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奴隷商の男  作者: ねこのけ
第四章
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第64話 昔からある場所


 元奴隷商とディアナは、雪解け遠く、地面がまだ少し凍る街道を進む。10年と少し前に俯き歩いて以来それっきりの道だ。


 そして朝日が山間から顔を出し、2人の足裏が朝霜を踏み、早朝の冷たい空気に音を響かせる。


「この辺に宿場町があるんだっけか」


 そう昔の記憶を引っ張り出し元奴隷商は、朝日に手で日陰を作りながら隣に問う。そしてその隣で鞄を漁っていたディアナは、どこからか出した色付きの眼鏡をかけ答える。


「ん。そうだね~」


 昔はこうでは無かったのに、どうしてこうなったのだろう。そう思いながら突っ込まない訳にいかず元奴隷商はジッとそれを見る。


「なんだ。それ」


 言ってしまえばサングラスの様に見える。この世界で見るのは初めてだが存在したのかと少しだけ驚く。するとディアナはサングラスを少し落として、上目遣いでこちらを見る。


「良いでしょ?眩しくないし戦闘に使えるかなって」


 自慢げな様子で褒めて欲しいのだろうなと思い、当たり障りなく答える。


「……まぁ確かに。似合ってるな」


 それに言われれば逆光で視界を奪われたりもするから、案外実用的なのか。だがおしゃれ的な要素もあるらしく、ディアナは軽々しい足取りで後ろに手を組む。


「でしょ?普通に可愛いっしょ?」


 元奴隷商を元気付けようとしているのか判断に困るテンション感。朝から泣いてしまっていたから気を遣わせてしまった様にも感じるが、いつもこんな感じだったような気もする。


 だがどちらにせよ思うのが。


「煙も吸わなくなって。随分趣味も変わったよな」


 すると分かりやすく不満そうにディアナは唇を尖らせる。


「またそれ?そもそもアンタが煙吸うと嫌そうな顔してたからじゃん」


 昔によく使っていたパイプを持っている様に指を立て、そうジェスチャーをするディアナ。それは亮太が奴隷商となるまでの、一緒に活動していた時期の事を言っているのだろう。


「気付いてたんだな」


 外套のポケットに手を入れ白い息を昇らせる。そしてディアナも手を後ろに組んで空を見上げる。


「そりゃね。何年一緒にいたと思ってんの」


 元奴隷商もある程度は気付いていた。ディアナがこう丸くなったのも恐らく自分の為だというのを。なぜそこまでしてくれたのかは分からないが、今更聞くには恥ずかしくてその予定はない。


 そうして2人は会話をしながらその宿場町の門を潜る。辺りは谷の中腹にあり朝日は未だ山の向こう。それでも人々は起きているのか、青ばむ空気の中家々は煙を登らせている。


「どうする?すぐいく?それとも一旦泊ってからにする?」


 ディアナがサングラスを外すことなく聞いてくる。やはりおしゃれ目的かと思いつつも、少しばかり悩む。だが追手も見当たらない上、時間だけはあると慎重に行くことにする。


「準備は万全にしたい。明日にしよう」


 クラウディアがいるはずの階層も、全体で見れば浅い方だが、それでも行くまで急いでも半日かかる。だからある程度万全にしておきたい。そしてディアナも賛成らしく頷くと、数歩先に進んで振り返ってくる。


「じゃあご飯いこっ!」


 ロングコートを揺らしディアナは笑う。だが朝はあまり元気のない元奴隷商は欠伸をしつつ答える。


「この時間飯屋やって無いだろ」

 

 元奴隷商はディアナの隣を並んで、辺りを見渡す。するとディアナは地面の石を蹴る。


「ノリ悪~。普通に行こうって答えればいいじゃん~」


 そんな会話をしながらもどこか懐かしい宿場町を眺め、ただ散歩するように歩き回る。そうして時間を潰せば、道路沿いの店が開き始める。


「魚か肉。どっちがいい」


 未だ差し込まない朝日だが、辺りには人がチラホラと見かけるようになってきた。誰もかれも寝起きで寒そうに肩をすぼめ、瞼を開けるのすらつらそう。そんな彼らを眺めながら、機嫌の良さそうに悩むディアナ。


