第54話 隠したい物
灰となった焚火跡から細々と昇っていく小さな煙。変わらず全く空は見えない真っ暗な天井に、近くを流れる酷く冷たい小川。
そしてその傍で干し肉を必死に噛み切ろうと咀嚼する2人。
「もう2週間も?」
亮太は慣れない生臭さに苦戦しながらも、目の前で小さな顎を動かし続けるクラウディアへと問いかける。出会ってから一眠りを挟んだが、やはり全て夢ではなかった。
「そう……足滑らせちゃって……これがないと皆たいへんだから早く戻らないと……」
クラウディアは自分の体程ある鞄を見てそう言った。自分がはぐれ大変な目に遭っているというのに、まず心配するのが仲間の事かと思ってしまう。昨晩は1人は嫌と泣いていたのは、本当に無理をし続けて漏れ出た本音で、普段はこうやって他人の為に無理をしているのかと思うと放っておけなくなってしまう。
「皆もクラウディアの事待ってるだろうからね。一緒に探そう」
そっとその頭を撫でてあげる。嫌がられるかとも思ったが、クラウディアは干し肉を齧ったままそれを嫌がらず、受け入れる。
「……うん。リョータも優しいね」
そう見上げて来るクラウディアの眼は酷く弱々しい。2週間もこんな真っ暗な空間にいればそうなってしまうのも仕方ない。それこそ俺自身クラウディアと出逢えなかったらどうなっていたか分からない。
「クラウディアも十分優しいよ」
感謝しかない。怪我を治してくれた事に笑顔でいてくれること。それだけで俺が諦めずに生きようと思える理由になる。自分でも単純だと思うが子供を守ろうと思うのはなんら変な事では無いと思う。
そうして嬉しそうに喉を鳴らすクラウディアを眼下に、亮太は辺りを見回すがどこも岩壁。クラウディアはどうやら川上から下ってきたらしいが、ずっと同じ景色だと言う。
「じゃあ行こうか」
手際よくクラウディアの鞄を手に取る。だが思った以上に重く体が傾き、これをこの小さな女の子が持っていたかと思うと意外でしかない。そしてそれを面白そうに肩を揺らし笑うクラウディアは、ひょいとその鞄を亮太の手から取ってしまう。
「リョータよわーいっ」
そう言って先に砂利を踏んで進んで行ってしまう。亮太もなんとかそれを追うが結局手に持てたのはランタン一つで、子供に荷物を持たせてしまいどこか申しわけなく感じてしまう。だがそれを気にしないようにクラウディアは軽い足取りで鼻歌混じりに砂利を蹴る。
「ねーリョータ~」
辺りは変わらずの石壁に川。いつかの狼に警戒しながらも、亮太は隣を歩くクラウディアに視線をやる。
「ん?なに?」
そのパンパンに詰まった鞄。それを背負いながらもクラウディアは前屈みになりこちらを見てぱぁっと笑い目を細める。
「呼んでみただけっ!!」
思わず頭を撫でたくなるがそれを寸での所で抑える。こんな陰鬱とした所で気分まで陰鬱にならないのは、この子のお陰でしかならない。
「じゃあクラウディア」
笑顔を綻ばせながら亮太は名前を呼ぶ。するとクラウディアは目を丸くしこちらをジッと見る。
「ん?どうしたの?」
表情の移り変わりが激しくて見ていて飽きない。こういうのを見ていると将来子供が欲しいなんて、この現状に合って無さすぎる事を思ってしまう。
「名前呼んでみただけ。綺麗な響きだからさ」
するとクラウディアはくしゃっと笑って、その足取りは跳ねるように砂利を蹴る。
「でしょ~クリス君が付けてくれたんだ~」
知らない名前。文脈からして名付け親なのだろうが聞かない理由も無いので、亮太はクラウディアの歩調に合わせて問いかける。
「そのクリスさんってのは?」
すると思い出すようにクラウディアはうーんと唸り、足元の石を蹴ると、こつんと壁に辺り響く。そして楽しいことを思い出すようにクラウディアは笑って答える。
「んー優しい人っ!!他の人怖いけどクリス君はいつもこそっとご飯くれたんだっ!」
