第56話 出会い
頭全体を締め付けるようなひどい痛み。それが深く落ちていた亮太の意識を無理やり表層へと呼び起こす。呼吸を思い出し、開かれた視界ではぼんやりとランタンが照らし、銀色の何かがこちらを見下ろす。
「━━ッタ!!」
何か叫んでいるが良く聞こえない。水の中にいるようなくぐもった声で、その意味を理解出来ない。それこそなぜ今こんなにも頭痛が酷いのかも察しがつかない。それでも体を揺らす何かの感覚、それだけは確かに伝わる。
「……て!……きて!!……きてって!!!」
その声を聞こうと意識を覚まそうとしても、ぼんやりと空を掴むようにフワフワと定まらない。体全身から力抜けるような、この体の操作が利かなくなるような。どこかへと行ってしまいそうな感覚。
だが頬に伝う冷たい感覚。それがやけに明瞭に感じ意識が戻り、そして最後の一押しかのように、その声が良く鼓膜に響く。
「起きてって!!約束したじゃんっ!!!」
ぼやけていた視界のモヤが晴れる。そして肺に刺すように冷たい空気が送り込まれ、目の前には潤み輪郭を崩した大きな銀色の瞳がある。それを見て意識明けながらも、その感情が漏れ出る。
「……あぁ良かった」
そっとその頬を触る。怪我はどこにも見当たらず血色も元に戻っている。実感はないが治癒魔法とやらはちゃんと出来ていたらしい。ただ登校をしていただけなのにこんな不運に巻き込まれていたけど、やっと運が振れ戻ってきた。
そう微笑む亮太とは対照的に、ひどく疲れ切ったようにクラウディアはその小さな手をそっと置く。
「次……1人にしたらゆるさない」
起き上がった亮太の胸元に顔を埋めたクラウディア。余程怒らせてしまったのかと思うが、それでも一言こちらも言わないといけないことがある。そっとクラウディアの頭に手を乗せる。
「クラウディアも自分を蔑ろにしちゃダメだよ」
咄嗟に自己犠牲をしようとしたこと。そんな選択を正解だと思うような人生と環境だったのだろうが、それは亮太自身の価値観では許容の出来ない物。そうその意図を伝えたつもりだが、クラウディアは頭の上に?を浮かべたように見上げて来る。
「ない……がしろ……?」
そういえばこの子はまだ10歳もいっていないのだった。あまりそんな印象を抱く機会が無かったが、もう少し言葉選びを気を付けるべきだった。
「自分を大切にってこと。さっきみたいな事は絶対にダメ」
それだけ言ってクラウディアを離して立ち上がる。せっかくの外套は水にびしょ濡れになり酷く重い。それで辺りを見回すが大蛇はちゃんと死んでいるらしく力なく首を落としている。すると続いて立ち上がるクラウディアは、服に染み込んだ水を絞り不満げに言う。
「……リョータも自分ナイガシロにしてたじゃん」
その言葉に何も言い返せなくなるが、これ以上は言い合いしても意味が無いと腰に掛けてあったランタンをカランカランと鳴らす。
「じゃあお互いに気を付けるって事で」
そう言って手放した荷物は無いか探す為歩き出す。外套を乾かしたいが、動物の死体のそばに長居するのは良くない。するとクラウディアは水音を立てぶつくさ言いながらついてくる。
「てきとーすぎっ!!どれだけ心配したと……」
それはこちらの台詞でもあるのだが、あの時は互いにやれる事をやった結果。そう思う事にし幾ばくかの問答をしながら、辺りを歩き回る。すると案外傍にそのクラウディアの鞄があり、拍子抜けしてしまう。
そしてクラウディアはその鞄を手に取ろうと膝を折る。
「これ!さっきの蛇の!」
クラウディアが鞄から取り出すのは小瓶に入った赤色の粉。先ほどの轍を踏まないために、それを腰にぶら下げる。
「他に動物よけとかある?」
するとどれだけの物が詰まっているのか、クラウディアは次々とその鞄から小物を取り出していく。鈴に粉に調理道具に良く分からない金棒にと。色々あるがやはり思うのが。
「よくそれ背負って走れたね」
するとお玉を持ちながらクラウディアはこちらを見上げ、当たり前化のように言う。
