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奴隷商の男  作者: ねこのけ
第三章
43/47

第43話 すれ違い


 今日はやけに帝都が騒がしかった。異族の奴隷が競り市から溢れ、露店で当たり前のように取引が行われ、戦地での略奪品らしきものを地面に並べる兵士の姿も多く見える。


 そんな中奴隷商は流れで仕方なく買ったダークエルフの奴隷を連れ、人混みを掻き分ける。そして路地裏に出て、建物と建物の間。差し込む光も少なく、水路に流れる水の音が良く響く。


「……歩くだけで疲れる」


 奴隷商は立ち止まり、少し休憩だと橋の手前に座る。そしてその手に持った鎖の先。真っ白な短髪をし、強く睨んでくるダークエルフを見上げる。


「お前。名前は」


 一応ぼろい布地だが羽織らせているとは言え、その間から見える元々の服装がかなり際どく目のやり場に困る。


 奴隷商は目を逸らし、水面から反射した光で揺らめく建物の壁を見る。だが、一向に返事は来ずこちらを睨む琥珀の瞳。そしてやっと口を開いたと思えば。


「蛇に首を噛まれて死ね」


 建物の間を風が通り抜ける。やはり風があると少し寒い。

 どうやらこの様子では人間という種族が嫌いらしい。まぁ戦争をしていたのだから仕方ないかと、思いつつ奴隷商は返事をする。


「随分限定的な呪いだな。ダークエルフの風習か?」


 どうにかコミュニケーションが取れないか試みる奴隷商。だがそのダークエルフは、相も変わらず顔を顰め睨み、鬱陶しそうにその鎖を引っ張る。


「黙れ」


 鎖を引かれ奴隷商の体勢が少し崩れる。


「っとっと」


 相手は奴隷だから奴隷商が命令をすれば名前を聞き出す事が出来る。だが、それをしては分かりやすく敵視され続けるのは目に見えている。やっとコンラートが大人しくなってきた頃合いなのだから、また問題を起こしたくない奴隷商は。


「そうかい。ちょっと買い出し行くから付き合ってもらうぞ」


 奴隷商は立ち上がり鎖を引くのだが、それはこすれ合いピンと張ってしまう。どうやらその場から動く気が無いらしいと、奴隷商は呆れながら振り返る。


「……飯食わせてやるから来い」


 すると案外現金な奴なのか、張られていた鎖は弛み、そのダークエルフは大人しく歩き出す。奴隷商は調子が分からなくなりつつも、胸にしまってある金貨の感覚を確かめながらまた道路へと出る。


「飯とタオルと……あと石鹸も買っておくか」


 このダークエルフを買うのに使ったとは言え、臨時収入がかなりある。この内に生活雑貨なり食料を買い込んでおきたい。そう奴隷商は露店を回りながらも、その抱えた紙袋は段々と重くなっていく。


「これ1個3ゴールドは高すぎじゃないか?相場もっと安いだろ」


 奴隷商の手にはやっと見つけた石鹸。廉価な物を扱っている店とはいえ、そもそもの商品の値が高い。


「ウチで高いってんなら諦めな。この帝都にここより安い所ないよ」


 奴隷商は紙袋の重さを気にしながら悩む。確かに5000ゴールドあるのだから使ってもいいのだが、これは大事な奴隷の仕入れ資金でもある。そう簡単に浪費して良い物でもない。


「……まぁしかし」


 奴隷商はそっと石鹸を置く。そして店主の眼を見て、金貨の入った麻袋を取り出す。


「これ10個まとめて買うから27ゴールドにしてくれないか?」


 店主の顔はしかめっ面のまま。だが、案外気前が良いのか。


「28なら良いぞ」


 そう言ってくれるので、奴隷商はすぐに金貨を支払い、また紙袋を重くする。もう少し買いたい物もあるが、これ以上は紙袋が耐えれそうにないと、道を歩きながら辺りを見渡す。


