第46話 不完全燃焼
彼は騎士だった。
地位も名誉も立派で煌びやかな装備。そしてなによりも自身の命を奉げる事の出来る主を仰ぐ。そんな満ちたりた人生。
始まりこそは誰からも目を合わせられずいないものとして扱われる中。それどころか排斥おもされ、迫害される時期すらあった。何度も死にたいと思った。何度も逃げ出したいとも思った。
それでも彼がここまで生き、目に光を失わなかったのは主であるシーナとの数年があったからこそ。
だが。だからこそ、彼は悩まないといけなかった。信念か忠義か。彼にとって不可分で殆ど同質。どちらかを選べるはずのない二択。
それでも彼は決めないといけない。その選択を目の前にして迫られた時、シーナといた王城の庭を思い出す。
花と笑顔の似合う可愛らしい人物。それの深紅の瞳が騎士をジッと捉える。何かを伝えているようで、何も求めていないような顔。
もうしばらく昔のように感じてしまう。まるで遠く手に届かない所にいってしまったような。そんな寂しさにも近い哀愁があった。
だがらなのだろう。彼の心に湧き上がるのは、この顔を守りたいとい感情だけ。
そう彼は二択からやっと選択をする。
「……実は一つ」
だがその時。記憶の中のシーナが微笑んだようにはどうにも思えなかった。
それはある日の朝の事。騎士がいつまでも悩み後悔し続ける選択をした時の事だった。
ーーーーー
奴隷商がシレアを買ってから1週間。特段奴隷商がシレアに何かする訳でも無く、いつものただただ時間が過ぎている。奴隷商にとってはそう認識していた平穏な一週間。
「コンラート。その塩取ってくれ」
「あ、あぁ」
朝の炊事場。コンラートと並んで料理をしているが、この所のコンラートは生返事ばかりで心ここにあらずという感じ。奴隷商は受け取った貴重な塩を少しだけ鍋に振り入れながら問いかける。
「まだ体調悪いのか?」
一週間前から体調が悪いと薬と食料を要求してきている。流石にここまで長いと奴隷商としても懐が厳しくなるので、控えて欲しいのだがコンラートは相も変わらず。
「ちょ、ちょっと長引いてな……あと2日良いか?」
そう眉を曲げ申し訳なさそうにするコンラート。それを奴隷商も甘いと思いながらも、ため息とともに頷く。
「分かったよ」
不安視していたシレアも特に問題は起こさずプレヴァルからも接触はない。クラリスも何事も無く仕事に戻れたらしく、やっと日常が戻ってきた。ただハンナの事はあるが、あれは時間に解決してもらうしかない。
そう奴隷商は味見をしつつ窓の外を眺める。
「……もう少し塩いれるか」
外は晴れているとも曇っているとも言えない天気。段々と暖かくなってきて過ごしやすくなってきている。
そうして調理をしながらも世間話と奴隷商はコンラートに話しかける。
「知ってるか?あのシレアと同族のダークエルフが内務卿を暗殺しようとしたの」
奴隷商もその場にいてというより殆ど当事者。一週間もすれば暗殺の一件は公表されて手配書があちこちに出回っている。
「へぇー……物騒だな」
あまり話を聞いていないのか上の空のままのコンラート。何か考え事をしているのかと思いながらも、奴隷商は会話を続ける。
「背が高くて長い髪って話でな。俺もその現場にいたんだが相当実力はありそうだった」
奴隷商がそう言いながら鍋をかき混ぜるか、コンラートからの返事がない。緑眼をこちらに向けることもせず、ただ皮をむく途中の野菜を手に持って固まっている。
「……コンラート?どうした?」
するとはっとしたようにコンラートは肩を跳ねさせる。
「い、いや……何でもない」
また何か考えこむように顔を暗くしてしまうコンラート。シレアともあまり仲は良さそうに見えないので、ダークエルフ自体に思う所はあるのだろうか。