「ん~肉は無し。でも魚の気分でも無いし~」


 元奴隷商は何でも良いので、ディアナが結論を出すまで待つ。すると朝の寒さに身震いをしてしまう。何度縫ってもまた別の所に穴を開け解れてしまう外套。そこから寒風が差し込んでくるが、ジッと外套に首を沈め暖める。


 そうして待っているとディアナはブツブツと言いながらも、ピタッと足を止めてある店を見る。


「あ、あそこ……」


 ディアナの視線を追うようにして元奴隷商も脚を止め視線を向ける。外見だけ見たら至って普通の家屋で、営業中らしく扉が開いている。それをボーっと見ていると、何故かディアナはこちらを睨んでくる。


「あんたって記念日とか覚えないタイプでしょ」


 元奴隷商は謂れのない誹りに眉を顰めディアナを見下ろす。


「何意味の分からない事言ってるんだ。あそこで良いんだな?」


 すると分かりやすく不満げにするディアナだが、それで良いのかぶつくさ言いながらもその店へと行く。


「……恩知らず」


 そう呟いたディアナの言葉は元奴隷商には届かず、2人はそのまま扉を開け中へと入っていく。どうやら開店すぐなせいか客も少なく、ガラガラ。朝日も窓に差し込まないせいか、ランタンがいくつも吊り下げられている。


「好きな所に」


 店主らしき老人が奥からそう言い、ディアナが窓際に座るので元奴隷商も続いて正面に座る。


「こんな寒い方に座らないでも……」


 そう手を擦りながらもメニュー表らしきものがあるので、それをディアナ側に向け朝食を考える。豆系の料理が多く、知らない料理名も多く見える。


(……これって豆腐か?)


 分からないが名前的に豆を煮て濾したもののよう。それを使った料理が乗っている辺りここは豆腐料理を扱っているのだろうか。


 そう物珍しい物を見るように店内を見回すと、ふと記憶に掠るこの景色。もしかしてとディアナの不満げな眼を見る。


「……ここ来たことあるのか」


 するとディアナが頬杖を付き、目を細めため息を零す。


「やっと?席まで一緒にしたのに」


 なぜ不機嫌になっていたのかやっと分かる。これは自分が悪かったと反省せざる負えない。だがそうやって過去話に花を咲かせる前に、暇そうにした店主が奥から声をかけて来る。


「注文決まったかい?」


 それで焦らされる元奴隷商だが、ディアナはメニューを指差し声を張る。


「じゃあこの一番下のこれで」


 勝手に選ばれたのは不服ではあるが、まぁ元々拘りは無かったから良いかと特に反論しない。そしてディアナはメニューを戻すと。


「あんたが昔食べたのと一緒の。地上に上がってから最初に」


 何かを思い出すかのようにくぐもった窓の外を見るディアナ。それにつられるように元奴隷商も、山の上からやっと顔を出しそうになる朝日に目を細める。


「良く覚えてるな。あの時嫌々飯に付き合ってくれてるんだと思ってた」


 カランカランとベルが鳴り、店主の馴染らしき人達が店内に入っていく。どうやら地元民に愛されるタイプの店なのかもしれない。


 昔来た時はどうだったか。あまり思い出して来なかった記憶だから分からない。そしてディアナも同じように追憶していたのか、落ち着いた声色で答える。


「……あんな今にも死にそうですって奴放っておけないでしょ」


 今自分がここでの記憶をあまり思い出せないのが、それだけ余裕のなかったという事なのだろう。


「じゃあ今日は俺の奢りかな」


 今考えてもしばらくディアナには世話になった記憶はある。それを全て返す訳じゃないが、ふと何か返したくなりそう言うと、ディアナは二ッと笑ってこっちを見る。


「やるじゃん」


 そしてそのディアナの細い指がこちらに伸び、何故かそのまま顎に当てて来る。


「そのまま借金もチャラに━━」


 そんなアホな事を言いだすので、元奴隷商はすぐにディアナの指を掴んで強く掴む。


「自分で返すって言っただろ。お前が」

 