 そしてふと、良い匂いがしたと視線を向ければ、串焼きをやっている出店がある。何の肉かは分からないが腹の音が鳴り、奴隷商は後ろへと振り返る。


「昼。あれで良いか?」


 そう奴隷商が聞くが、ダークエルフは黙ったまま。また何か不機嫌になる事があったのかと困る奴隷商だが、そのダークエルフはその大きな紙袋を見る。


「……お前は奴隷商なんだよな」


 どうにも要領の得ない質問。その意図を計りかねながらも、すれ違う人と肩がぶつかりそうになり、体をよろけながらも奴隷商は答える。


「じゃなかったらお前を買って無いからな。なにかあったか?」


 そう聞き返すが沈黙のままそっぽを向いてしまう。どうにも会話のテンポを掴めないが、気にしていても仕方ないと鎖を引き歩き出す。


「不満が無いなら飯あれにするからな」


 そうして雑踏を踏み分けその屋台へと向かう奴隷商。ダークエルフは流石と言えば良いのか、この人混みでも足並みを崩さず黙々とついてくる。


 そうして屋台を前にして、奴隷商は指を4本立てる。


「旦那その串4本くれ」


「あいよ~」


 先ほど金貨から崩しておいた銀貨を支払い、その出来上がりを待つ。その待ち時間で気付くが、どうにもダークエルフは珍しいのか往来の視線を集めている。


「……まぁ競り市でもあんまり見なかったしな」


 そもそもの数が少ないのかは知らないが、確かに見慣れない外見であるのは事実。


 そんな中、往来の中からある男が話しかけて来る。


「それあんちゃんの奴隷かい?」


 肉の焼ける良い匂いと、タレの焦げる香りがしてくる。


「そうだな。競り市に行ってな」


 するとその男は同業者だと、手のひらにある奴隷主の紋を袖を捲り見せて来る。そう言われればどこかで見た事があるような顔だと、奴隷商も馴染が湧いてくる。


 そしてその同業者は馴れ馴れしくも奴隷商に歩み寄ってくる。


「俺は今から行こうと思ってな。どう相場?」


 奴隷本人の前でこういう話をするのもあれだとは思うが、同業者を無下にする訳にはいかないので、奴隷商は相手をする。


「全体的に値上がりが激しいな。足元見られている感もあるから即決は避けた方が良いかもしれん」


 そもそもここまで異族の奴隷が市場に流れる事は初めて。所謂過熱状態にあるとも言えるからとの発言で、その同業者も同じような事を想っていたのかうんうんと頷く。


「内務卿閣下のせいで奴隷価格に下限が出来ちまったしやっぱそうかぁ」


「あぁまぁそれもあるだろうな」


 そんな会話をしていると、串が焼き終わったのか屋台から快活な声が聞こえてくる。


「焼けたぞ!並んでるから早く捌けてくれ!」


 奴隷商はすぐに串を受けとり、道路わきの少し空いたスペースへと移動する。すると、まだ話したいらしく同業者も付いてくる。


「にしてもあんたも物好きだねぇ。こんなエルフの亜種を買うなんて」


 同業者が奴隷商の持つ鎖の先を見てそう言う。そしてそう言われた本人は明らかに不愉快そうに、眉を顰め同業者を睨むが。


「こいつは調教大変じゃねぇか?種もそうだが、こいつ個人でも気性荒そうだし」


 同業者は飄々とその視線を無視する。所詮は奴隷相手で気を遣う必要が無いからだ。そしてまるで自慢をするかのように指折り数える。


「俺ン所は、今月だけでも奴隷3人死にやがってよ。反抗してきたからちょっと躾けたらこれだよ。安物買いをするもんじゃねぇな」


 人を3人殺したとは思えない笑顔。ここまで振り切っているのは奴隷商の中では珍しくなく、それこそ一々奴隷の死に感傷に浸っていたらこんな商売してられない。


「利益出るのか?それで」


 ある程度は丁寧に奴隷を扱うのだと思っていたが、どうやら同業者らの常識ではないらしい。そうその男は手をヒラヒラとさせ否定する。


「いやいや3桁で奴隷持ってるからな。いい見せしめぐらいになったさ」


 中堅ぐらいの業者だったかと奴隷商は思いながら、手に持った4本の串の内2本をダークエルフへと手渡す。何も意識していない行動だったが、同業者はそれを不思議そうに見て来る。


「お前も奴隷にそんな物食わせるってことは、それなりに儲けてんのか?しかも異族相手なんかに」


 ダークエルフは食べて良いのか困惑しているのか、木串を握ったまま固まっている。


(いや……というより)