「まぁ奴隷だし慣れっこ」
また奴隷。単語からは悲惨なイメージを抱いてしまう上、偶に見せるクラウディアの暗い様子。毎度気になってしまうが、今は良いかと流して、その散らかった小物を鞄に戻す。
「じゃあ必要なのだけ手元に持っておこうか」
すると必要なのだけというには、沢山の小物をポケットに突っ込むクラウディア。
「じゃあこれと……これと……」
良かったとただただ思ってしまう。この子に何も無くて良かったと。奴隷であることはまだ気になるが、それでもこうやって五体満足で笑っていられること。それだけでもこんな良く分からない現状にしては上等。
遠目に見える大蛇の死体を横目に亮太は少しだけ軽くなった鞄を手に取る。
「荷物は交代で持とうか」
そうして2人はまた歩き出す。先も良く見えず小さなランタンだけが頼りだが、2つの影はぴったりと離れず岩壁に揺らめく。身長は親子ほどの差があれ、偶々出会った2人で何か特別なものがある訳でもない。それでも会話は弾んでいく。
「あの青白いコケって何?」
岩壁に張り付き星のように辺りに広がる青白い紋様。銀河のバルジのような密度でその紋様が一面に広がり、ただ見上げるだけでも飽きない。そして後ろに手を組んだクラウディアは、鼻歌混じりに答える。
「聞けばなんでも答えれるとおもわないで~私も1か月しか記憶ないし」
近くに流れていた小川は段々と幅が大きくなっていっている気がする。それを横目に、この昨日今日の事を思い出す。
「1か月かぁ。それにしては色々知ってるよね~」
少しだけクラウディアの足取りが軽くなり鼻歌のテンポが速くなる。それを微笑ましく眺め、天井に広がるコケを見上げる。そしてその小さな背中に願いを言う。
「これから沢山思い出が出来ると良いね」
するとクラウディアは振り返りニコッと笑いかけて来る。
「だねっ!」
砂利を2人分の足音が踏みしめていく。段々と辺りの岩壁には脇道のように洞窟が現れるが、決まって川沿いだけを歩く。そんな時間が5回ほどの睡眠を挟む。その間ある程度の魔法のやり方を教わり、簡単な岩魔法だけは使えるようになった。未だナイフの扱いは慣れないが、それはこれからというものだろう。
そうしてやっと景色が変わったと思えば、目の前には轟音と共に駆け落ちる滝が現れ、辺りに冷気をまき散らす。
「すご」
そう亮太が呟くとクラウディアも声を漏らす。
「……すごいね」
丁度良いと2人はそこで休憩を取ることにした。相変わらず辺りに青白く光るコケがあり、ランタンの灯を消しても視界が確保できる。そんな中2人は座って、硬いパンを薄く切り分け干し肉を齧る。
「……クラウディアの仲間はどこにいるんだろうね」
干し肉の繊維を歯で切り裂き小さくして飲みこむ。だが隣のクラウディアはパンをジッと握ったまま俯く。
「……仲間というか……主人だけど……」
クラウディアの首元の赤い奴隷紋が視界に入る。未だ偶に赤く光っては鎮まるを繰り返す。それを横目に、あまり暗い話題をしていても仕方ないと話を本筋に戻す。
「んまぁ……それは置いといてね。その人たちに会わないとどうしようも出来ないし」
そろそろ食料も底をつく。クラウディアの様子からしてクリスっていう良い人もいるらしから、多少助けてもらえそうと思っているが。
(俺は……大丈夫だよな)
不安になってしまう。ただの他人でしかない俺は果たして歓迎されるのか甚だ疑問。だが、どちらにせよクラウディアを送り届けるのは決めた事。
(もっと一人で生きて行けるようにならないとか)
そんな風にグルグルと考えながら食事をしていると、少しの間悩んでいたクラウディアがを意を決したようにパンをかじる。
「……私。リョータと一緒に旅したい」
嬉しいような困るような。そんな言葉と共にクラウディアは真面目だとその瞳でこちらを見て来る。
だが亮太はそれを窘めるよう頭を撫でてやる。
「クリスって人がいるんでしょ。待ってくれている人がいるんだからそんな事言っちゃダメだよ」