 どこかで流れに任せて借金をチャラにすると言ったが、変に義理堅いのかディアナは利子だけでもちゃんと返してくる。だからこれも冗談なのだろうと思いつつ、指を軽く掴むと、それから逃れようとディアナは体を捻る。


「ちょちょ……っと!それほんとに痛いから!」


 そんなやり取りをしていると、ふと隣に店主が皿を手に立っているのに気付く。それで元奴隷商は恥ずかしくなり、指を離して小さく頷く。


「あっ……っす」


 店主は顔色一つ変えず淡々と皿を机の上に置く。ディアナも悪ノリだったと肩をすぼめて大人しくなる。


「……どうも」


 店主は何も言わずまた奥へと戻って行き、元奴隷商とディアナは皿を目の前にする。どうやら麺系らしいが、豆腐と合うのかと疑問に思うが。


「まぁ食うか」


「……うん」


 そう肩身を狭くする2人。そこで食べたその料理の味は、美味しかったわけじゃない。それこそ帝都の食事に比べれば味は薄かった。それでもとても懐かしい様な体に温かさが染み渡る味だった。


ーーーーー

 

 そうして2人宿を取り別々の部屋で明日に備える。一日特に何かしていた訳では無く、武器や装備の点検だけをしていたから疲れも特にない。


 元奴隷商は外套を脱ぎ、月明りと星だけに照らされ薄暗い室内で、ぼーっとベットに寝転がって天井の木目を見る。


「……クラウディア」


 手を伸ばす。あの時自分が手を伸ばしたとして何かを出来た訳じゃない。それでも手を伸ばせなかった自分が許せない。異世界に来て1人だった俺を助けてくれた子。不安で死にかけだった俺を支え、小さいながらも一緒に笑ってくれていたあの子。


 それを最後の最後に裏切って一人にさせてしまった。


 その後悔だけでここまで生きてきてしまった。それを清算させようとディアナが、ここに連れて来てくれた事に感謝しかない。だからこそ明日自分の中で解決をするつもりだが。


「向き合って……どうっすかな」


 ここまでは義務感で続けてきた奴隷商という職。だがこれからはどうすればいいのだろうか。それ以外の生き方は冒険者しか知らなく、それに逃亡犯な以上この国で長居は出来ない。


 そうグルグルと思考を巡らすと、頭の中が熱くなり眠れそうになくなってしまう。そんな中頭の中を冷やすように、窓のカーテンが揺れ、風が入ってくる。


「私と逃避行じゃ無いの?」


 その声に起き上がると、窓に腰掛けるディアナの姿。


「ドアから入れよ」


 どうせ寝れなかったから良いがと思いつつ、元奴隷商はベッドに腰掛けディアナに向き合う。するとディアナは窓の外の暗くなった宿場町を見下ろし言う。


「この時間に男の部屋に入るとか。そういうのって思われるじゃん」


 そういう体面を気にするなら窓を閉めたらどうかと思うが、まぁ良いかと流す。


「で、どうした。お前も寝れないのか」


 すると分かりやすく大きな欠伸をするディアナ。


「誰かさんが寝れないだろうなって。話し相手にわざわざ来てあげたの」


 そう窓縁で胡坐を汲んで得意げに笑ってこちらを見て来る。ふいに窓の外へと落ちてしまいそうで、見ているこちらがヒヤヒヤしてしまう。


 だがディアナなりに気を遣ってくれたのは分かっている。いつも感謝を求めないような態度をして、飄々としているディアナ。昔から感謝を言われると酷く嫌がっていたのを思い出す。