 その眼は明らか同業者を殺す勢いで睨んでいて、串を武器と捉えていそうでもあった。少しばかり暴走しないか警戒しつつも、奴隷商は同業者との会話を続ける。


「全くの零細だよ。ほら商工局の公認商人」


 奴隷商は商工ギルドの会員証を見せる。すると珍しい物を見たと言いたげに、同業者は目を丸くする。


「あぁ貧乏くじの。前の龍人騒ぎ災難だったな」


 すぐに奴隷商の素性がバレてしまった。まぁ隠す気は無かったが、案外同情的な反応に少し驚く。


「何も思わないんだな。未だに街で偶に石投げられるんだが」


 奴隷商は腕に出来た青あざを見せる。だが同業者は顔色一つ変えず、辺りの雑踏を見回す。


「龍人なんざどうでも良いからな。たたお国に商品を取り上げられて、同じ事されないか同業者としては戦々恐々としただけ━━」


 そう言った同業者の眼前に、ふいにダークエルフの手に持っていた木串の先端が伸びる。まさかとは思っていたが、流石にやばいと奴隷商は喉元に魔力を込める。


「止まれッ!」


 するとダークエルフの腕はピタリと止まり、同業者は冷や汗と共に表情筋を引きつらせる。そして奴隷商へとその眼を向けて来る。


「……ヤバいの掴まされたらしいな」


「あんたが買ってくれてもいいんだぞ」


 同業者は遠慮気味に首を振る。ダークエルフは未だその眼球を貫こうと腕に力を込めているらしく、プルプルと震えているのが見える。


 そして同業者は息と服装を整え背筋を伸ばす。


「……遠慮しておく」


 そう言って同業者は去り際に、焦りから嫌悪の感情を滲ませ、そのダークエルフを睨む。


「獣の分際で調子に乗りやがって」


 同業者はその肉のついたままの木串をはたき落とし、靴で踏んずけて雑踏に消えてしまう。どうにも怒らせてしまったらしいが、大丈夫だろうか。


 そう思いつつ奴隷商は、その木串を拾う。そして自身の木串を代わりにダークエルフへと差し出す。


「これは暗器じゃないんだ。大人しく食事をしろ」


 流石にこの砂利まみれの肉を食べる気にはなれないので、帰ったら黒猫の餌にでもしようかと考える。そして良い時間だと歩き出そうとするが、また鎖は張り引っ張っても動かない。