クラウディアは明らかに不服そうに唇を尖らせる。所詮俺はこの世界にとっては余所者。居場所が無いのだから巻き込む訳にいかない。
それになにより今は生き残れるかどうかなのだ。そんな先の事を気にしてもしょうがないと、残りのパンを飲みこみ手を払う。
「偶に会いに行くからさ。そんな顔しない」
亮太が撫でていた頭をクラウディアは名残惜しそうに触る。そして残りのパンを口の中に押し込み、水でそれを飲みこんでしまう。そんな突然のせわしなさに呆気にとられるが、クラウディアは背筋を伸ばしてこちらを見下ろす。
「別にリョータが寂しいかなって気を遣っただけだし!!」
そう言ってさっさと荷物を纏めて歩き出してしまう。どうにも子供の情緒は掴めないなと思いつつ、それを追いかける。
「そんな拗ねないでって」
するとクラウディアは目じりを上げて、辺りに声を響かせる。
「拗ねてないっ!!」
子犬みたいだ。クラウディアは至って真面目なのだろうが、そんな事を思ってしまう。だが、ふと、その首元の奴隷紋がまた赤く光る。それはいつもよりも長く光り、暗闇の中に一本の線を浮かび上がらせる。
それを2人は何事かと見つめ、その一本の赤い線の先を辿る。
「これなに……?」
「わかんない……」
だが新しいヒントであるのには変わりがない。亮太とクラウディアはナイフを抜いて、足音を静かに線を辿って歩き出す。そうしてゆっくりと距離を詰めていくが、ずっと暗闇の先で何も見えない。緊張の時間があまりに長く、集中力が切れてしまいそうになる。
そんな頃合い。何か金属同士のこすれ合う音が辺りに響く。亮太とクラウディアは互いに視線を合わせ、沈黙のまま頷き合う。亮太が先に歩きクラウディアが背中を守る。声を出さずに連携し、その音へと更に慎重に近づく。
「……ッ」
漂う血の匂い。益々嫌な予感が溢れていく。だがそれでも聞こえてくるのは、ある男の叫び声。
「━━助けッ」
クラウディアと視線を交わした後、亮太は地面を蹴って走り出す。どうやらその戦闘音の主は危機的状況にあるらしいからだ。
そうして走り出すが、また一瞬襲う浮遊感。右足が踏むべき地面は無く宙に浮き、眼下には地面に落ちた松明に照らされる、尻餅をついた血まみれの眼鏡男。そしてそれに棍棒を向ける緑色の2足歩行の何か。
「急にファンタジーかよッ」
今更な感想と共に亮太は咄嗟にナイフを構えるが、何か出来る訳も無く重力に引っ張られるまま体は自由落下する。そしてその尻は緑色の何かの背中に乗り、押しつぶす大きな音と土煙を立てる。
「……ってぇ」
状況は良く分からないが地面に無事着は出来たらしい。そう思うのだが股下にはもそっと動く人のような何か。そして目の前にはただ驚いたようにこちらを見る、茶髪の髪を結ぶ眼鏡男。亮太は気まずくなり、とりあえず頭を下げる。
「……ども」
だがそれはあまりに無警戒過ぎた。背後に近づくその自身の体を同じ大きさはある棍棒。それを指差して眼鏡男は叫ぶ。
「後ろ後ろッ!!」
その言葉に亮太は咄嗟に体を跳ねさせる。するとさっきまで尻に敷いていた緑色の何かは、空気の潰れるような音と共に、辺りに血しぶきをまき散らす。それは勿論至近距離にいた亮太にも降りかかり、状況を整理するのに時間がかかる。
「……オーク?」
自分の知識ではそれだった。今叩き潰されたのがゴブリンで、棍棒を振り下ろしたのが3メートルはありそうな巨漢がオーク。到底生物的に勝てる相手だとは思えないその大きさ。
そしてそうボーっとしている暇は無く目の前では、血をポタポタと垂らす棍棒が振り上げられる。それを避ける発想に思い至る前に、オークは轟音のような唸りを立てこちらをすり潰そうと向かってくる。ただそれを頬を強張らせ、後ずさるが避けることは叶いそうにない。
それで自身の命が危ないとやっと気付くが、鼓膜に響くその乱雑で荒い声。
「素人がこんなとこ来ンな!!!」