 そう想うと態度や趣味が変わっても、本質的に優しい所は変わらないと、元奴隷商は微笑む。


「お前も世話焼きだな」


 するとディアナは目を丸くし固まる。そして少し恥ずかしそうにして目を逸らす。


「……あっそ」


 ディアナは手癖の様にポケットをまさぐるが、何もなくその手は行き場を失う。偶に見せる煙を吸っていた時のクセだ。


「ま、とりあえず寒いから窓閉めろ。話し相手なってくれるんだろ」


 元奴隷商はそう言って窓を閉めると、ディアナは不満そうにしつつも部屋の中に入ってくる。


「……ん」

 

 そうして結局その日の夜は話が盛り上がり、寝るのは遅くなってしまったのだった。


ーーーー


 次の日の朝。多少寝不足な感覚を覚えつつ、元奴隷商とディアナは宿の前で体を伸ばす。


「じゃあ行くか」


 そうして2人は地下への入り口を目指して歩き出す。他の所にもいくつかあるが、ここの宿場町のが一番整備されていて安全。ただクラウディアの所は少し遠くなってしまうが、そこは仕方ない。そう2人が霧が立ち込める中歩いていると、ふと坂の上に見える老婆。


「老人ってなんであんな朝早いんだろうな」


 元奴隷商がそれを見て呟く。どうやらその老婆背を折り曲げ何かに祈っている様。ディアナは興味無さげにしつつも、それを見て「あぁ」と答える。


「この辺龍への信仰とかあるからね。生贄がどうたらとかって聞くし」


 思わず顔を渋くしてまた老婆を見る元奴隷商。時代が時代だから特段おかしくない事なのは分かっていても、生贄と聞いて良いイメージは持てない。


 そしてふと、その可能性が浮かんでくる。


「……クラウディアもそういう子だったのかもな」


 ディアナは何も答えない。というより答えるべきでは無いと思い口を噤む。そして元奴隷商もそれ以上踏み込むことが出来ず、沈黙をする。

 そして2人は炭鉱の様に整備された地下への入り口を前にし、荷物の最終確認をしてランタンに灯を灯す。


 一足先に用意を終えたディアナはナイフの様子を確かめこちらを見る。


「大丈夫だね」


 その言葉に元奴隷商も強く頷く。


「勿論」


 そうして2人は地下へと足を踏み込む。あれから一度たりとも足を踏み入れず、思い出そうともしなかった景色が広がる。トラウマになっているのではとも思ったが、案外なんとかなるらしい。


「懐かしいね~ここで泣きわめくアンタとキレるクリス引きずったんだっけ」


 また嫌な記憶をひっかいてくるディアナ。それに適当に返事をしつつ奥へ奥へと進んでいく。そして昼食を挟みつつ、地下水脈が近付いて来たのか、少しだけ辺りが暖かくなっていく。


「近いね」


 続いていた思い出話を切りあげたディアナの呟き。少しだけ雰囲気が変わったのが伝わる。そして元奴隷商も直感的に見覚えのある景色なような気がしていた。それも同じ景色を見続けた錯覚なのかもしれないが。


 そして更に30分後。少しだけ広がった洞穴に脇道へと続く小さな道。


「……ここか」


 元奴隷商とディアナは互いに視線を交わして頷く。その足は止まる事なく、あの日を辿る様に岩肌とコケを踏みしめていく。


「……」


 自分でも分かるぐらいに緊張する。あったとしても遺品と僅かな骨だけなのは分かっていても、もしかしたら生きているのでは。そんな有り得ない可能性に心拍が逸ってしまう。


 そして俺達は、カーテンの様に日光の差し込む所を見つける。朝日を捕まえようと伸びる植物に、青々としたコケ。そしてボロボロに形を崩しかけた、いつの日か見続けた大きなカバン。