「ま、シレアの奴が匿ったりするかもしれん。一応警戒だけはしておけ」
そんな偶々逃亡犯がここに来ることなどないと思うが、一応そうコンラートに伝える。
だが、やけにコンラートはオーバーに反応をする。
「そっ……んな訳無いだろ!!!」
奴隷商は耳がキンとなり顔を顰め、コンラートを冷たく見る。
「だから一応と言っただろ。別にシレアやお前を疑ってる訳じゃない」
この男のどこに地雷があるか分からない。どうにも体調を崩してから様子がおかしく、奴隷商も違和感を抱くが、何か生活に異変がある訳でも無くただただ不思議なだけ。
そして沈黙する奴隷商に対してコンラートも平静さを取り戻したのか、髪をかきあげ深呼吸をする。
「あ、あぁ……そうか……すまん熱くなった」
分かったなら良いかと奴隷商は再び料理に戻る。どうにも気まずい空気になってしまったので、また話題を変えるように奴隷商は。
「そういえば最近部屋で飯食ってるのは理由あるのか?」
いつもは奴隷達と飯を食べているというのに、この所食堂に顔をあまり出さなくなっている。その理由は薄々察しがついていたが、コンラートはその予想通り。
「あ、いや風邪移す訳にいかないから……な」
どもりながらもそう答える。が、それを意味あるのかと奴隷商はつっつく。
「別に剣術指南している時点で今更だろ。別に強制する気は無いが」
変な気を遣うものだなと思いつつ、奴隷商は火を止め木の皿を取り出す。コンラートは答えられないでいるが、ただそうすべきだと思ったのだろう。あまり他人に合理性を求めすぎても良くない。
病人に問い詰めすぎたと、奴隷商は反省し一応声をかける。
「早く治せよ。お前もそれなりに役立つようになってきたんだからな」
そう珍しく褒めてやったというのに、コンラートは苦い顔をしながら奴隷商とは視線を合わせようとしない。
「……んだよ気持ちわりぃ」
そんな語気の弱々しい暴言が返ってくる。気を遣って損したと奴隷商はさっさと木皿にスープを注ぎ、朝食の支度を進める。
すると朝から来客らしく玄関のベルが鳴る。奴隷商は手に持っていた皿を下ろし、対応しようとするのだが。
「お、俺が行くから。奴隷商は準備してくれ」
そう奴隷商の返事を待つことなくコンラートは駆けて行ってしまう。様子はおかしいがやる気だけはあるらしい。そう思いつつも少し心配になり、窓から顔を出して玄関外を覗くと。
「……配達か。なんかあったっけか」
配達員の制服を着た老人が立っている。それでコンラートに任せても良いかと安心しつつ、奴隷商は鍋へと戻る。そのタイミングであっとそれを思い出す。
「あいつの鎧見つかったのか?」
一か月前に商工ギルドにコンラートが売った鎧の捜索願を出していた。買い戻すには時間がかかるだろうが、今の段階だと見つかっても金が足りない。
「あいつ騒ぐだろうなぁ」
あの配達員がその連絡だったら確実にコンラートが騒ぐ。今から向かった方が良いだろうかと思いながらも、まぁ良いかとパンを切り分ける。
だが奴隷商の心配も杞憂だったらしく数分後。コンラートは特に表情を変えることなく炊事場に戻りスープの注がれた皿を手に取る。
「持ってくぞ」
やけに落ち着いたというか静かな様子。目すら合わせて来ないので不審に思い、奴隷商はその肩を叩く。
「荷物は」
するとコンラートは振り返る事無く声を小さく答える。
「……住所間違いだとよ。ちょっと世間話をして遅れた」
そう言ってさっさと皿を持って行ってしまうコンラート。奴隷商の手は空ぶってしまい、炊事場に1人取り残される。
「なんなんだあいつ」
どうにもコンラートの考えが分からない。体調が悪いからなのかは知らないが、対応に困るからやめてほしい。