この様子からして信用の出来る人らしい。この子にしっかりと帰る場所があると思うと少しだけ安心をする。
「じゃあ俺も会うの楽しみだな。そのクリスって人」
この世界の事も知らないといけない。聞く感じ大人だろうから丁度いい。会えたならという前提付きだが、それでもクラウディアに会わせてあげたい。そう思っていると、クラウディアはまた亮太へと距離を詰め見上げて来る。
「うんっ!絶対2人なかよしになれるよ!!」
そう言ったクラウディアの首元には赤い紋がある。昨日から気になっていたそれで、偶に赤く光っては消えるを繰り返している。
「その首のは?」
すると今まで明るかったクラウディアの顔色が曇る。何かまずいことを聞いてしまったのかと焦るが、クラウディアは首に手をやりながら小さい声で答える。
「私が奴隷って証。助けてくれたパーティーリーダーの人がこれしないと拾てくれないって」
世界観が少しだけ分かった気がした。どうやら自身の持つイメージの異世界というものとあまり変わりの無さそうな事に。だがそんな浮ついた考えを出来る様子ではなく、亮太はクラウディアの顔を明るくさせようと口を動かす。
「あっでもなんかおしゃれだよね!?それ!!チョーカー!?って奴っぽくて!!」
自分でも何をしたいのか分からなくなりながらもそう拙く伝えると、クラウディアは一瞬ぼけっとするが、すぐに肩を揺らしてお腹を押さえる。
「ひっしすぎだってーっ!!ほんと優しいねリョータは」
クラウディアの偶に見せる暗い部分。それは恐らく奴隷というものが関係しているのは察しがつく。だがそれを隠そうと彼女が笑顔で覆おうとするのなら、それの意図を掬ってやるべきだと感じる。
「でしょ~。じゃあ優しいついでにちょっとこっちきて」
亮太は立ち止まってクラウディアを手招きする。それを不思議そうにするクラウディアだが大人しくこちらに来てくれるので、それを膝に乗せてその銀色の髪を触る。
「姉貴がいてさ。昔こうやって髪を結んでたんだ」
肩にかかるかかからないか程の長さ。結ぶには少し短いが後ろを邪魔のならないよう上手く纏める。少しだけ懐かしい気分になりながらもそれをすると、クラウディアは両手で髪の毛の感覚を確かめる。
「えっこれどうやったの!?」
そう言ってどうなっているのか見たくてたまらないのか、すぐに川辺へとかけよって首を傾げて見ようとしている。それを見てやって良かったと嬉しさを感じていると、クラウディアはこちらに向き直って大きく跳ねる。
「これかわいい!!やり方教えて!!!」
元々可愛いからどんな髪型でも似合うとは思う。だが本人的にはとても気に入ってくれたらしく、そうせがんでくる。そしてそれが嫌な訳無く亮太も快く教えるが、自分でやるには中々難しいいらしい。結局上手く出来なくて、俺が毎朝やってあげることに収まった。
そうしてまた2人は昼食を挟んで歩き出すが未だ変わらない光景が続く。そう思っていたのだが、辺りに鍾乳石のような物が増え、そして目の前には地底湖とでも言えば良いのか、水色に澄んだ地下水で満たされた空間がある。
「……水透明だな」
屈んでその地底湖の水を触るがかなり冷たい。水底まで見えるぐらいの透明度で雪解け水だろうかなど思っていると、隣ではポコポコと音がする。それを見ればクラウディアが空っぽのガラス瓶に水を入れている。
「他にガラス瓶ある?俺も入れるよ」
するとクラウディアは鞄の中から4本のガラス瓶を取り出し、その内の二本をこちらに差し出す。
「お願いっ!」
こういう時にすぐ水を補給しようとする辺りしっかりしている。そういう所があるから2週間1人で生き残れたのだと納得しながらも、ガラス瓶に水を満たす。そうしていると湖に写る影、それは確かに魚のフォルムをしている。