咄嗟に前に現れる影。それは軽装で華奢。でも見える体つきは張り出て栗色の髪を結ぶ女性だった。そしてその手に握られた鈍く光るナイフは暗闇の中煌めき、オークの棍棒を持つ手首をいとも簡単に切り落とす。
「……うわっ」
オークの手首からシャワーのように降りかかってくる血しぶきと、その低く唸るような声。思わず情けない声を出してしまうが、目の前の女性は頬に付いた血を拭い、こちらを酷く睨んでくる。
「邪魔だから下がってろ」
そう言ってまた駆け出す。その先には今いたようなゴブリンにオークがわんさかといて、その悪臭を漂わせる。助けに来たはずが全くのお荷物になり状況が掴めない中、振り返って眼鏡男を見る。
「……これって」
説明を求めるように見るが、眼鏡男はため息と共に立ち上がって剣に付着した血を払う。そしてまた別方向を見て声を張る。
「アルフレッド!!ブランシュ様!!!」
すると暗闇からこちらも血まみれになった男女が駆け寄ってくる。男の方は格式ばった鎧に優男風の穏やかな碧眼。男の後ろに隠れる女の方は有体に言えば神官?っぽい服装で、茶色がかった金色の髪を肩まで伸ばしている。そして男の方はこちらを見ると、目を丸くして駆け寄り膝を折る。
「君大丈夫!?怪我してない!?」
そう言って亮太の体をぺたぺたと触ってくるアルフレッド。その手が首元に来た時は、首を絞められるかと焦るがそんなことなく、ニコっとこちらに笑いかける。
「クリスの傍にいて。俺らが守るから」
アルフレッドは亮太から手を離し、一度納めた剣をまた抜いてブランシュへと目配せする。
「まだ魔法使えるね?」
コクっとブランシュは頷く。一瞬こちらを見下ろしてきた気がするが、すぐに先ほどの栗色の髪の女が向かった方へ視線をやる。そうしてその2人は追うようにゴブリンたちの群れに突っ込んでいく。それをただ唖然と眺めることし出来ず、僅かにランタンの灯に照らされる剣の煌めきを眺める。すると後ろから手を差しだされ、それはさっきの眼鏡男だった。
「さっきは助かった。ちょっと俺も油断してな」
その差し出された手を握って立ち上がる。
「あ、あぁ……いやこちらこそ助かりました」
そうして握った眼鏡男の手の先。腕にはいくつもの打撲後に流れ出る血液。そして視界が広がれば辺りに広がる、ゴブリンらの死体。どれだけの戦闘を続けていたか分かる。そしてそんなボーっとしてしまうというより唖然としていると、眼鏡男は剣を構え亮太を後ろにする。
「俺はクリス。お前は」
目の前には数体のゴブリンがにじり寄ってくる。あの三人が少し離れた所で戦闘をしているが、抜けてきてしまったらしい。そう状況を確かめながらも、亮太は天井を見上げるが、真っ暗でクラウディアの姿が見えず心配になる。
だがクリスの問いかけを無視する訳にいかず、震える手でナイフを抜いて答える。
「亮太。高橋亮太。ちなみに初陣だから頼みます」
すると本気かよと言いたげにクリスが、信じられないものを見る目でこちらを見下ろしてくる。
「ここ42層だぞ。どうやって潜ってきた」
亮太は愛想笑いだけをしてそれを受け流す。そしてクリスもこれ以上問答している暇はないと判断したのか、ゆっくりと息を吸う。
「……まぁいい。自分の身はせめて守れよ」
そう言ってクリスはゴブリン数体へと駆け、その剣を振るう。光源も少なく良く見えないが多分クリスが押しているように思う。
だがそんな時上からその間延びした声が響く。
「リョータ~!?だいじょーぶ!?」
クラウディアが無事な事に感謝しそうになる。だがそれにより反応したのは、今まさに戦闘中だったクリスで、その声のする方を咄嗟に見上げる。
「クラウディア!?!?」
そしてその時対峙していたのは一体のゴブリン。さっきまでならどうって事無いのだろうが、今の一瞬でクリスの腹に向けて刀身の酷く反ったナイフが向かう。
「━━しまッ」
亮太は咄嗟に駆け出した。あのままではクリスという人が死んでしまう。それだけは分かったからだ。そしてその腹だけの出た餓鬼のようなゴブリンに、必死に握ったナイフの切先を向け威嚇するように一心不乱に叫ぶ。
