奴隷の子供ではなく、姫であるシーナの事しか心配していない事に気付いていたからだ。
ひゅうひゅうと風が鳴り、更にコンラートの体を冷やす。
「……」
何か言い返そうとしても喉元を超える事が出来ない。それが図星だと認めたくなくとも、心臓を締め付けられる感覚に嘘は付けなかった。
「ほんと……情けねぇ」
うずくまりそうになる。けどなんとかそれを抑えコンラートは、ここに来た目的を忘れその木刀を握る。
そして余分な思考が消えるまでひたすらに素振りをし、眠る頃には空が紫色になりつつある頃だった。
外見的特徴と、区別しやすい様多少文言を加えておきます
奴隷商 歳30手前、身長180~ 黒髪で目は細く普段から疲れの色が抜けない。普段は年季の入った黒い外套に身を包んでいる。基本会話に装飾をしないタイプで、奴隷達からは大いに嫌われている。諸事情から奴隷商の職を10年ほど勤めている。
コンラート・ベルセリウス 金髪緑眼 24歳 身長は高いが奴隷商よりは小さい。かつてはシーナ・アルスデットのお付きの騎士だったが、守り切れず奴隷商に買われた。顔はかなり整っており、明るい性格なこともあり、人から好かれやすい。が、生まれの事情から差別される経験が多い人生。 魔力有
奴隷組 この話時点で死亡したのは省きます
既卒 ユリア 25歳 作中から5年前に奴隷商が出荷した奴隷。現在はレイラと同じ伯爵家に給仕しており、給仕長まで上り詰めた。奴隷商とは文通をしている 魔力有
5年目 出荷済
レイラ 18歳 黒髪で額に傷のあり体はそこまで恵まれていない。現在はユリアと一緒に伯爵の所に務めている。元々は奴隷達を纏めるリーダー的な立ち位置だった。ラウラと元同室でよく慕われていた。魔力有
シエナ 17歳 短い青髪の女。元々は公営の売春街に売られる予定だったが、身分から解放され今は冒険者に。気が弱く自罰的な所があり押しに弱い 魔力無
4年目
ラウラ 16歳 たれ目で麦色の髪を結んだ、所謂ポニーテール。レイラをよく慕っていた。レイラがいなくなり年長になったことで、自分がなんとかしよう、そう意気込んでいる。 魔力無
ロルフ 15歳 戦闘面で奴隷商に買われている。肌荒れしつつもこちらもこの地域で多い金色の髪で茶の瞳。うるさいタイプ。基本女性陣からは好かれていないが、奴隷商と何かあった時、まず矢面に立つので、奴隷仲間内での信用は厚い。仲間意識が強く、外部の人間に対しては排他的な面も。 魔力無
3年目
エリック 14歳 赤みがかった髪色 頭はそれなりに良いが冷たい一面もある。剣術はあまりだが、ロルフと一緒に矢面に立ち抵抗することもしばしば。 魔力有
2年目
クロエ 13歳 ブロンド髪を肩下まで伸ばした女。気の強く命令される事を嫌う。実質親の仇で、嫌々訓練させてくる奴隷商を特に嫌悪(他の奴隷も似た感情は持っている)ラウラとレーナの事は好きだが、空気を壊しがちなロルフは大嫌い。エリックはどうでも良い。とにかく空気が読めない人間と自分に指図する人間が嫌い 魔力無
レーナ 13歳 茶髪の三つ編みっ子。例にもれず両親兄弟とは離れ離れ。クロエと基本行動を共にする。気の強いタイプでは無い。感情を大きくは見せず、怯えてやり過ごそうとすることが多い。魔力無
1年目
エドガー 11歳 金髪碧眼カミラと兄妹 美形 元気っ子で活発。子供らしい子供 コンラートの事をよく信頼している。妹の事になると過剰反応する。 魔力無
カミラ 9歳 金髪碧眼エドガーと兄妹。体格は小さいが、美形 基本無口で兄であるエドガーの傍に居る事が多い。兄につられてコンラートの事は信用し始めている。魔力無
レオン 12歳 茶髪の癖ッ毛。エドガーらと同郷。村の村長の息子。騎士や軍人に不信感、奴隷になった際の事で塞ぎ込んでいる。ハンナに対して気まずい感情。魔力無。
ハンナ 13歳 肩下まで伸びた黒髪。頬に傷あり。猫目。美形 エドガーらによると村を燃やした張本人(本人も否定してない) 基本対人関係を築くのには消極的。魔力有
??? 魔暴病 女 魔力有 奴隷商の向かいの部屋に安置されている。水色の瞳に銀色の髪
その他
クリス 奴隷商と同い年 ブレヴァル侯爵の代理人 銀色の髪に眼鏡で切れ目。奴隷商とは旧知。今は侯爵の下で、働きそれなりの立ち位置にいる。魔力有
ディアナ 27歳 肩下まで伸びた栗色の髪。琥珀の瞳。良く笑い明るいが、戦闘では実力はかなりの上位。主人公とは旧知の仲。魔力有
シーナ・アルスデット 15歳 ブロンドに深紅の瞳。歳に比べ見た目は幼い。帝国に滅ぼされた国の姫。コンラートの主。現在はある貴族に買われている。
クレート 清潔感の無い緑の長髪。ひょろひょろとした長身だがナイフの扱いに長けている。コンラートとレイラを襲った人物。”薔薇”に所属する
ブラム 鼠 出っ歯 禿 卸人 歳不明