「まだあったんだな」


 骨は見当たらない。血の跡すらどこにもない。だが、確かにクラウディアの生きた跡はそこにある。そっと膝を折り柔らかいコケに落とし、鞄を手に取る。


「荷物パンパンだね。誰もここに来てないんだ」


 ディアナが後ろから覗き込んでそう言う。元奴隷商はそっとその鞄を漁ると、見覚えのある物ばかり。鍋にランタンにいつの日かの蛇避けの瓶。


 そして見る人によってはゴミで文字通りの路傍の石


「……」


 元奴隷商はそっとそれを持ち上げる。それが心臓を握るような悲しさを沸き立てるが、ディアナは分からないようで首を傾げる。


「何その石。地面に転がってたの?」


 元奴隷商はゆっくりと首を振る。確かにその辺の石に見えるかもしれないが、この石は薄く平らに伸びたものだった。川辺にしかないそれが、川から遠く何もないここにある。


 元奴隷商はその石を大事そうに胸に抱える。嗚咽が漏れそうになりながら、一言その荷物へと零す。


「……ごめん」


 ディアナは何も言えず後ろからそれを眺める。その背中はいつの日と同じように小さく見え、手を伸ばしたくなるがそれをグッと抑える。今は1人で自分の中で納得させる時間だと、守る様に辺りを警戒する。


「……戻ってきたよ」


 元奴隷商はそう呟いて石をポケットに入れる。そして他の荷物は、地面を掘ってそこに埋めてやる。誰にも見られない土地だが、元奴隷商だけは覚えているこの場所に。


 そして自分の魔力で作った石で墓標を立てる。名前だけを拙いながら、掘ってそれを完成させる。花でも奉げれれば良かったが、生憎季節じゃなくあまり売ってなかった。


 そしてゆっくりとその墓標を撫でて必死に声を震わせない様に呟く。


「またね」


 墓標の名前を満足げ微笑みかけ奴隷商は立ち上がり、待ってくれていたディアナへと振り返る。


「もういい。帰ろうか」


 するとディアナは心配そうな顔をして栗色の髪を揺らす。


「そんな短くて良いの?」


 そう問いかけられたが、元奴隷商自身これ以上この場にいると泣き崩れてしまう自覚があった。それはクラウディアが一番嫌がる事、せめて笑った姿だけを見せてあげたい。そんな些細な意地もあった。


「あぁ良い。また定期的に来るしな」


 するとディアナは微笑み、その足裏をこつんと当てて来る。


「じゃ私もついて行ってあげる。1人だとアンタ迷うだろうし」


 ディアナの足裏の痛みを避けることなく、元奴隷商は涙を隠して微笑み返す。


「助かる」


 そんなディアナに感謝しつつ、元奴隷商らは来た道を戻っていく。そうして戻る事10分と少しぐらいだろうか。背後から異様な地響きが聞こえてきたのは。


ーーーーーー


 まさかと思いつつ戻ったらこれだった。いつの日か見た龍が見覚えのある冒険者を襲っている。


「ディアナ!お前は安全な所まで連れてってやれッ!!」


 ディアナは頷いて、青髪の少女へと駆けていく。そして肝心の銀龍は魔法を放った元奴隷商に怒りの矛先を向け睨んでくる。


「アリシア……なのか」


 分からない。それこそここはクラウディアの墓標がある所。そこにいる銀龍となれば、仇の可能性だって大いにある。その二択がある以上対応に困るが、ふとその銀龍の瞳が水色なのに気付く。