「ま、いっか」
奴隷商は考えるのを諦め残りの皿を食堂へと持っていく。そして相も変わらず奴隷達に睨まれながらも配膳し、さっさと炊事場へと戻る。するとそこには取り残された皿を手に取るシレアの姿がある。
「いつもいつも質素な飯だな」
調理用の机に腰をかけ、パンを咀嚼する。その顔は不味いと言いたげに顔を顰めさせている。
「奴隷の中ではマシな方だぞ。感謝して欲しいぐらいだ」
文句を言うシレアの傍を通り抜け、自分の食事の分木皿にスープを注ぐ。そしてぶつくさ言いながらも、シレアは要求するように手を出してくる。
「ん」
ふてぶてしい。散々敵意を振りまく癖にこういう要求だけはいっちょ前にしてくる。
「ありがとうって言葉はダークエルフに無いのか?」
奴隷商はそう言いながら白い湯気を立てる木皿をシレアに差し出す。それを乱暴に奪い去っていくシレア、少しだけ奴隷商の手に熱いスープが当たる。
「奴隷主に感謝する奴隷がどこいにる」
そう言われたらそうだ。奴隷商も少しばかり考え違いをしていたらしい。
「まぁそれは確かに」
シレアは奴隷商を睨んだまま炊事場を出ていく。いつもの如く中庭で1人食事をとるつもりなのだろう。それを見送り奴隷商は今日はここで良いかと腰を下ろし、パンを切り分ける。
「いただきまーす」
長年の抜けない癖と共に食事を始める。今日は少しばかり味が濃くパンがいつもより進む気がする。そう遠巻きに響いてくる奴隷達の笑い声を背景に、1人奴隷商は黙々と食べる。
そしてまた1人の人間。それが炊事場へと現れ、それは水浴びをしたばかりなのか黒髪を滴らせている。
「私の朝ごはんは」
ハンナのその言葉に奴隷商は黙って鍋を指差す。どうやらこの時間まで素振りをしていたらしいが、この所いつにもまして無理をしているように見える。
「やりすぎだ。筋肉を休めるのも大事だぞ」
すれ違うハンナにそう言葉をかける。だが今度は拗ねたのか、顔を背け無視して木皿を乱暴に手にとる。そして乱雑に鍋を回して黄金色のスープを木皿へと注ぐ。
「別にこれぐらい普通だし」
カンと高く鍋が響く。そして黒髪を揺らしハンナはこちらを振り返りジッとこちらを見て来る。だがそんな強気に対して、目に見えてクマが酷くやつれている。流石にこれを放置してはまずいかと奴隷商は、渋々ハンナの望んでいるであろう言葉を贈ってやる。
「……お前は十分頑張ってる。だから休め」
だが、それが逆に良くなかったのだろう。ハンナは眉を吊り上げる。
「今更すぎ。それで喜ぶとでも思ってんの?」
手が震えている。怒りに悲しみに色んな感情が混じり合ったように、表情は複雑に苦しそうになっている。奴隷商が対応を間違ってしまったせいでもあるが、いつまでもこの調子で居られては困る。
「いつまでも拗ねるな。お前のそれは自傷行為だぞ」
奴隷商がそう強く言うのだが、目の前に広がるのは黄金色のスープ。それが宙を舞い奴隷商を包むように広がる。
「知った口をッ!!!!」
ハンナの言葉と共にやってくるそれを真に受ける訳にいかないので、奴隷商は咄嗟に手をかざし水魔法で水球を眼前に発生させる。それは奴隷商を守る様に影になり、黄金色のスープと混じり合う。
「子供の癇癪か」
一部肌に当たり赤くなるが、奴隷商は水球をそのまま水桶へと放り出す。そして目の前には髪を取り乱し大きく息を荒げたハンナの姿。
「別にもう仲良くなれとか言わん。それでも無理はするな」
奴隷商はジッとハンナを見下ろす。やはり年相応に小さく幼い。それに対して無理のある物を押し付けすぎたのだろうか。
だが、そのハンナは俯いたまま奴隷商を避け一歩を踏み出す。
「だから無理してないからっ!!」