「干し肉ばっかなんだよね。最近のご飯」
亮太は一杯になった2本のガラス瓶をコトっと地面に置き問いかける。するとクラウディアも蓋をしながらも不思議そうに頷く。
「うんまぁそうだけど……どうしたの?」
それならばと亮太は制服を元に出来た外套を脱ぎシャツとパンツになる。そしてそのまま足を折り曲げて魚影を捉える。
「じゃ捕まえて来るよ!!」
そう足に力を込め飛び込もうとする中クラウディアは焦ったように声を漏らすが。
「えっちょっとあぶな━━」
その声も届かず亮太の体は透き通った湖面へと消え、大きな水しぶきを上げる。そしてそのまま潜水して魚影を目に入れると、どうやら40㎝程のそれなりの大きさの魚らしい。
「田舎育ち舐めんなよっ」
心の中でそう意気揚々に思い、平泳ぎで魚に近づいて捕まえようとするが、どれも腕の間をするりと抜けてしまう。それでも酷く冷たい水の中を掻き分け、魚を捕まえようと奔走することしばらくして、息継ぎをしようと湖面に顔を出した時。こちらを向いたクラウディアが必死の形相で呼び戻してくる。
「早く戻って!!うしろうしろ!!」
その声にどうしたのかと思いながら振り返ると、そこには自分一人は簡単に呑み込めそうな程かっぴろげられた口。それは周囲の水を飲みこみ今まさに自分自身さえもその真っ暗な喉奥へと誘おうとしていた。
「いやいや……これは流石に……ッ」
こんな地底湖にここまででかい魚がいてたまるか。そう現実逃避をしたくなりながらも必死に腕と足を動かして逃げる。それでもヒレが湖面を叩き水を飲みこむ音は追いかけ、近づいてくる。そしてあっさり足先には柔らかい舌のような物が辺り、背筋が思わず震える。そのまま右足は周囲の水に引っ張られるようにその喉奥へと滑ろうとするが、その刹那頭上では何かが擦る。
「頭下げてッ!!」
その声が聞こえた頃にはグシャっと何が潰れる音と辺りの綺麗な水が赤く染まる。そして恐る恐る振り返れば、その魚?の脳天に一本の石柱が突き刺さり肉片は散らばって赤い血液が流れ出る。
「うっそだろ……」
冷たかった辺りの水が段々と生暖かくなる。そして目の前では肉塊になったそれが腹を上に向け湖面に力なく浮かぶ。そうしてボーっとしてしまう亮太にクラウディアは、小さな体を大きく使って両手をばたつかせる。
「早く戻って!!ヒレが見えるからっ!!」
ヒレ?そう思いながら辺りを見ると血につられたのかいくつもの魚というには大きなヒレがいくつも近づいてくる。それがやばいのはすぐに分かり咄嗟にバタ足で逃げ出そうとする。だがふとその魚の死骸を見て欲張ってしまう。
「これ食べれるよな……」
クラウディアの魔法で一部バラバラになった肉片を掴む。これだけでもそれなりの大きさで動きずらいが、せっかくの食料だ。そんな欲張った時は大抵滅茶苦茶な眼に合うのが相場だが、今回は運がよかったらしい。どうやら魚の死骸が囮になってくれたらしく、そのヒレたちは亮太を追うことはなかった。そうして安全に岸へと上がるのだが、そこには頬を膨らませ腰に手をやるクラウディア。その小さな指は亮太の額をペチンと叩く。
「なにしてるのっ!!ちゃんと注意はきいて!!!」
額の痛みはそこまでだが振り返れば肉片を奪い合うように暴れる牙達。それを見ると身震いする思いになり、クラウディアの言う事に顔を伏せざる負えない。
「……ごめん……でもこれは」
そう手に持った肉片を掲げる。あれだけ大きな魚だっただけあってこの欠片だけで2人分の食事にはなりえる。それこそ命からがら持って来たものだ。だからとクラウディアに許しを請うように見るのだが、その本人は眉を釣り上げたまま。
「そんな目してもだめっ!!あぶないことしたのは変わらないから!!」