「……1人でやるしかないかッ」


 どちらにせよクラウディアの墓標を荒らさせる訳にいかない。そう駆け出し龍の背後を取ろうとするが、ディアナに抱えられた青髪の……シエナが叫ぶ。


「ラウラちゃんが!!あの龍にッ!!!」


 そう言われ顔を上げると、確かに龍の口元には僅かに血の跡が見える。まさかと思い、否定したくなるが。最悪の可能性が過る。


「アリシアが……食ったのか」


 あまりにそれは酷すぎる。そんなことあって良いのか。そう動揺する元奴隷商だが、その銀龍にとっては関係無いと言わんばかりに、その爪を立て押しつぶさんとしてくる。


「━━ッ」


 横っ飛びで避ける。弱っているのか以前より動きが鈍い。そして元奴隷商がディアナに視線を送ると、分かってくれたようにシエナを抱えたまま氷魔法を放つ。


「行ってッ!!」


 その氷魔法は龍の足元を覆う。それは数秒で砕け龍の足止めとしては短かったが、その隙に元奴隷商は、地面に突き立てられた爪から昇り、龍の首裏に乗っかる。


「ここにはクロヴィスもクリスもいねぇ」


 なら出来るはずだと、龍のその逆鱗に手を触れ魔力を吸う。勿論銀龍は嫌がる様に首を振り回し、元奴隷商を壁に擦りつけるが、それでも元奴隷商はその手を離さない。


「人の墓場を荒らすなよッ!!」


 意地でも張り付き魔力を吸っていく。ディアナも隙を見ては魔法で支援をしてくれ、銀龍の動きを制限してくれる。


「ラウラの奴もバカしやがってッ」


 地面に落ちているいつの日かの借り物のジャケットが見える。本当にシエナの言う通り食われてしまったのだろう。その事実を知ったらアリシアの意識が戻ったとしても、精神的に追い詰められるのは目に見えている。


 だがそれも捕らぬ狸の皮算用。まずこの銀龍を止め助けられる命は助けないといけない。だが壁に何度も打ち付けられれば、元奴隷商の体と体力はボロボロになっていく。


「━━ッ」


 そうして更に10分ほどだろうか。元奴隷商がボロボロになりながらも意識を保たせているの限界になりつつある頃。やっと龍の動きが鈍くなり、大きく音を立てゆっくりと首を落とす。それの遠心力に逆らえなくなり、元奴隷商は振り払われ、コケの上に落下をする。


「……いってぇ」


 呻く元奴隷商だが、すぐにディアナが駆け寄ってその掌に日暈を作る。


「毎回毎回死にたがりすぎ!」


 この所こんな心配をさせてしまってばかり、治癒魔法も何度目だろうかと思ってしまう。傍にいる明らかに焦燥したシエナの顔に懐かしさを覚えつつ、そう意識が切れて落ちてしまいそうになる。


 だが、まだアリシアの事がある。それにラウラがもし生きているなら治癒魔法をかけてやらないといけない。そう痛みをこらえ、龍の行方を確かめようと首を持ち上げるが。


「……え」


 だがそこにいたのは巨躯の銀龍ではなかった。勿論魔力を抜いたのだからアリシアがいるはず。そうディアナも思いつつ、元奴隷商の視線を追うように、日光のカーテンが照らすそれを見る。


「ん?どうしたの?まだ治癒魔法が━━」


 だが、それはアリシアでも無かった。そしてシエナが居て欲しいと願うそれでもない。


「ラ、ラウラちゃん……?」


 しかしそれでも無い。


「……違う」


 そして勿論クラウディアでも無い。


「……」


 誰しもが沈黙しそれを見つめる。そんな中元奴隷商は治りつつある傷口の痛みに耐えながら、呟く。


「お前は……誰だ」


 そこには銀色と麦色の混じった地面に垂れる長い長い髪。そしてその間から縫うように光る少し垂れた水色の瞳。その少女というには大人びた彼女を、差し込む日がスポットライトの様に照らし、降り積もる雪は花のように舞い彩っていた。

 ここで一旦四章は終わりとします。


 まずいつもの事ながら、この小説を読んでくださっている皆様に感謝を述べさせていただきます。もっと皆様に面白いと思ってもらえるよう頑張っていくので、これからも応援していただけると幸いです.


 続きの五章は今週の金曜(7月17日)から毎日投稿を再開させていただきます。これからもまた投稿できない日があるかもしれませんが、事前に後書きで連絡するようにするのでよろしくお願いします。


 では最後に度々となりますが、ここまで読んでくださってありがとうございます。そして、これからも引き続き読んでくださると嬉しいです。

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