「なぁ、頼むから言う事は━━」


 振り返ればジッと肉串を眺めるダークエルフ。もしかしてそれで今度は奴隷商を殺しに来るのではと思ったが、その足は一歩踏み出す。


「……シレアだ」


 そう言って歩き出してしまう。それが何を意味するのかが分からず奴隷商は続いて隣に歩き出し、ダークエルフへと問う。


「……今の名前か?」


 どうにもこのダークエルフの調子が掴めず会話に苦戦するが、そしてその琥珀の瞳はジッとこちらを睨む。


「それ以外あんのかよ」


 肉串で名前を教える気になったのか。それは分からないが、どうやら数時間越しに名前を教えてくれたらしい。


「……わっかんねぇ」


 そう呟きながらも奴隷商はシレアを連れ帰路へと就く。人混みで相変わらず歩くだけで疲れるが、中心部から離れ段々と人がまばらになる中。


 ふと今日何度目かの客引きに腕を掴まれる。


「兄さんちょっと商品見てかない?」


 フードに顔を隠した女の声。その指を指す先には宝石商なのかアクセサリー類が並んでいる。


「すまんが金が無い。他を当たってくれ」


 慣れたように断ろうとする奴隷商なのだが、その客引きの腕を引っ張る力は想定外に強く店先まで連れていかれてしまう。


「安くしとくからさ。ね?これとか」


 差し出されるのは水色に透き通る宝石があしらわれたネックレス。正直奴隷商にこんな趣向品を買う趣味も余裕も無いのだが。


「これ3シルバーでいいからさ。買いなよ」


 やけに押しの強い客引き。顔も隠していて怪しさがあふれ出ている。奴隷商は買う気は無いと示すように強めに言い返す。


「盗品だろ。早く処理したいから売りつけたいとかそんな所で」


 奴隷商がそう言うと客引きは固まる。シレアは興味なさげにそっぽを向いて話すら聞いてい無さそう。


 だがそう奴隷商が視線を逸らした隙に、客引きは無理やりそのネックレスを首へとかけてくる。


「まぁそんな固い事言わないで。ほらお客さん似合ってますって」


 ここまでの押し売りは初めてで奴隷商も対応に困る。


 ただふと冷静にその宝石を覗く。これが3シルバーとなれば転売をするだけでも儲けが出そうなレベル。そう考えてしまうと、奴隷商の貧乏性な所が出てきてしまう。


「……足はつかないだろうな」


 奴隷商はそう言いながら財布から小銭を差し出す。そして取引が出来たと満足そうにする客引き。


「つきませんって。いい買い物ですよ~」


 奴隷商がふと気になりその顔を覗こうと、体を屈めようとするが、その前に客引きは背中を向けてしまう。ここまで徹底しているとなると、殆ど盗品でしかないと疑念が確信になりそうになる。


 だが一つ買ったならと、奴隷商は店頭に並んだ宝石を眺める。


「他も同じような値段なのか?」


 そう聞くとその背中は止まり、少しだけ声が低くなる。


「誰かに贈る予定でも?」


 ここまで安くてこの出来ならそれなりに使い道がある。奴隷商は琥珀をあしらった指輪を掴む。


「まぁ贈答用に持っておいても困らないしな」


 奴隷商はいくつか手に取りその品位を確かめるように眺める。ただ何も知識が無いので、反射して綺麗ぐらいの感想しか湧いてこないが。


 そう思っていると、その客引きは声色を強める。


「1ゴールドで」


「は?」


 まだ金をむしれると思ったのか値上げをしてくる客引き。盗品だとしても、この値段で売るには勿体ないと感じ始めたのだろう。


「それはサービス。あとは1ゴールドから」


 どうしようか悩むが、1ゴールドだとしてもかなり割安。普段の奴隷商の懐具合なら絶対に手を出さない値段だが、この所世話になった官吏や貴族がいることも考え。


「じゃあ5つほど買う。それで良いだろ」


 奴隷商は色を付け7枚の金貨を置く。すると出すとは思っていなかったのか客引きは動揺したように、その金貨を掴もうとしては離す。


「え、いや……本当に買う……?」


 良く分からない女だと思いつつも奴隷商は頷く。そしていくつかよさげな物を手に取り紙袋の中へと丁寧にしまう。


 それを名残惜しそうに眺めて手を伸ばそうとして、それを抑える客引き。


「あー……いや……まぁ……うん……仕方ないか」

 

 もう少し値段を吹っかければ良かったと後悔しているのだろう。奴隷商はそう認識しつつ後ろに振り返り、琥珀の指輪をシレアへと投げる。


「ほら。やるよ」


 シレア全く話を聞いていなかったらしいが、それでも蚊を払うようにバシンと指輪を受けとる。


「なんのつもりだ」


 奴隷商は相変わらずの敵意の籠った視線に辟易としながらも、腰に手を当てる。


「これやるから他人に危害加えるなよ」


 魔術的な意味のある行動。奴隷相手に物を対価に命令をすれば、魔力を使わなくとも言う事を聞かせられる。ただその対価となる物が高価じゃないと意味が無いから、奴隷商には無縁の物だったが。


(成立したってことは本物か)


 魔力的な繋がりを感じる。そしてシレアは困惑しつつも、貰える物は貰うつもりなのか、その指輪を指に嵌め、一応の返事をしてくる。


「……分からん奴だな」


 そしてそんな魔術的な意味を客引きも知る所だったのか、苛立ったような貧乏ゆすりが背後から聞こえてくる。奴隷商は少し申し訳なくなりつつも軽く手を挙げる。


「じゃ良い取引だったってことで」


 フード越しでもその表情は怒っているのが伝わる。だが何か言ってくる訳でも無く顔を伏せたままなので、奴隷商は鎖を引いて歩き出す。


「今日はツイてるな」


 プレヴァルの1件はどうなるかと思ったが、結果だけ見れば嫌疑は晴れ臨時収入があり、こうやって格安で仕入れも出来た。この所の不運が振り払われるような幸運が重なっている。