こんな小さな子に説教される高校2年生。情けなく感じてしまうが全て自分が悪いのだから何も言い返す事が出来ない。そう小さくなってしまうが、クラウディアはため息と共にその肉片を手に取る。
「もうじゃあご飯にするよ!!」
それで許す訳じゃないと目で言ってくるが、鞄から炭を取り出し始める。それを見て亮太も手伝おうと下着を濡らしたまま外套を着て立ち上がるのだが。
「おとなしくしてて!!風邪ひくでしょ!!」
そう強く言われ大人しくせざる負えない。そうして地底湖からある程度離れた所で、焚火を起こして自身の下着を乾かしながらも、その魚の肉片は切り分けられる。
「鍋も入ってるんだね。その鞄」
外套だけに身を包んでその鍋を覗き込む。具材は魚の切り身しかないが何か調味料のようなものをいくつかいれ、スープは薄茶色になって煮え始める。そして先ほどの血気迫った様子は鳴りを潜め、機嫌良さそうに調理するクラウディア。
「だいたい入ってるよ~料理はわたしのお仕事だったし」
奴隷がどうのという話に繋がるのだろう。それに深く踏み込むことが出来ずにクラウディアがグルグルと鍋を回すのを、ジッと眺めて外套に包まり続ける。そして少し落ち着いた事で、先ほどの1件を思い出す事が出来る。
「さっきのも魔法?あの石の柱が飛んできたの」
魔法って言うともっと光がバーン!というイメージだったのだが、案外物理っぽくて驚いていた。だが当人であるクラウディアはなんてことない様に答える。
「まーね~」
この様子からして魔法が当たり前の世界なのだろうか。自分にもと思ってしまうが、残念ながら体に変化が起きた感覚は一切ない。だが先ほどのあんな巨大な石柱が空を切って肉を抉る衝撃。それを見て自分に魔法が無いかワクワクしてしまわない男がいないはずもなく、手のひらを掲げては力を込める。
「━━ッハァ!!」
片手を掲げた男の情けない声だけが辺りに響く。そしてまたブクブクと鍋が煮える音と共に、クラウディアの眼が呆れた様に細くなる。
「リョータってバカ?」
亮太は顔を赤くし黙ってその場に座り直す。
「……いやぁ……出来るかなって……」
アドレナリンが出過ぎて変な事をしてしまった。そう自分の幼さに言い訳しつつも、顔を隠すように伏せるが、クラウディアはため息と共に亮太の手を包む。
「ちょっとまっててね」
クラウディアは目を瞑りうんうんと唸りながら手を握ってくる。何をしているのか聞ける雰囲気でもなく黙っている。
(まつ毛長いな)
そんな関係のない事を思い始めた頃。やっとクラウディアは目を開いて少し驚いたように声を弾ませる。
「魔力あるよ。リョータに」
そう言われ心臓が跳ねる。一番ワクワクするような言葉を言われ、じゃあ魔法を教えて、そう言おうとするのだがクラウディアはすぐに鍋に視線をやって。
「あ、ちょっと煮すぎちゃったかも」
亮太の手は空振り届かない。そしてこちらが何か言う前に木のお椀へとスープをよそってこちらに差し出してくる。
「熱いから気を付けてね。せっかくリョータが取ってきたんだから」
そう悪戯っぽく笑うクラウディア。それを見て自分の腹の音に気付く。泳いだせいもあってかなり腹が減っていたらしい。
そう今は魔法は良いかと亮太もその湯気の立つ木皿を受けとる。
「うん。せっかくクラウディアが作ってくれたからね」
するとクラウディアは嬉しそうに喉を鳴らして笑う。こうして見ると女の子らしい姿だが、節々に見えるあまりにしっかりした所に冷静で暗い面。この現状にその奴隷?という身分のがそうさせてしているのかもしれない。
そうして食べたスープは少し内臓が混ざっていたのか生臭かったが、それでも温かく味が濃くて美味しかった。そしてなによりそれを食べるクラウディアは小さな口で掻きこむように食べる姿。それが可愛らしく愛おしく見える。そして口回りを少し汚しながらこちらを見て、歳相応に笑う。