バタバタと足音を立て炊事場から出て行ってしまう。今日はどうにも来客全てが面倒な様子らしく、朝から疲れてしまう。
「俺にどうしろってんだ」
いつまでも変わらない。いつまでも慣れない。奴隷商は深いため息と共に、残ったパンを口に入れさっさと後片付けをする。
そうしていきなり朝から疲れた今日は……終わる事無くまだ昼過ぎの事。いつものように訓練をし、今は実践手合いの途中。
何故か奴隷商はコンラートに手合いを申し込まれていた。
「……別に俺とやる必要は無くないか」
奴隷商は木刀を肩に当て突然挑んできたコンラートを見下ろす。だが、何か決意したようにその眼は強くこちらを見る。
「一回でいい。俺が勝ったら一つ言う事を聞いてくれないか」
今朝から様子がおかしいと思えば、また変な要求を。周囲の奴隷達の眼も集まってしまい、シレアまでも暇そうに縁に座りこちらを見る。
「じゃあ俺が勝ったらお前が隠している事を話してもらうぞ」
奴隷商が半分ブラフでそう言うと、分かりやすくコンラートの瞳は揺れ同様の色を見せる。だがそれでも良いと、木刀を強く握り直し一歩距離を詰めて来る。
「あぁ、それでいい」
奴隷商は肩を落としながらも中庭の真ん中へと赴きコンラートと対峙する。地面の様子を確かめつつ、コンラートの構えから視線を探る。だが奴隷商自身慣れない長刀だが、本職に勝てるだろうか。
そんな事を思いつつじりっと距離を詰める。
「……」
血気迫るとはこういう事なのだろう。明らかに殺す勢いの顔。下手に手を抜けばこちらが怪我しかねない。
小細工をしようとも思ったが、奴隷商は真っすぐ一歩を踏み出し手首を軽く捻り横薙ぎに首を狙う。それにコンラートは機敏に反応し、カンっと軽い音を立て木刀で受ける。
「攻めっ気が無いな。今日は」
奴隷商はそのまま距離をどんどんと詰め、木刀を振るう。だが流石にコンラートも騎士。どれも軽く弾き、いなしていく。
「━━ッ」
コンラートは形勢としては厳しくないはずなのに、常に苦しそうな顔をしている。何か迷うような葛藤するような集中しきれていないようだった。
「実践中に考え事か」
奴隷商は木刀がぶつかった瞬間に強く押し込む。これまで軽く小突いていただけだったからか、コンラートは対応が遅れ数歩分後ずさりしてしまう。
それでもなんとかコンラートは、奴隷商に押し返し鍔迫り合いになる。そこでやっと震えていた瞳が定まり奴隷商を捉える。
「すまん……本当にすまん」
その声は震えていて、言葉の意味も理解の出来ない物。だがそれはこの所のコンラートの違和感の答えのような気がした。
「謝るなら理由を付けてくれ」
奴隷商は下から押し上げ、コンラートをのけ反らせる。だがそこで隙を作らせないよう、コンラートはなんと片足で踏ん張り木刀を振り下ろす。
「っと」
流石に奴隷商も突っ込まず一歩引く。コンラートも体勢も整え腰を落として木刀を構え直す。奴隷商はすぐに駆け出し、上段から力を籠め振り下ろす。
「ぅらッ!!」
コンラートが両手で持った木刀で受けるがそれは強く沈み込む。奴隷商も本気で叩きこんだのだが、防がれてしまった。そしてコンラートは、決意しては迷いの繰り返しの中。唇を噛み強く言う。
「地獄に落ちる覚悟は出来ている」
そう言ってコンラートは鍔迫り合う木刀をいなすと、そのまま足払いをして奴隷商の体勢を崩す。
「やるようになったな」
この瞬間奴隷商の足は宙に浮き、眼前には地面が写り、振り上げられる木刀が迫る。何もしなければん面に木刀がぶちあたる。だが、それ寸での所で首をひねり避ける。
そのまま奴隷商が地面へと落ちるのは避けられないと、両手を地面につけ一瞬逆立ち、勢いそのまま股でコンラートの頭を挟んでしまう。
「んはッ!?」