 そう奴隷商は視界端に写るその琥珀の指輪を見ながら、施設へとまた歩き出す。そしてそれ以降は何事も無く、施設のぼろい扉を開けることになる。


「……騒がしいな」


 ドタドタと2階から聞こえる走る足音。それに普段出迎えをするような連中ではない、奴隷らが奴隷商らの前に立つ。


「それ持ちますよ!」


 エリックが気持ち悪いぐらいの笑顔でそう両手を差し出してくる。いつもは帰ってきても舌打ちで返事するのがせいぜいだったというのに。


 奴隷商は気味が悪くなりながらも、それを手で振り払う。


「気持ち悪いからやめろ。あとこれ新しい奴隷だから部屋と服の用意頼む」


 そう奴隷商は鎖を引いてシレアを施設の中へと招き入れる。すると入って早々シレアは嫌悪の籠った声で、奴隷商に言う。


「ガキばかりじゃないか」


 シレアの眼は強く奴隷商を睨む。だが、それが自分の仕事だから仕方ないと無視をするのだが、やけにエリックら奴隷達の様子がおかしい。


「そんな固まってどうした。アリシアもいたんだからダークエルフなんて今更だろ」


 自分の中でアリシアの事が、こうも簡単に気持ちの整理を付けられている事に嫌気がさす。だが、それを気にしても仕方ないと、振り払い目の前の奴隷を見るのだが。どうにも驚愕の色というか、焦りの色が濃かった。


「えっ……と……エルフ……なんですね?」


「だからそう言ってるだろう」


 どうにもソワソワする奴隷達。シレアはどこ吹く風だが、奴隷商はエリックらを押しのけ窓から中庭を覗く。そこには相変わらず1人で素振りするハンナの姿だけがある。


「コンラートはどこだ」


 振り返ってエリックらに問いかけるが誰も返事をしない。どうにも怪しいと言うか隠しているような雰囲気。奴隷商は足音のしていた二階を見上げ、ため息を零す。


「また何かしてんのか……」


 奴隷商がそう呟き階段を登ろうと木の床を軋ませるのだが、咄嗟に間を遮るのは少し汗ばんだクロエ。その胸にはいつの日かのペンダントがかけられ、久々にその声を奴隷商は聞く。


「まず昼飯じゃない?買い出し行ったんでしょ」


 クロエは奴隷商の紙袋を指差す。だが、奴隷商はそのクロエのペンダントを見ながら、呆れと疑いの混じった声色で答える。


「お前も随分久々に話しかけて来るな」


 ペンダントの1件でかなり嫌ってきていたクロエ。それがこうしてまで止めて来ようとすれば、怪しんでしまうのも仕方ない。


 そう奴隷商はその紙袋をクロエに押し付けるように渡す。それの重さでふらつくクロエを避け、奴隷商は階段の一段を踏む。


「じゃあ昼飯は任せる。俺は2階に行く」


 どうにも怪しすぎる。だからと奴隷商は無理やり行こうとするのだが、タイミングよく階上から息を切らし現れるのはコンラート。


「どうした!?」


 そう聞きたいのは奴隷商の側だが、姿が見えたなら良いと見上げる。


「何してた。2階で」


 するとその手には干してあったはずのタオルが握られており、それを奴隷商へ向け掲げて来る。


「ちょ、ちょっと風に飛ばされちまってな。はは……いやぁすまん」


 そう言って笑いながら降りて来るコンラート。全く慌ただしい奴だなと思いつつも、そう言う事なら良いかと、奴隷商は上げかけていた足を下ろす。


「そうか。それとあれが新しい奴隷のシレアだ。喧嘩すんなよ」


 奴隷商はそれだけ言うと、クロエに預けていた紙袋を取り返して、炊事場へと歩き出す。するとコンラートもシレアを見てエリックらと同様に困惑をする。


「え、あ、エルフか……?」


 そこまでエルフで驚くものなのかと思いながらも、奴隷商は気だるげに返事をする。


「そうだ。とりあえず飯作るから手伝え。あとエリックは部屋の用意忘れんなよ」


 シレアは相変わらず会話をする気が無いのか、自分の話題になっても壁にもたれ掛かってどこ吹く風のまま。それどころか人間嫌いなのか、コンラート達を睨んでるようにも見える。


 それを視界端に入れ、奴隷達の動揺を感じ取る。


「……また面倒になりそうだな」


 首にかけた水色の宝石をあしらったネックレス。それを確かめながらも、曲がっていた腰を伸ばし調理を始めるべく、気分を切り替えるよう腕を捲る奴隷商だった。

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