「やっぱ誰かとご飯食べるとおいしいね!」
つられるように亮太も微笑んでしまう。
「だね。すご美味しい」
そうして会話もほどほどに腹が減っていた2人はすぐに鍋を空にしてしまう。その後少しの間下着が乾くのを待ってから着替え、亮太たちはまた歩き出す。
「あ、それで魔法ってどうやるの?」
辺りは鍾乳石と流れる小川。そして偶に見える蓮状に広がる水溜りのような物。幻想的な光景で、その傍を歩きながら問いかける。するとクラウディアは小さな手を目いっぱいに広げ、こちらに見せてくる。
「掌の真ん中に力込めて……っと……なんか想像してみるっ!!」
随分アバウトな説明。だがどうやら感覚でやるものらしいのは分かったと、魔力を手のひらに集めようとするが、筋肉が強張るばかり。それに首を傾げ歩きながら続けるが、見かねたのかクラウディアが手を重ねて来る。
「えっなにを━━」
少しだけびっくりして手を離そうとするが、クラウディアはニッと笑って白い歯を見せる。
「これが魔力ねっ!」
そう言われると同時にじんわりと広がる手のひらの暖かさ。これが魔力かとは納得できないが、確かに経験のない感覚だった。
「……なんか変な感じだね」
クラウディアの手が小さいなと関係無く思ってしまう。手のひらだけでこんなにも小さいのに、あんな大きなバックを背負っている。どこから力が湧いているのだろう。
そう思っている内にクラウディアの手を握ってしまっていたのか、困惑し怯えたようにこちらを見上げて来る。その声は酷く震えていた。
「ど、どうしたの……?」
思わず強く握ってしまっていただろうか。そう反省してすぐに手を離す。
「あ、ごめん!小さくて綺麗な手だなって!!」
するとクラウディアは不安そうな表情はどこへやら、ぱぁっと笑顔になって嬉しそうにはにかむ。
「でしょ!?きれいだよね!?わたし!!」
そう言った時クラウディアの首奴隷の紋が赤く光っていた。それもすぐに収まるが、今の酷く怯えた反応と言い、どこかその奴隷の紋を恨めしく思ってしまう。
だがそんな会話をしている中。どこかで鍾乳石がバラバラと辺りに落ち、破片が舞う。
「……ん?」
亮太とクラウディアは表情を硬くして視線を合わせる。そして互いに辺りを見回すと、少し先の蓮状に広がった水たまり?のようような所の上。そこには到底見た事の無いほどの大きさの水色の蛇がこちらをジッと見ている。
「……にげよ」
クラウディアが咄嗟に低い声でそう呟く。そして亮太もそれに逆らう訳も無く小さく頷いて、一歩ずつ後ずさるがその蛇の水色の瞳はこちらを見て離さない。
「クラウディア。荷物捨てて」
亮太は咄嗟にそう言った。本能的にそう簡単に逃げれないと察していたからだ。だがクラウディアはためらうように声を細める。
「で、でも……これ捨てたら怒られ━━」
何かトラウマがあるのかもしれない。だがそれが命より思い訳が無いと、亮太は被せ声を張る。
「良いから!俺が代わりに怒られてあげるから!!」
だがそれが短絡的な行動だった。思わずクラウディアを見てしまい蛇から視線を外した。そして辺りに響くあまりに大きな声を出してしまった事。蛇が空気を擦れる様な鳴き声と共に、尻尾を振り回し、その巨体はうねって岩柱を破壊しながらこちらに向かってくる。
「ごめんッ!!」
咄嗟にクラウディアの鞄を取り上げてその辺に放ってしまう。そしてそのままクラウディアを抱えて走り出す。
「え、あ、え?じ、自分で走れるって!!」
そう我儘を言うクラウディアだが亮太が離す事は無い。最悪自分を犠牲にクラウディアだけでも生かすにはこれが一番だと考えていたからだ。
そうして石壁の崩れる音に蛇の腹が擦れる音。そして甲高い蛇の鳴き声。それが響く中亮太は、クラウディアだけでも守るべく必死に肺と足を動かし続けるのだった。