コンラートは口元を覆われ目を丸くし動揺する。奴隷商はコンラートの首に足を絡めたまま体を起こし、そのまま地面へと叩きつけてしまう。
そしてコンラートを押さえつけ、股下にはその見開かれた緑眼がある。それに向かって奴隷商は木刀の切先を向ける。
「俺の勝ちだな」
すると、コンラートは諦めたように手で奴隷商の太腿をポンポンと叩く。
「負けだ。認める」
奴隷商はコンラートから離れ手を差しだす。それを握り返すことなく、コンラートは頭に草を乗せたまま起き上がり、顔に影を落とす。
「……で、約束だよな」
そう言ってコンラートは歩き出す。ついて来いと言う事なのだろうと、奴隷商も奴隷達に訓練を続けるよう伝えついて行く。そして何故か面白がっているのかシレアが奴隷商の隣に並ぶ。
「わざと隙を作っただろ」
シレアはそんな感想を抱いたらしい。奴隷商は木刀を木箱へと投げ入れ、コンラートに続いて施設へと入る。
「さぁ。俺は全力だったんでな」
三人分の足音が階段を登る。コンラートは沈黙したままこちらを振り返ろうとしない。だが、ふとシレアは長い耳を動かし、耳打ちをしてくる。
「来客だぞ」
「……?」
そう言われてもベルは鳴っていない。ここも道に面しているから勘違いしたのだろう。そう受け流していると、コンラートはある角部屋の前で止まる。
そしてその手はノブを握ったまま振り返る。
「……すまん」
「だから何を謝って━━」
そう奴隷商が言い切る前にコンラートはドアを開けてしまう。そしてそこにいるのは、隣にいるシレアと、よく似たダークエルフとイメージ通りのエルフの2人。
(というより見覚えが……)
あの時の暗殺犯だ。咄嗟に奴隷商の中に面倒事の予感が走るが、あちらのダークエルフも焦ったように目を見開き、ナイフを慣れた手つきで抜く。
「あの時のッ……!お前約束と違うぞ!!」
それに対してコンラートや奴隷商が反応する前に、隣にいたシレアが駆け出しそのダークエルフへと抱き着く。
「レイルベル様ッ!!」
奴隷商が説明を求めるようにコンラートを見る。だが、そのコンラートは顔を伏せたまま何も言わない。そしてその代わりに聞こえる、木の床を駆ける大勢の足音。
「お前……何をした」
コンラートは一歩引く。未だ一回も目を合わせようとしてこない。シレアの事も気になるが、何か嫌な予感がして奴隷商は振り返ろうとする。
だが振り返り切る前に大勢の足音は部屋の中に侵入し、奴隷商の頭は何者かに掴まれそのまま頬を床へと擦りつけられてしまう。
「━━ッ誰……」
奴隷商はなんとか自身の背中に乗るその人物を見ようとする。すると、それは見覚えのある眼鏡と垂れる銀髪の束。
「お前がここまでバカだとは思わなかったよ」
ぞろぞろと侵入してくる足音。それは奴隷商だけでは無く、シレアやこの部屋にいたエルフ2人。それへと向くが、シレアの叫び声が響く。
「私が時間を稼ぎます!!レイルベル様は早くッ!!!」
それと共に窓ガラスの割れる音と、差し込む冷たい風。状況が掴めない中、シレアが多対一の中大立ち回りする戦闘音。
奴隷商はゆっくりと眼球を動かし、目を逸らし俯くコンラートを見る。
「これがお前の正義か」
コンラートは何も言わない。そして代わりに答えるようクリスは、奴隷商の手を後ろに縛り口を開く。
「彼は彼の正義をしたまでだ。お前なんかよりもよっぽど尊い選択をした」
奴隷商は苛立ちと共にその男を睨み指でも噛み千切ってしまおう。そう歯を食いしばるが、クリスの手が首裏を掴む。
そしてクリスはレンズを光に反射させ、手に魔力を込めながらそっと言う。
「じゃあな。元親友」
そこで奴隷商の意識は真っ暗な意識に落ち、次に目覚めた時には薄暗い檻の中だった。