「うぁああああああ!!!!」
その声にゴブリンの小さな目がこちらを向くが、避けられる前にそのナイフは嫌に気持ち悪く刺さる。包丁で肉を切るのとは違うような、変に弾力のある感覚。それを突き刺してもナイフ越しにその蠢きが感じ気持ち悪い。それでも必死にナイフを突き刺し、そのままゴブリンを押し倒してしまう。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
罪悪感を晴らすように亮太は叫び、目の前ではよだれを垂らし叫ぶゴブリン。その手にあったナイフを亮太の背中へと突き刺そうとするが、それよりも早く上から落ちて来るクラウディアの両足。それは確かにゴブリンの鼻先から顔を押しつぶし、ひしゃけた嫌に生々しい音が響く。それを軽く飛び越え、クラウディアは大きく目を見開く。
「大丈夫!?リョータ!?」
ゴブリンは弱々しいうめき声と共にナイフを持った手を地面に落とす。それを意にも返さずクラウディアは、ゴブリンの返り血を浴びた亮太にの肩を掴んでくる。
「大丈夫。大丈夫だけどここは危ないから━━」
まだ他にゴブリンもオークもいる。そうクラウディアを安全な場所に避難させようとするが、そんな亮太を押しのけクラウディアを抱き寄せるのはクリスだった。
「良かったッ!!!良かったぁ……!!」
亮太はのけ者にされたようにその光景を眺める。クラウディアも咄嗟の事に呆けてしまうが、クリスの結んだ茶髪を見て声を明るくさせる。
「あっ!!クリス君!?」
そこでようやく亮太も思い出す。逆にここまで思い至らなかったのが不思議なぐらいだった。クラウディアの名付け親で良く優しくしいたというクリスの存在。そしてそのクリスは涙声になりながらもクラウディアの頭をワシャワシャと撫でる。
「ほんとどこに行ってたんだよ……ッ!!」
それをクラウディアも嬉しそうにはにかんで受け入れる。少しだけ自分の居場所が無くなったような気がして寂しく感じるが、クラウディアが帰るべき場所に戻れたのならいい。そう踏ん切りをつけようとしていると、続いていた剣戟の音は収まりクリスらを見下ろすようにアルフレッド達三人が立っている。
「お前ほんとその奴隷好きだよな。なんなら安く売ってやろうか?」
アルフレッドは呆れた様にそう言う。ブランシュは変わらずアルフレッドの後ろにいて、クリスを至極不快そうに見下ろす。そしてそれを眺めている亮太の事も、汚い物を見るように睨んでくる。
「……これ空気不味くないか」
そう呟いて、あともう一人に助けを求めるように見るが、その栗色の髪をした彼女はそもそも視線すら合わせず、地面に転がるゴブリンらの体にナイフを突き刺し、生き残りが無い探しに行ってしまう。
そしてクリスはというと、目尻を上げてクラウディアを後ろにする。
「だからいつも言ってるだろ。この子は奴隷から解放させるって。帰ったらブランシュ様の御父上に相談する」
そう言われアルフレッドは肩をすぼめ、面倒くさそうにブランシュに目配せをする。だが、そのブランシュはというと、低い声で。
「なんで私がそんな奴隷の為に骨を折らないといけないの。別にいいでしょどうせ拾った奴なんだし」
その言葉にクリスは酷く失望したような顔をするが、それを察したのかアルフレッドが人の良い笑顔を浮かべ、両手でクリスを窘める。
「まぁまぁ。こんな所で喧嘩してもだし、まぁ俺もどうにか力貸すからさ」
アルフレッドという奴がリーダーなのだろう。それは外目から見ても分かる。クリスも渋々ながら頷き、言う事を聞くようだし、ブランシュもアルフレッドに微笑みかけられると小さく頷く。
そしてあとこの場で処理すべき問題と言えば。そう俺にその場の全員の視線が集まる。
「あ、えー……ども」
そう気まずくなりながら俺は頭を下げることしか出来なかった。だがこれがクラウディア以外の人間と出会った初めての時の事だった。




